38 愚者の楽園
出発当日、見送りにオリハとミスが来てくれた
そしてアンナの両脇に立つ
「俺たちはもう少しだけこの街にいます」 ナデナデ
「いずれオシリペンペン街にも行きますね」 ナデナデ
アンナをナデナデしながら言う二人
困り顔だが抵抗しないアンナ
「ああ、見掛けたら声を掛けてくれ、俺も掛けるから」
「はい、ケンタさんとアオイちゃんの仲間が見つかるといいですね
俺たちも仲間を絶対探し出します」 ナデナデ
「ありがとう、二人の仲間、アダも見つかることを祈っておくよ」
「ありがとうございます、私たちも祈っておきますね
アンナちゃん、元気でね♪」 ナデナデ
やっと解放されるアンナ
「は、はい、、、」 ぐったり
二人に見送られ俺たちを乗せた馬車は走り始める
やっとあの街に辿り着ける
ベンケイさん、パンティさん、いてくれよ
期待と不安でいっぱいだ
夕刻になって川のそばに馬車が止まる
ここにテントを張り休息する
俺たち永遠の混沌は護衛として馬車に乗せてもらっている
護衛なのでタダで運んでもらえて報酬も貰える
一石二鳥、一粒で二度美味しい♪
「じゃ2時間交代で見張りだ」
「はい、それじゃあ仮眠しますね」
「2時間経ったら起こしに行きますからちゃんと起きて下さいよ」
アンナ、俺、アオイくんの順番だ
ジャンケンで決めた
「あの、あんな小さい子が見張りで大丈夫なのでしょうか」
御者さんが不安そうに聞いてくる
「ああ見えてDランクですよ」
「とてもそうは見えません」
仕方がないのでアンナにカードを提示させる
アンナは不満そうだった
「本当でしたね、すみません」
「俺たちは強いですから安心して休んで下さい」
まったく、見た目で判断しないで下さい!
まあ仕方がないことはわかっているけど
どこから見てもお子様ですからね私
結界を張っているから見張りは不要です
でも一応見張っている体裁はとります
2時間経ったのでお兄さんを起こしに行きますか
テントに入ります
相変わらず可愛くない寝顔です
「むにゃ、アンナ、、、 それは、いけない、、、」
私? 私が出てる夢を見ているの?
「だめだ、やめろ、そんなに、、、 あぁっ!」
何? エッチな夢でも見てるの?
私に興味無いように見えてじつはってこと?
やだなー、困るなー、どうしよう、きゃー♡ モジモジ
「そんなに、食べたら、太るぞ、、、」
・・・・・・・・・・・・・ ブチッ(キレた)
苦しい、鼻と口を押えられ起きる
「そんな起こし方すんなっ! 殺す気かっ!」
「これが確実に起こせますから」
アンナは冷ややかな目で俺を見ながら言う
なんか恐かったのでそそくさと俺は見張りに行く
ちょっとだけまだ眠い
「ふわぁ~」
川の水で顔を洗って眠気を覚ます
季節は春なのでまだ少し水が冷たい
この世界にも四季はある
ちなみに暦はあっちの世界と同じだ
ただ閏年は無い
ファンタジー世界なのに通貨は円だし
1年間は365日だし、24時間表記だし
ファンタジーとは何なのか?
ついでだから曜日についても語っておこう
日月火水木金土とあっちの世界と同じだ
月月火水木金金ではないぞ?
だが曜日の設定がおかしい
毎月1日が必ず日曜から始まる
例えば1月1日が日曜で始まって1月31日が火曜で終わる
ここまでは問題ない
しかし翌日の2月1日は水曜ではなく日曜になる
水曜から土曜はどこへ?
そんな曜日設定なのだ
FPOらしいと言えばそれまでだが乱暴な設定だ
ある意味、ファンタジー?
見張りはわたしが最後です
4時間しっかり眠るとしましょう
ケンタ殿が起こしに来るまでおやすみなさいー
・・・・・・・・・・待って、わたし
ケンタ殿が起こしに来る
つまり寝顔を見られる
自分の寝姿は知らない
大口開けていびきかいてたらどうしよう
ものすごい酷い寝相だったらどうしよう
服とかはだけてたらどうしよう、ってこれは駄目!
駄目です、とても眠れません
ケンタ殿にそんなとこ見られたらと思うと寝られません!
