57 囮
いつもより早い時間に朝食をとる
部屋ではなく男爵様たちと一緒に食べる
作戦の最終確認などを行うためである
食べ終わってメイドさんたちが食器などを片付ける
このまま確認を始める
「すみませんが作戦内容に変更があります」
「いきなり変更かよ」
特に変更するようなところはなかったと思うが?
「囮は私がシシリーさんに変装することになっていました
ですがシシリーさん本人にやっていただくことになりました」
「それは駄目です!」
男爵様が慌てる
「アンナ、どうしてそうなった?」
「昨夜シシリーさんに説明したところ本人がやると言い出したのです」
「はい、私がやります」
「シシリー様、どうしてですか」
「相手は私を狙っているのでしょう?
でしたら本人が囮をやるべきです」
「シシリーに何かあったらダメだから身代わりを立てるんだけどな」
「その身代わりになった方に何かあったらどうするのですか」
「アンナだから大丈夫だよ」
「私もそう言ったのですけどね」
そういやリディアは反対しなかったのかな?
「リディアは止めなかったのか?」
「シシリーが決めたことです、反対しません」
「でも大事な親友だろ」
「作戦の内容は聞きました
ケンタさんたちが守って下さるのでしょう?
ならば大丈夫と判断しました」
「ケンタ様、出会ったときのことを覚えていますか?
私は目の前の誰かを見捨てることはしません
ましてや自身の代わりに誰かが傷付くことなど認めません
たしかにアンナさんはお強いでしょう、それでもです
私は私の心に従い動きます」
言ってたな、轢かれそうな子供を助けたときに
「皆様、守って下さるのでしょう?」
凛とした佇まいで微笑みながら言うシシリー
出会ったときと同じく見惚れてしまう
「ああ、しっかり守ってやるよ」
「そうですね、お任せ下さい」
「シシリーちゃんは傷付けさせません」
「ちょ、誰も止めて下さらないのですか!?」
男爵様が狼狽える
「フレンダ男爵様、私の勝手をお許し下さい
これは私の曲げたくない矜持なので責任はすべて私にあります」
「・・・・・はあ、そういうところはオシリス様とそっくりですね」
「お父様と一緒にしないで下さい」
父親に似ていると思われるのはイヤなようだ
でも頑固なところそっくりだぞ
「わかりました、私も必ず役割を果たします
ですからシシリー様をお願いしますよ皆さん」
男爵様が折れてくれた
それから作戦内容の一部変更について協議する
昨日までのように俺たちは出掛ける
俺は探索を常に表示して確認しながら歩く
ずっと付いてくる点があればそいつらが敵だと言うことだ
今のところは見当たらない
広場の近くで古市をやっていた
人が多いのでそこへ俺たちは行く
別に人が多いから襲われないと言うわけではない
むしろここでシシリーを攫わせる算段だ
人が多いから隙をついて攫いやすい
人混みの中の方がいなくなったことに気付きにくいからな
気付いても人混みが邪魔して探しにくい
「すまんー、屋敷に忘れ物を取りに行ってくるー」 (棒読み)
「しょうがないですねー、早く行って下さいー」 (棒読み)
俺はこの場を離れる
もちろん屋敷へは行かない
忘れ物などないからな
こんな茶番をしたのは敵を誘うためだ
探索マップに古市へ来る少し前から付いて来ている反応があった
そいつらがシシリーを攫いやすくするため俺は離脱した
護衛がすぐそばにいると手を出しにくいだろうからな
離れたところからフライで近くの高い建物の屋根に移動する
ここからシシリーたちを探索マップで確認しながら見守る
「アンナさんー、人混みに酔ってしまいましたー」 (棒読み)
「それは大変ー、あちらのベンチで休みましょうー」 (棒読み)
私は計画通りにリディアさんと共に離脱します
「私ー、飲み物を買ってきますわねー」 (棒読み)
「お願いしますー、シシリーさんー」 (棒読み)
こうしてシシリーさんが単独行動するようにします
さあ、これで攫い放題ですよ!
これで私は一人になりました
どこからでもいらして下さいな
適当に屋台のところへ向かいます
すると突然腕を引っ張られました
どうやらいらしたようです
何か布で顔を覆われました
急激に眠気が来て、意識が、、なくなります、、、
「アンナ、リディア、行くぞ!」
「お兄さん、シシリーさんは?」
「ばっちり攫われた!」
我ながらおかしな言い方である
「殴られたりはしてませんよね、、、」
「リディアのときのように眠らされただけだ」
リディアがホッとする
「探索で動きはわかっているから付いて行くぞ」
「はい、敵の本陣へカチコミ開始です!」
「カチコミって何ですか?」
「お嬢様は知らなくていい言葉だ」
俺たちは付かず離れずで跡を追う
「あいつら馬車に乗って移動しだしたな」
「なら私は飛んで行きます」
「俺とリディアはスーパーカブだ」
そんなの目立ってバレると思うだろう
しかしここは王都、スーパーカブに乗っている人もチラホラいる
スーパーカブは高いが王都は貴族が多いので買ってる人も多い
なので乗っていてもおかしくないので追跡できる
敵の馬車は大きな屋敷に着いた
屋敷と言うか商館のようだ
悪いことして儲けてそうな匂いがするぜ
「アンナ、今のうちに男爵様へこの場所を伝えてくれ」
「わかりました」
俺とリディアはこのまま様子を見る
アンナは飛んで男爵邸へ向かう
男爵様に伝えて私兵と共にここへ来てもらうためだ
シシリーが中にいるから言い逃れはできない
爵位が格下でも証拠さえあれば糾弾できる
バカ伯爵はいないかも知れない
だがこの商館の関係者から繋がりを引き出せるはずだ
それだけでもかなり追い詰めることができる
攫った連中とシシリーはすでに商館の中に入っている
何もされていなければいいと思うが大丈夫だと思う
手は打ってあるからな
ごつい馬車がやって来た
派手な装飾が付いた馬車だ
中から小太りのおっさんが出て来た
偉そうにしながら中に入って行く
もしかして、アレがバカ伯爵か?
