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愚者の楽園に転移したけどまったく問題ない  作者: 長城万里
2 永遠の混沌

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61 乙女の涙、少女の祈り 4

剣の腕前はたしかに見事です

動きにも無駄がなく技も豊富

この人が強いのはよくわかりました


「それだけ強いのにどうしてあのような伯爵に仕えているのですか

 その腕前なら充分騎士として大成できるでしょう!」


「ああ、勘違いしていますねアオイさん

 伯爵様に仕えているわけではありませんよ

 私は伯爵様を利用しているだけです」


「利用?」


「騎士は民を守り国のために動く立派な仕事です

 私もリセンス家の誇りを持って務めさせていただいています

 ですが私は人を殺すことが大好きなのです」


そんなカミングアウトされても困ります


「初めての戦場で初めて人を殺しました

 私も最初は人を殺すことに躊躇いはありましたよ

 でも殺していくうちに昂っていくことに気付いたのです

 それで私は人を殺すことが好きなのだと自覚致しました

 それからはもう止められません

 戦場から帰っても人を殺したくて殺したくて

 これでも最初は我慢していましたよ

 ですが我慢の限界が来て夜中に浮浪者を殺しました

 それからは定期的に殺しをするようになりました

 さすがに嫌疑が掛かりそうになりました

 そこで伯爵様から手駒としての誘いをいただいたのです

 死体の処理、隠蔽などやってくれました

 代わりに私は駒として動いてあげているのですよ

 そして私に玩具も与えて下さると言う大盤振る舞い」


「玩具?」


「私が自由に嬲り殺せる相手をたくさん用意して下さいました

 捨て駒として役に立たなくなった者がほとんどですけど

 たまにどこかのお嬢さんをいただくこともありました

 ああ、私はいやらしいことはしませんよ?

 嬲り殺すこと以外興味ありませんから」


酷い、悪伯爵も酷いがこの男も酷過ぎる


「まさに外道ですねあなたたち」

「ふふ、褒め言葉として受け取っておきましょう」


褒めてないです


「玩具のおかげで外での殺しはなくなりました

 理由付けがある殺しはしてますけどね」


理由があろうがなかろうが殺すな!

わたしは剣を弾いて左肩にクナイを突き刺します


「っ! 痛いですね、でもいいですよ

 殺し合いをしている感じがしてとてもいい」


一瞬怯んでしまった

剣を戻して薙いでくる

間一髪躱して後退する


「やはり速いですね、これは私が一方的に殺されるかも」


楽しそうに言う

殺すことも殺されることもわたしはイヤだ

でもこの人はどちらも楽しんでいる

わたしの心の中でわずかに何かが湧き上がってくる


「さあ遠慮せず私を殺しなさい!

 ()らなければ私が貴女を()りますよ」


何の迷いも躊躇もなく純粋に命を奪いに来る

さらに心の中で湧き上がってくる


ダメ、怯んじゃダメだ!


「わたしは絶対に殺さない!」

「頑固ですね、いつまでそう思っていられるのやら」


大丈夫、剣筋は見えている

速さは圧倒的にわたしが上だ

だから殺さなくても倒せる!


持てる全速力で動き両足のふくらはぎにクナイを突き刺す

ガクリと膝をつくマーデラ


「終わりです」 ガスッ!


うなじをクナイの柄で突く

うつ伏せに倒れるマーデラ


「ぐ、ぅ、どうしました、私はまだ生きていますよ

 (とど)めを刺さないのですか?」


「殺しません、生きて罪を償って下さい」


「ああ、そうか、貴女、殺さないんじゃない、殺せないのですね

 誰かを殺して、その恐怖に耐えられないから、、、」


一瞬身体が凍り付きました

そのとおりです、当たり前です、耐えられるわけがありません


「思い出しました、カフェで気を失っていましたよね

 なるほど、それは誰も殺せませんね

 でしたらもう遠慮することはありませんね」


倒れている人が何を言っているのですか?

まあいいです、もう何もできないでしょう

両足は立てないでしょうし、剣も遠くに蹴り飛ばしましたから

あとは捕縛するだけです


ドスッ


近付こうとした瞬間、わたしの左足に何かが刺さりました


「い、ぐ、うあっ!」


痛みでわたしは膝をついてしまいます

左足太腿正面にクナイが刺さっています

何で? これ、わたしのクナイ、、、


ハッとしてマーデラを見るとふくらはぎのクナイが無い

そうか、抜いて投げたんだ


でもあなたは両足負傷で立てないでしょ

わたしは片足があるからクナイを抜いてなんとか立ち上がる


同じくゆらりとマーデラも立ち上がる


「な、んで、、、」


「お強いのにとても甘い方ですねアオイさん

 相手に回復の隙を与えてくれるとは」


マーデラが倒れていたところに回復薬の小瓶が落ちていた


「く、いつの間に」


「アオイさんは強そうだったから期待していたのですよ?

 私を殺してくれるかも、殺されるかもと楽しみにしていました

 ですが無理ですね、貴女は誰も殺せないとわかりました」


とても冷たい眼差しが突き刺さる

心の中から湧き上がるものが一段と大きくなった


「私の楽しみは殺し合いをすること、命の奪い合いをすること

 もしくは、一方的に嬲り殺すこと、です」


「・・・・・・・・・・・・・」


「殺し合いができないと言うことはよくわかりました」


心底残念そうにため息をつくマーデラ


「ここからは一方的に嬲らせていただきます

 楽には死ねませんから覚悟して下さいね」


残酷な冷めた眼差しで、どこか楽しそうに嬉しそうに(わら)


・・・・・・・・・・ 怖い


心の中から湧き上がってくる「恐怖」


恐怖が止め処なく湧き上がり溢れ返る


もう隠せない、身体中が恐怖に支配される


ドスッ!