時間がどんどん過ぎていきます
足音が聞こえてきました、ケンタ殿ですね
結局一睡もできませんでした
2時間後、アオイくんを起こしに行く
「アオイくん、入るよ」
テントに入ろうとしたら
「交代ですね」
出てきた
「ちゃんと寝たのか?」
「もちろんです」
「でもすぐに出てきたじゃないか」
「忍者ですから気配で起きました」
すげーな忍者
「今日は途中にある村に泊まるそうですよ」
「じゃ今日は見張りはなしか」
「宿屋で寝られますね」
ミズムシ街からオシリペンペン街の途中にある村か
たしか名前がカタコリ村だったな
名前思い出しただけで肩が凝ってきた気がする
「ていうか俺たち一部屋かよ」
小さい村なので宿屋の部屋数が少ない
そのため相部屋になることもある
なので俺たち護衛組は一部屋に押し込まれた
「ベッドは私とアオイさんが使います」
「わ、わたし床でいいよ?」
「いや女の子を床に寝かせられない」
俺が床で寝ることになった
野宿よりはマシだ
「お兄さん、ベッドに潜り込まないで下さいよ」
「しねーよ!」
翌日も馬車は走る、ひたすら走る
魔物の襲撃もなく盗賊も現れない、何とも楽な護衛だ
タダで運んでもらって報酬まで貰えるなんて申し訳ないね
この日は初日と同じく川のそばにテントを張って休息だ
見張りの順番はアオイくん、俺、アンナだ
今回はわたしが最初です
よかった、これなら起こされる心配がありません
2時間経ったのでケンタ殿を起こしに行きます
テントに入ります
ケンタ殿の無防備な寝顔、ちょっとドキドキします
もっと見ていたいけど起こさないといけません
携帯があったら撮っていたのに残念です
「ケンタ殿、起きて下さい」 ユサユサ
肩を軽く揺すりますが起きません
「むにゃ、もう食えない、、、」
なんて定番の寝言を、、、
なんだか可愛いです
父もこんな感じだったなあ
そんなこと考えてる場合ではなく起こさないと
「ケンタ殿、起き―――――」 グイッ
ふぎゃあっ!?
肩を揺すろうとした腕を引っ張られました
ケンタ殿の上に乗っかかりました
ケンタ殿に抱きしめられました
うーーわーーー!!! わーー! うわーーー!
大混乱でござる! 電柱でござる! 殿中でしょ!
意味がわからないでござる! 心臓が大暴れでござるっ!
ケンタ殿の鼓動も聞こえる
起きてるの? 死んでるの? 違った、寝てるの?
と、ととと、とにかく、脱出でござる!
わたしは必死に腕を振りほどきケンタ殿から離脱する
鼓動が治まらない、顔が熱い、まだ頭が混乱している
ケンタ殿は眠っている、寝惚けただけなのでしょう
起こさないと、でもまた同じことになったら、、、
それでもいいかな? いやダメでしょ!
うん、起こすのやめよう
わたしは見張りにフラフラと戻って行きました
翌朝、アンナに起こされた
「むにゃ、あれ? 何でアンナが起こすんだ?」
「私もさっき起きたばっかりです」
「どういうことだ? って朝じゃん! 見張りの交代は?」
アオイくんのところへ俺とアンナは向かう
「あ、おはようございます、、、」
何か顔が赤い
「アオイくん、俺を起こしに来なかったのか?」
「えっと、行きました」
あ、もしかして俺が起きなかったのでは
「俺が起きなかったんだな、すまん!」
「せめて私を起こして下さいアオイさん」
「二人ともよく寝ていたので、、、」 ゴニョゴニョ
何かゴニョゴニョ言っている
よく聞き取れない
「次からは蹴飛ばしてでも起こしてくれ」
「そんなことできませんよ」
「なら私を起こして下さい、私がお兄さんを蹴飛ばします」
「「それはどうかと、、、」」
それにしてもやっぱり顔が赤い
一人で見張りしていて風邪でも引いたのかな
「誰か一人に負担が掛かるようなことはしたくない
仲間なんだからこういうことは止めてくれ
俺もちゃんと起きるようにするから」
「えっと、はい、、、」 シュン
言い方が悪かったかな?
落ち込ませたいわけじゃない
「そもそも俺が悪いんだからアオイくんは落ち込まないでくれ
本当にすまなかった」
俺は深く頭を下げる
「そ、そんなに謝らないで下さいケンタ殿、、、」
んん? 何か落ち込んでいるのとは少し違う感じだ
「アオイくん、何かあったのか?」
「な、何もないですよ!? 大丈夫ですよ!」
何だ? やっぱり何か挙動不審だ
(ああ、何となく察しました、、、 仕方がないですね)
「・・・・・はいはい、そこまで
今日もしっかり護衛をしないといけません
グダグダしている場合じゃありませんよ」
アンナが話を切り上げる
たしかに今は護衛中だ、仕方がないから俺も話を終わる
アンナがアオイくんをテントに連れて行く
「すぐ戻りますので一人で護衛をしていて下さい」
「おう、見張りしなかった分を働くぜ」
その後は何事も無くオシリペンペン街に向かっていく
今日の昼頃には到着する予定だ
アオイくんはもう普通だ、顔も赤くない
アンナと何を話したのかは気になるが聞かない
俺は女子の内緒話を聞き出すような無粋な男ではないからな
それよりもいよいよオシリペンペン街だ
街を囲む塀が見えてきた
やっとここへ戻って来た
ゲームを過ごした終わりの地
この世界の人生の始まりの地
ここで終わったからこそ、ここから始める
ようやく新しい人生の一歩を踏み出せるのだ
行こう、仲間と共に
楽しもう、新たな冒険を
生きよう、愚者の楽園を
色々ありましたがようやく辿り着きました
そしてここからケンタたちの新たな人生が始まります
楽しいことだけではなく辛いこともあります
ケンタたちの物語をこれからも見ていただけると幸いです
次回から第二章スタートです、お楽しみに♪




