60 乙女の涙、少女の祈り 3
「パトさん!」
「パトラッシュ!」
パトさんの惨状に青ざめるリディア
「忘れものですよー♪」 ポイッ!
斬られた右腕をこっちへ放ってくるイスト
「アンナ、治癒してくれ!」
「わかっています!」
「アンナさん、パトラッシュが、助けて、、、」
「大丈夫ですから、落ち着いて下さいリディアさん」
アンナは治癒魔法を使う
しかし切断した腕を治すには少し時間が掛かる
戦闘には参加できそうにない
あいつは許せない
だが肉盾があるから手出しができない
「おい、お前ら! なんであいつの命令を聞いているんだよ!
あいつのために命懸けるなんて馬鹿げているぞ!」
「そんなことはわかっている」
「やらないと、死んじまう」
「殺される」
俺に近い連中が小声で伝えてくる
こいつらだって死にたくないんだ
でもあいつ一人ぐらいお前ら全員なら倒せそうだけど
「お前らあいつに簡単に殺されるぐらい弱いのか?」
「違う、呪いを掛けられているんだ」
「命令を無視したら発動して死ぬ」
だから必死に命令を聞いているのか
でも盾になっても殺されているじゃないか
命令を聞いても聞かなくても殺される
本当に捨て駒だ
呪いを解除してやってもいいが人数が多いから時間が掛かる
やはりイストをフルボッコするしかないな
「よし、ポチャ、こいつら片っ端から咬みつきまくれ」
「おっけー♪」
「え」「ちょっ」「いてえっ!」「やめろ」「ま、待って」
楽しそうにあっち咬み、こっち咬みしまくるポチャ
おかげで肉盾の包囲網に穴が開く
「何をしているんですかあなた達!」
「待たせたな!」
ベキィッ! 「がっ、はあっ!」
まずは顔面に一発
「来るのわかっていたら受け止められるんじゃなかったのかよ」
わかっていても防御できない速さは無理だろうけどな
「く、う、お前、よくもっ!」
「すました顔が崩れているぜ」
ビュン!
ウインドカッターが飛んで来たが消滅する
「それで?」
「は? なんで消えた?」
最初からウインドシールド、風の盾を展開しておいた
風の盾の気流に風の刃は流されて消失したのだ
「あんた努力して色々身に付けたんだろう?
バカに協力するようになって手を抜き始めたんじゃないのか」
「う、うるさい!」
殴りかかってくる、蹴ってくる
なるほど、それなりに体術もできるようだ
でもな
ガシッ ブオン ドシン! 「ぐはっ!」
腕を掴まえて投げ落とす
受け身を取れてねえぞお前
「努力した割には大したことはないな」
「うう、貴様ぁっ、、、」
よろよろと立ち上がるクソ教師
「ここまではお前に騙され処分とやらをされた子たちの分だ」
「はあ? あの子たちが告白してきたんだぞ!
それを受け入れてやっただけだ(ガゴン!)ばごぶっ!」
「これ以上その子たちを汚すんじゃねえ」
アッパーをくれてやる
「立てよ、変態教師」
「き、貴様、、、」
睨みながら立ち上がるイスト
身体が震えているぜ変態教師
ズバッ! 「ん、ぎゃああぁぁっっっ!」
ウインドカッターで右腕を切り落としてやる
「こいつはパトさんの分だ」
「いてえっ、いてぇっ! ふぎぃぃっ、、、」
うるせーな、ギャンギャン喚くな
身体強化最大
両拳にサンダーを纏わせる
変態教師は腕を斬られた痛みでのた打ち回っている
チンピラたちはポチャに咬みまくられてそこらに転がっている
アンナはパトさんを治癒してくれている
腕はくっついたようだがまだ続けている
繋げただけでは駄目のようだ
リディアはまだ泣いていた
「リディア、聞け!」
リディアがこっちを向く
「先に謝っておく、すまん!
これからきついこと言うが許せ」
リディアは黙ってこっちを見ている
「俺に乙女心を勉強しろって言ったよな?
お前こそ男と言うものを勉強しろ!
こんな変態教師に惚れるなんて見る目無さ過ぎだ!
恋に恋する乙女が悪いとは言わない
だけどな、盲目になるな!
相手をしっかり見ろ、考えろ!
そうでないとまたこんな男に引っ掛かるぞ
お前は可愛いんだから男なんか選り取り見取りだ
自分が惚れるんじゃなくて相手に惚れさせろ!
次の恋は、間違うなよ」
そう言ってイストを右拳で全力のフック
ドバン! バリバリバリ!! 「ぐばああっ!」
雷撃付き右フックを喰らわしてやる
「こいつはリディアの痛みと涙の分だ、って聞いていないか」
斬られた右腕の痛みと雷拳で痺れてピクピクしている
「だがまだだ、あと一つ残っている」
「ひいっ!」
襟首を掴んで立ち上がらせる
かなり俺に対して恐怖心を持っているようだ
だけどまだ終わってないからな?