あんな派手な馬車で堂々と来るとは名前のとおりバカだったようだ
だけどおかげでボスを捕まえられそうだ
「さて、そろそろ頃合いだ」
「中に入るのですか?」
「ああ、バカ伯爵も来たようだから突入する」
「お父様と兵士は待たないのですか?」
「さすがにボスが来たからシシリーが危ない
あいつの一声でどうとでもできる状況だからな」
リディアが不安そうにする
「だが安心しろ、シシリーは絶対に無事だ
作戦は知っているだろ?」
「はい、そうですね、無事ですね」
落ち着いたようだ
「じゃ俺は行くから男爵様たちが来たら合流しろよ」
「わ、私も一緒に行きます!」
「いや、危ないぞ」
「シシリーは私を助けるために来てくれました
今度は私がシシリーのために行きます」
二人とも親友が大事なのはわかるけど
「わかった、だけど俺から離れるなよ?」
「はい」
俺はリディアを連れて商館へ向かう
商館の門前
「何だお前ら?」
「この商館は何の商売しているんだ?」
「お前には関係ない、帰れ」
「えー、そんなこと言っていいのかなー?
俺が太客になるかも知れないんだぜ♪」
「はあ? お前さんのどこにそんな要素が」
「失礼だな、バッカー伯爵様に報告しちゃうぞ」
「へ? お前、伯爵様とどんな関係なんだ?」
門番もバカだったようだ
俺がバカ伯爵と繋がりがあると思ったようだ
「この商館が何の商売をしているか教えてくれたら言うよ」
「しょうがない、というかどうせわかっているんだろ?」
バカ伯爵と知り合いなら知ってて当然と言うことか
「それに少女を連れていると言うことは売りに来たんだろ
たしかに上玉だから高く売れそうだな
お前が太客になるってのも頷ける」
あー、そういう商売ですか
リディアが不安そうに俺の後ろに隠れる
「そのとおりだ、わかってて聞いたんだ」
「まったく人が悪いぜ」
「奴隷商だろ、バッカー伯爵様に聞いて売りに来たんだよ」
「それならそうと言えばいいのによ」
「すまんな、ちょっとからかっただけだ」
「あっちに受付があるから入っていいぞ」
「おう、色々すまなかったな♪」
「儲かったらなんか奢れよ」
「儲かったらな♪」
チョロい、バカな門番で助かったぜ
「あの、私、売り飛ばされるのですか?」
「いやいやいや、話を合わせていただけだから!」
シシリーを助けに来てるってわかっているでしょ
「とにかくこれで敷地内には入れた」
「シシリーはどこにいるのでしょう」
「とりあえず隠れるぞ」
門番がよそを向いているうちに建物の陰に隠れる
探索マップでシシリーの位置を確認する
「あの建物の中だ、行くぞ」
「はい」
門番が言っていた受付の建物の反対側に大きい建物がある
そこに赤い点、シシリーの反応があったので向かう
「中に入ったら多分すぐに戦闘になると思う」
「さっきのように会話ですり抜けられないのですか?」
「中は敵だらけだし全員を騙すことは不可能だ
なにより関係者以外立ち入り禁止区域のようだから
俺たちを見逃してはくれない」
「なるほど、問答無用で襲われますね」
「そういうこと、だから絶対離れるなよ」
「私、足手まといですよね」
「でも付いて行きたいんだろ」
「はい」
「ちゃんと守るから安心しろ」
「はい、お願いします」
シシリーのいる建物の前に着く
俺は扉を勢いよく開ける
入ってすぐのフロアは広く両側に上への階段がある
奥に地下への階段もあった
このフロアに数十人の男共がいた
バカ伯爵が雇っている捨て駒たちだろう
そいつらが一斉に俺とリディアを見る
「何だお前は?」
「可愛い子連れているじゃねえか」
「そいつは俺たちへの土産か?」
下卑た笑いをしながらリディアを見る
「土産? ああ、くれてやるぜ」
一気に間を詰めて全力で殴り飛ばす
ボゴォッ! 「ぐべらぁっ!」
殴り飛ばされて転がる男
「てめえっ!」「よくもっ!」「何しやがる!」
他の連中が敵意を露わにする
武器を構える奴も数人いた
「土産を一発くれてやっただけだぜ」
「なめやがって!」「生きて帰れると思うなよ!」
「女は俺たちがいただくぜ!」
セオリー通りのチンピラばかりだった