「あああっ!」


右肩にクナイを突き刺される

恐怖で身体が動かず避けられなかった


ドカッ!


「んぐっ!」


思いっ切りお腹を蹴られて飛ばされ転倒する


ダメ、早く立たないと、、、


恐怖と痛みで思うように身体が動かせない


その間に剣を拾い上げるマーデラが見える


「本当に残念です、楽しく殺し合えると思いましたのに

 ですが嬲るのも楽しいですからこれはこれでいいでしょう」


マーデラの言うとおり、わたしには誰も殺すことはできない

殺したいなんて思えない、殺されたくもない

甘いのだろう、でも無理なものは無理だ


ガッ! 「!!」


顎を蹴り飛ばされる

仰向けで倒れた状態になる


ギュ 「ぐぅ、、、」


お腹の上を踏み付けられる


「さて、どこから刺してあげましょうか」


嫌だ、怖い、やめて、助けて、、、 涙が出てきた


「はあ、期待外れもいいとこです、残念です」


ザスッ! 「うああっ!」


右足太腿に剣が刺さった


いたい、痛い、イタい、、、


ズボッ! 「うぐっ!」


剣を乱暴に抜かれた

血がいっぱい付いている


そのまま左肩を突き刺される


「ーーーーーっっっ!!?」


もうまともな悲鳴すら上げられない

頭の中は恐怖と痛みと苦しみでいっぱいだ


「いいですね、恐怖と苦痛に歪む顔

 もっと苦しめてあげましょう」


スゥッと軽く左頬を斬られる

続けて右頬も斬られる


意識が飛びそうだけど痛みで飛ばない


助けて、、、 誰か、、、


「た、すけ、て、、、」


「懇願ですか? 助けなど来ませんよ」


そう言って左手を押さえられ手の平ごと地面に剣を突き刺された


「ぎ、、ぃ、、、っっ、、、」


痛いっ、やめて、痛い、止めて、イタい、ヤメテ、苦しいっ

イタイっ、イヤだ、イタイ、死ぬ、いたい、死にたくないっ

いたい、いたい、いたい、いたいぃっ、、、、、


たすけて、たすけて、、たすけてっ、、、!




「たすけてっ! ケンタどのっ!」




真っ先に助けに来て欲しい人の名前を叫んだ


きっと届かない想い


きっと叶わない願い


きっと伝わらない切なる祈り




「だから無駄だと言うのに」




「おう! 任せろ! ストーンランス!」 ドシュッ!


「ぐおっ! なんだ!?」


土の槍がマーデラの右肩を貫く

その勢いでわたしから引き剝がされるマーデラ

握っていたので剣も抜ける




「遅くなってすまん、アオイくん!」




来てくれた、一番助けに来て欲しい人が来てくれた


想いが届いた


願いが叶った


切なる祈りが伝わった




「ケンタ殿っ!」








俺とポチャは地下二階を進む

敵は一人もいなかった


どうやら一階フロアと地下一階、三階に集中させているようだ

探索マップで地下は三階までと把握できている


シシリーは少しずつ移動している

バカ伯爵が連れて逃げようとしているのだろう


地下三階にはアオイくんと誰か一人がいる

多分敵の一人と戦闘中だな

アオイくんなら倒せると思う

でも相手が一人ってのが気になった

一人でアオイくんと戦える自信のある相手とも考えられる

嫌な予感がするので急ぐ


階段を下りるとき苦しそうな呻き声が微かに聞こえた

そして地下三階に入って、その光景に固まった


アオイくんが倒れていて腹の上に足をのせている男

そいつの剣がアオイくんの左手を貫いていた


何だこれは?


だがすぐに我に返る


そして心から俺を呼ぶ叫び声が聞こえた




「たすけてっ! ケンタどのっ!」




「だから無駄だと言うのに」


この男、カフェのときの男だ

いやそんなことはどうでもいい!


アオイくんが俺に助けてと言っている

そんなの決まっているだろう!


「おう! 任せろ! ストーンランス!」 ドシュッ!


「ぐおっ! なんだ!?」


俺はストーンランス、土の槍であいつの右肩を貫く

貫かれた勢いであいつはアオイくんから引き剥がされる

刺さっていた剣も抜けてあいつと一緒に飛ばされる


「遅くなってすまん、アオイくん!」


「ケンタ殿っ!」


苦しそうな顔で泣いていた

俺の顔を見て安心したのか少しだけ笑っている


アオイくんを見るとあちこち刺し傷があった

血もたくさん流れている


両頬に、、、 傷がある、、、、、


「ケ、ケンタ、殿、、、?」


アオイくんが俺を見てビクついた

いけない、アオイくんを恐がらせてどうする


「ごめん、アオイくん」


アオイくんに背を向ける

そして収納庫から回復薬を数本出す


「これで応急処置しておいてくれ」

「は、はい、、、」

「ポチャ、アオイくんに付いてやってくれ」

「うん」


ポチャにも伝わっているようで元気がない

ダメだな俺は、感情が隠せない


でも、な


「貴方はカフェのとき食ってかかって来た人ですね」

「お前はあのときのクソ騎士だよな」

「おや? 怒っているのですか?」


今は感情を隠す必要も隠す気もねえっ!


「あたりまえだぁっ!」

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