「おい変態教師」
「は、はひぃぃっ」
「俺も痛いんだぞ?」
「は、へ?」
ちょんちょんと左脇腹を指差す
一応こっそり回復薬飲んだから傷は塞がっている
「最後は俺の怒りだあっ!!」
ドバン! バリバリバリ!! 「ぶぎゃあぁっ!!」
雷撃付き左ストレートで顔面を殴り飛ばす
思いっ切りぶっ飛んで転がっていく
少しだけピクピクしていたがパタンと止まった
俺はリディアたちのところへ行く
タイミングよく数人の私兵を連れて男爵様が来た
私兵たちはチンピラたちと変態教師を縛り上げていく
「パトさんは大丈夫か?」
「腕は元どおりになりました、あとは体力の回復だけです」
「ありがとうございますアンナ様、ケンタ様」
俺はリディアの方を向く
もう泣いていないようだ
ただ疲弊している
「リディア、大丈夫か?」
「・・・・・・・ありがとう、ございます」
ぐっと唇を噛み締めて俯く
やっぱり言い方がきつかったかな?
「えっと傷付いているときにあんなこと言ってごめんな」
「あ、いえ、事実でしたから、私こそごめんなさい」
「リディアが謝ることなんてないけどな」
「私のために怒って下さってありがとうございます」
「いやまあ俺があいつを気に食わなかっただけだし」
「それでもありがとうございます」
また少し泣き出したが笑顔だった
これならもう大丈夫そうだな
「それじゃあアンナ、パトさんとリディアを頼む」
「はい、パトラッシュさんが回復したら私も行きますね」
俺はポチャを連れてさらに地下を降りる
「き、貴様っ、一体どこから現れた!?」
小太りおじさん、伯爵がいきなり現れたわたしに驚いています
悪役っぽい反応にワクワクしてしまいます
これから成敗してあげますから覚悟して下さいね
「ええい、かかれ! こんな小娘さっさと始末しろ!」
悪代官のようなセリフ、ありがとうございます
騎士ではなく元からここにいた男たちが襲って来ます
ですが大したことはありません
動きは遅いし戦い方もなっていません
技も何もなく単調な攻撃しかしてきません
10人ほど軽くひねったらかかって来なくなりました
「こらお前ら、怯むな! 殺せ! さっさと行け!」
見事なまでの悪代官、悪伯爵っぷりですね
ちょっと感動します
「伯爵様、雑魚では相手になりませんよ
私が相手をしましょうお嬢さん」
マーデラが前に出てきました
気を引き締めます
この人、絶対強いです
殺気がさっきから突き刺さっていました
あ、駄洒落じゃありませんよ?
「よし、お前に任せた! 私は小娘を連れて逃げる!」
ほんとに見事です悪伯爵様
騎士たちにシシリーちゃんを連れて来させようとしています
「させません!」
シシリーちゃんに向かっている騎士に攻撃します
シュバッ! 下段から薙いでくる剣を咄嗟に躱します
マーデラです
騎士たちとわたしの間に割って入ってきました
「お嬢さんの相手は私ですよ?」
目の奥が笑っていない殺気を放つ笑顔
これではシシリーちゃんを助けに行けません
騎士たちに引っ張られ悪伯爵に連れて行かれました
目でサスケに合図をします
サスケはわたしを心配そうにしますが行ってくれました
頼んだよサスケ、シシリーちゃんをお願い
「あなたたち、あの猫を殺しに行きなさい」
騎士は全員悪伯爵に付いて行っています
元からここにいた男たちにサスケを追わせるようです
サスケはポチャのように戦闘形態にはなれません
でも戦う術は持っていますから大丈夫だと思います
頑張ってサスケ、マーデラを片付けたら行くから
「さあこれで私とお嬢さんの一騎討ちです
誰にも邪魔されず殺し合えますよ
どうです、命の奪い合いは魂が昂りませんか?」
心底楽しそうに語るマーデラ
他の人に邪魔されたくないから全員追いやったのですね
こういう人を戦闘狂とでも言うのでしょうか?
ですが邪魔が入らないのであればこっちも動きやすいです
人がいなくなって場所が広くなりました
わたしの速さを活かせます
「改めて私はマーデラ・リセンスと申します
お嬢さんの名前も教えていただけませんか?
私を殺して下さるかも知れない方の名を知っておきたいのです」
「・・・・・わたし、拙者はアオイ・キリガクレ
言っておきますが殺しません、お縄にするだけです」
「そうですか、ですがそれは無理だと思いますよ」
「なぜです?」
「私が貴女を、アオイさんを殺すからです
そして私は絶対にアオイさんを殺そうとするのをやめないからです
私を止めるには私を殺すしかないのですよアオイさん」
ゾクリとした
本気だ、本気で言っているこの人
「では始めましょうか、命の奪い合いを!」
斬りかかってくる
でも素早く避けます
次から次へと様々な角度から剣が迫る
全て捌き躱していきます
「速いですね、素晴らしい!
ここまで捌かれるとは思っていませんでした」
嬉しそうに攻撃しながら言ってくる
「忍者ですから」
「忍者ですか、速いのですね忍者というものは」
目が輝いている、何がそんなに楽しいのかわかりません




