2 転移
突然のサービス終了宣告
俺たちだけでなく他のプレイヤーたちもザワつく
「何だよ! 一昨日始めたばかりだぞ俺!」
それは不憫だな
機材やらなんかで大枚飛んでいるだろうに
「酷い! やっとゲーム友達出来たばっかりなのに」
なんと可哀想に
他のゲームでまた友達探しをしないといけなくなるね
とまあ他にも様々なブーイングが飛び交う
『日付が変わると同時にゲームは強制終了となります
現在23時、残り1時間です、名残を惜しんで下さいませ』
この運営は最後まで酷いな
いつかサービス終了の日が来ることは誰もが理解している
しかし1時間前に告知するなんて誰も思わない
3ヶ月前から半年前ぐらいに告知があるのが普通である
最低でも1ヶ月前には告知する
『では皆様、今まで本当にありがとサンガリア♪
さらば涙と言おうジャマイカ』 プツン
アナウンスが終わる
同時に騒いでいたプレイヤーたちが静かになる
誰も何も言わない
静寂
「「「「「「「「「「ふざけるなあっ!!!」」」」」」」」」」
あちこちでプレイヤーたちが怒号を上げる
そりゃそうだろう、俺もさすがに運営に愛想が尽きた
最後の挨拶がアレはないだろう
いくら何でもふざけ過ぎだ
ベンケイさん、アオイくん、パンティさんも開いた口が塞がらないようだ
ポカンとしていた
俺を含め古参ユーザは怒号を上げるより脱力しているだろう
運営のバカさも俺たちには心地良かった
でも最後のコレは裏切られた気分だ
怒りよりも焦燥感しかない
しばらくプレイヤーたちは騒いでいた
中にはヤケで暴れる者もいた
気持ちがわかるから止める者はいない
強制終了と言うことは日付が変わったら強制ログアウトってことだよな
裏切られて落ち込んでいるけど俺はそれまで残ろうと思った
大好きなFPO、その最後の瞬間まで見届けようと思うから
他のプレイヤーは次々にログアウトしていく
中にはログアウトするかどうか迷っている者もいる
そしてもういいやって感じでログアウトしていく
「ケンタ殿は最後まで残るのでござるか?」
「うん、最後まで見届けようと思う」
「なら拙者も残るでござる」
「受験生なんだからもう落ちて切り替えた方がいいよ」
「拙者も見届けないと残念無念で勉強に身が入らないでござる」
「それもそうだね」
「私も付き合うよ」
「ベンケイさん」
「みんなといられるのも最後だからな
お互いリアルは知らないから他のゲームで会ってもわからないしね」
「そうですね」
「わたしも一緒にいていいかな?」
「もちろんですよパンティさん」
「ありがとうございます、嬉しいです♪
他のゲームで会えて気付け合えたらいいですね
わたしはゲーム友達あなた達しかいないから」
「「「・・・・・・・・・・」」」
「どうしました?」
「いや、パンティさんが普通の話し方しているし」
「パンティがまともなことを言っている」
「本当にパンティ殿でありますか?」
「あなた達、酷くない? 泣くわよ?」
パンティさんがビッチでないから変な感じだ
「あれはキャラ作ってただけです
その方があなた達に受け入れてもらえそうだったから」
「たしかに普通の美人メイドだったら私ら敬遠していたかも」
「ああ、それはあるね」
「拙者も同意でござる」
「ほらね」
「でも何で俺たちの仲間になりたかったの?」
「三人ともとても楽しそうにプレイしていたじゃない
他の人たちは効率重視やリア友同士で組んでいて近付けなかったわ
でもあなた達は効率無視でリア友同士でもないでしょ
だからわたしでも仲間に入れてくれると思ったの
それでも普通のままだったら拒否されると思ったから
あのキャラはそのために頑張ったんです」
色々考えて悩んで俺たちの仲間になろうとしてくれたんだな
「パンティ殿なら拙者たちは受け入れたでござるよ」
「そうだぜ、私らは拒否しないぜパンティ」
「そもそも名前がパンティだからすでに普通じゃないですよ」
「そう言えばそうですね、悩んで損したー」
四人とも吹いた
良い仲間に出会えた
やっぱりFPOは最高だ
運営はカスだけど
「いつかどこかのゲームで再会できるといいね」
「私はこのキャラに近いキャラでプレイするから気付けよ?」
「拙者も忍者キャラを貫くでござる」
「わたしもメイド一筋でいきますね♪」
日付が変わるまでアト10秒
いつかどこかのゲームでこいつらと再会できることを祈る
アト5秒
「よん!」 俺
「さんっ!」 ベンケイさん
「弐!」 アオイくん
「いーち!」 パンティさん
「「「「ゼロ!!」」」」
日付が変わった
ブツンと目の前が暗くなる
強制ログアウトされたんだな
ヘッドギアを外そう
頭に手をやる
「あれ?」
ヘッドギアがない?
頭に手をやっているが自分の髪と顔に触れている
目を開く
両手首にリングがない
「いや、それよりも」
風が頬を撫でる
草木の香り
明るい陽の光
部屋のベッドに横になっていたはずなのに大地に立っていた
「どういうことだ?」
キョロキョロ周りを確認する
立っている場所は草原ですぐ近くに村が見える
どこだここ?
いや知っている
似ているだけかもしれないが似過ぎている
草原はレンシュウ草原、そして村はサイショノ村
どちらもFPOのチュートリアルの場所だ
まさか、マジでゲームの世界に転移したと言うのか?
たしかにアンケートのときに期待したけどさ
本当にFPOの世界に転移するとは思わなかった
普通なら慌てるか不安になるだろう
これが現実ならこれからどうしようと考えるだろう
だが俺は喜びに満ちていた
元の世界ではサービス終了でFPOに入れなくなった
でもこれでずっとFPOの世界で生きることができるのだ
こんなに嬉しいことはない
元の世界にまったく未練はない
両親は死んでいないし兄弟姉妹もいない
もちろん恋人なんかいやしない、童貞だしな
ついでに友達もいない
会社はつまんなかったからラッキー♪
「おっと、大事なことを確認していなかった」
FPOに来れたのはいいけど確認しとかないとな
「ナビ」
ナビウインドウが開いた
「よっしゃ、ナビシステムは使える!」
ナビを確認していく
所持品は転移前まで持っていたものが全てそのままあった
所持金もそのまま残っている
「よし、これなら困らないな」
FPOの知識と技術は頭と身体にしみついている
それにこの身体は20歳ぐらいの好青年だ
頑張れば彼女もゲットできるかも♪
元の俺は30歳でオッサンだったからな
ワクワクが止まらないぜ!
そうだ、レベルも確認しておこう
たしかレベル893だったはず
[ステータス]
ERROR(表示条件を達成して下さい)
「なんですと?」
表示条件って何だよ、書いとけよ!
何と言うかやっぱりFPOだわこの世界
FPOらしさはこういうとこだと改めて実感する
けれどステータスは変化していないだろう
所持品と所持金がそのままあったからな
そういや俺だけなのかな転移したの
あの三人の姿はない
みんなはログアウトできたのかもな
もう他のゲームで奇跡の再会とかできないんだな
それだけが心残りだ
でも俺はこの世界を楽しむよ
みんなの分もFPO世界を堪能しよう
さらば、素晴らしき仲間たちよ
俺はサイショノ村へ向かって歩き始める
俺の新たな冒険が今始まる
まだまだ序盤なので面白味に欠けると思います
これからですよ♪(多分)