62 乙女の涙、少女の祈り 5
アオイくんを斬って刺して傷だらけにしやがった
しかも顔に傷まで付けやがった
アオイくんは女の子だぞ?
何してくれてんだこの野郎!
回復薬で傷は治せるがうっすらと跡が残ることもある
エリクサーとか超級回復魔法なら消せるけどな
だがそういう問題ではない!
俺は感情を隠せない、隠さない
そのせいでアオイくんを恐がらせてしまった
あとで謝っておこう、ポチャにも
でも今はそんなことどうでもいい
こいつだけはぶっ飛ばす!
「おいクソ騎士、俺が相手になってやる」
「私はマーデラ、クソ騎士ではありませんよ」
「知るか! てめぇはクソ騎士で充分だ!」
「やれやれ、本当に知能の低い冒険者ですね」
「おう、低いがどうした!」
「開き直りですか?」
「お前をぶっ飛ばすのに知能の高さなんか関係ねえ!」
やれやれと言った感じで剣を構えるクソ騎士
「仕方がないので貴方から嬲り殺してあげましょう」
「やれるもんならやってみろ」
クソ騎士が斬り付けてくる
身体強化で速さも底上げしているから余裕で躱していく
「ほう、思ったよりやりますね
ですがアオイさんよりは遅いです」
ベキィッ! 「うぐっ!」
「きたねえ口でアオイくんの名前を呼ぶんじゃねえよ」
負傷している右肩へ左フックを撃ち込む
「拳の速さはありますね、見えませんでした」
痛いはずだがお構いなしに剣を薙いでくる
感覚がマヒしてんのか?
「彼女は私を殺せなかったんですよ
貴方は私を殺せますか?
人を殺すことができますか?」
楽しそうだなこいつ
なるほど、殺すこと殺されることに執着しているのか
たしかにアオイくんが戦いづらい相手だな
でもそれでいい、アオイくんは人を殺さなくていい
「殺せねーよ、殺したくもない!」
「貴方もですか、残念です」
右肩からは血が流れている
それでも剣を振り続ける
やっぱ狂ってやがる
「その剣、邪魔だな」
ガキィン!
クソ騎士の剣と俺の銀の短剣がぶつかり合う
ググッと押してくる、だがそれが俺の狙いだ
「決壊死!」
クソ騎士の剣が黒い霧になって消滅する
「何っ!?」
驚くクソ騎士、その隙を俺は見逃さない
「サンダーランス!」
雷の槍がクソ騎士の左肩を貫通する
貫通時に身体中に電気が走る
「ぐわああっ!」
さすがにクソ騎士も苦しそうに悶絶する
痺れて動けなくなっている
踵を返してアオイくんのところへ行く
「ケガは? 傷は? どこかまだ痛むか?」
「えと、あの、その、大丈夫です!」
「ああごめん、慌て過ぎだよな」
心配で矢継ぎ早に聞いてしまった
落ち着きのないおっさんでごめん
「回復薬のおかげで良くなりました」
「でも跡が残ってないか見せてくれ」
「へ、は、はい?」
頬の傷跡が残っていないか顔を近付けてよく確認する
よかった、跡が残っていない
俺はホッとした
あれ? アオイくんの顔が赤い
「大丈夫か? 熱でもあるんじゃないのか?」
「だ、大丈夫でふっ!」
「落ち着きなさい、どうしたアオイくん」
「い、いえ、、、」
アオイくんはとりあえず大丈夫そうだ
「シシリーは連れて行かれたみたいだね」
「はい、あの通路に入って行きました」
「アオイくん、疲れているだろうけど一緒に行こう」
「はい」
ビュン!
クソ騎士がクナイを拾って飛ばしてきた
気付くのが遅れた!
バクン!
だがポチャが飛んできたクナイを横から口でキャッチ
フリスビーがここで活きるとは思わなかった
「ポチャ、サンキュー」
「ほめてー♪」
「あとでな」
「がーん」
ごめんな、それどころじゃないんだよ
「犬にまで邪魔されるとは思いませんでしたよ」
「お前タフだなあ」
痺れていたはずなのにもう回復しやがった
「その男も回復薬を持っています」
「なるほど、それは考えていなかった」
「私を殺さない限り何度でも殺しに行きますよ」
シシリーを助けに行かないといけないのに鬱陶しい奴だ
「ポチャ、アオイくんと一緒にシシリーのところへ行ってくれ」
「うん!」
「ケンタ殿、気を付けて下さい」
「大丈夫だ、こんな奴とっととやっつけてすぐ行くよ」
「そう簡単にはいきませんよ、殺せないのでしょう?」
「そうだな」
ポチャとアオイくんはシシリーのところへ向かった
ここには俺とクソ騎士だけだ
「剣も消えたし俺がそれなりに強いってのはわかったよな?」
「ええ、強いですね、ですが私を殺せない
剣だってもう一本ありますよ」
腰にもう一本あった
多分回復薬もまだ隠し持っているだろう
殺さない限りこいつは襲ってくる
「なあ、少しだけ確認させてくれ」
「何ですか? 余裕ありますね、面白い人だ」
「お前は生きている限り殺すことをやめないんだよな?」
「そうですよ、やめられませんね
貴方と彼女も殺すまで付きまといますよ」
「アオイくんを傷付けたよな、楽しかったか?」
「変なことを聞きますね? ええ、とても楽しかったですよ
残念なのはあと少しで殺せそうなのを邪魔されたことですね」
「そうかよ」
アオイくんを傷付けて楽しかったと本気で言っている
殺せなかったことを本気で残念がっている
殺すことをやめられない、やめる気がない
こいつを止めるには殺すしかない
しかしアオイくんも俺も殺すことはできない
だけど俺はアオイくんにあのとき言った
「アオイくんに殺さなくっていいって俺は言った」
「それは彼女に無抵抗で死ねと言っているようなものですよ」
「たしかに殺さなければならないときが来るかも知れない
さすがに無抵抗は無理だからな」
「そうですよ、殺すしかないのですよ」
「でも俺はアオイくんに誰も殺させない」
「でしたら彼女が殺されるのを黙って見ているしかないですね」
冷ややかな目で嗤うクソ騎士
「俺も殺したくない」
「堂々巡りですね、もういいですよね?」
クソ騎士がうんざりして剣を構える
「だから俺はアオイくんに言ったんだよ」
間合いを詰めて横薙ぎをしてくる
「そんときは俺が代わりにやってやる、ってな」
バゴン! 剣が砕け散る
「な、何をした!?」
俺は剣を素手で受け止めてクラッシュで破壊する
おかげで左手が少し斬られた
「アオイくんが殺さなければいけないのなら
俺が代わりにやってやるって言ったからな
だから俺がお前を殺してやる」
クソ騎士を殺す覚悟をする
人を殺す覚悟をする
アオイくんが苦しむぐらいなら俺が苦しめばいいだけだ
「私を殺す? 人を殺すことに抵抗があるのでしょう?」
「あるけど、やれるさ、その覚悟はできている」
クソ騎士を静かに見据える
「・・・・・・・ふ、ふふ、ふふふ」
クソ騎士が嬉しそうに嗤う
「ならば、やって下さいよ! ほら、私は抵抗しませんよ♪
ですができなければ今度こそ嬲り殺してあげますからね!!」
心底楽しそうに嗤いながら両手を上げるクソ騎士
俺にできるわけがないと思っているのかもな
「あばよ、クソ騎士、マーデラ」
ドシュッ!
「が、、はっ、、、」
血反吐を吐くマーデラ
ブラックホールを右手に纏わせ手刀で心臓部を貫いた
そのまま仰向けで倒れるマーデラ
「なんだ、できるじゃあないですか、、、
おめでとう、、、 そして、、、 ありがとう、、、、、」
マーデラは嗤いながら死んでいった
本当に殺されることすら楽しいんだな
疲れた、、、、、
だけどまだ終わっていない
シシリーを助けに行かないとな
俺は気合いを入れ直す
「お兄さん、アオイさんとシシリーさんは?」
アンナと男爵様と私兵たちがやって来た
パトさんとリディアも一緒だ
「パトさん、リディア、大丈夫なのか?」
「おかげさまで全回復致しました」
元気だなパトさん
「私も大丈夫です
シシリーを助けに来たのに落ち込んではいられません」
本当に大丈夫そうだ
芯はしっかりしているからなリディアは
男爵様がマーデラの死体を確認する
「この騎士は、ケンタさんが?」
「そうです」
「お兄さん・・・・・」
アンナが心配そうに俺を見る
俺が人を殺すなんて思ってなかっただろうな
「アンナ、心配すんな、俺なら大丈夫だ」
怒るかも知れないが頭を撫でてやる
でもアンナは怒らない
俺を案じて好きにさせているのだろう
ありがとうなアンナ
「状況は後で説明する、今はシシリーだ
ポチャとアオイくんが先に行ってくれている
俺も今から行くから」
「私も行きますよ」
「アンナは万が一に備えてリディアたちといてくれ」
「・・・・・わかりました」
ごめんな、心配かけて
俺はシシリー救出に向かう
サスケはシシリーを追う
後ろからチンピラ共が追いかけてくる
だがサスケの速さに追い付けない
サスケを見失ったチンピラたちは地下牢のところへ戻ろうとする
その背後から背中を爪で引っ掻かれる
「いてっ! う、、、」 バタン
次から次へと背中を引っ掻いていくサスケ
引っ掻かれたチンピラたちはバタバタと倒れていく
サスケの能力 <魔爪>
爪に魔力を流して引っ掻くと相手は意識を刈り取られる
死ぬわけではなく気を失うだけである
薄暗い地下なので黒い身体は隠しやすい
気配を消して俊敏に動けるサスケには戦いやすい環境であった
(男爵様たちが来たら捕縛して下さるでしょう)
サスケは倒れているチンピラたちを跡にして再び追走を始める
(追いつきました)
サスケはシシリーを引っ張っている騎士に飛び掛かる
「うわっ、こいつどこから!?」
音もなく襲われたので驚く騎士
鎧が邪魔で魔爪が使えない
魔爪は直接身体(胴体部分)を引っ掻かないと効果がない
俊敏に動き騎士たちを攪乱する
援軍が来るまでの時間稼ぎをすることにしたサスケ
(そうだ、伯爵は鎧を着けていないから魔爪が通りますね)
伯爵を襲うサスケ
だが騎士たちに阻まれる
(やはり時間稼ぎしかできませんか)
サスケは再び時間稼ぎに徹するのであった




