18 ダメ出し
俺とアンナは夕食を食べに食堂へ行く
料理が運ばれて食べ始める
「お兄さん、私からも聞いていい?」
「いいよ」
「転移してサイショノ村からツギノ村へはすぐに来たの?
いつ転移してきたのか私たちは知らないから」
いつ来るか不安だっただろうな
「移動日を含めて10日ぐらいかな」
「そんなに!?」
「え、だってサイショノ村ではやることあったし」
「サイショノ村でそんなに時間取るなんて思いませんでした」
ガイド精霊なんだからチュートリアルのことは知っているはず
「転移してからツギノ村へ来るまでのことを話してくれる?」
「いいけど何で?」
「少し気になったことがあるので」
何だろ? まあ話すけど
俺は転移してからのことを話し始める
但しクネクネとかカッコつけとか恥ずかしい部分は端折って
「サイショノ村で村長を探して―――――」
「え? はい」
(村長を探すってそのことだったのね)
「スーパーカブを―――――
商家で高額品を―――――
時の運クエストで―――――」
「それは・・・・・」
(チュートリアルにクエスト、、、)
「それでアシュラを倒して―――――」
「・・・・・・・・・・」
(アシュラ討伐なんか、、、)
「とまあこんな感じでツギノ村へ到着したんだ
それからはアンナと出会って色々あって現在だな」
ところどころアンナの反応がおかしかった
どこかおかしなところがあったのか?
「・・・・・・・・・・はっ、あああぁぁっ、、、、、」
大きなため息をついて両手で頭を抱えて俯くアンナ
「ど、どうした、頭でも痛いのか?
大丈夫か? 回復薬ならあるぞ」
アンナが某特務機関の総司令官のように顔の前で手を組む
そしてダメだコイツ早く何とかしないとと言う目で俺を見る
ヤメロ、そんな目で俺を見るな!
「な、何だよ、何でそんな態度なんだよ!」
「ああ、ごめんなさい、あまりにも内容が酷かったもので」
ええー、普通にこれまでのことを話しただけだぞ?
「酷いってどういうことだよ、そっちのが酷いだろ!」
「そうですね、きちんと言わないとダメですよね」
アンナは俺をまっすぐ見て
「お兄さん、ダメ過ぎです」
ガーーーン!
「何がダメなんだよ! 俺は頑張ってクエストこなしたんだぞ
アシュラだって頑張って倒したのに!」
「ええそうですね、頑張りましたね
ギミックが違っていたのによく倒せました
たくさん頑張ったことは認めますよ」
「じゃあ何でダメ過ぎとか言うんだよ」
「やらなくてもいいことばっかりやっているからです」
「はあ? チュートリアルやらないとダメだろ」
アンナが眉間に右手をあてて難しい顔をする
「お兄さんの今後のために今からダメ出しをさせていただきます」
「なぜ俺がダメ出しされなきゃならんのだ!」 ブーブー
「お兄さん、黙って聞いて下さいね?」 ニッコリ
あ、この笑顔、ギルマスにキレたときと同じ笑顔だ
「どうぞ、、、」
俺は大人しくダメ出しされることにした
「まずチュートリアルとかクエストとかやろうとしたことがダメです」
「ダメなの初めっからかよ!」
「村長なんて探す必要はありません」
「それだと宿屋にも泊まれないじゃないか」
「泊まれますよ、宿屋の親父さんに言えば」
「へ? いや無視されるでしょ」
「声を掛けたのは看板娘さんだけですよね?
奥にいた親父さんには掛けていませんよね?」
「ああ看板娘だけだ、それで無視されたから宿屋から出た
仮に親父さんに声掛けても無視されるのがオチだ」
「されませんよ」
「いやいやクエストだから全村民無視するでしょ」
「はいアウト、根本的にそこが間違っています」
はあ? どこが?
「この世界は現実です、みんな意思も感情も持って生きています
ゲームじゃないのでクエストとか存在しません!」 ビシッ!
指差すな!
そりゃもう今は現実だとは認識してるよ、でもさあ、、、
「流れ的にゲームに似ていたから勘違いしたのでしょう
ですがクエストとかチュートリアルなんてこの世界には存在しません」
「じゃ看板娘や畑のおじさんが無視したのは?」
「看板娘さんは知らない男性に対して警戒したためでしょう
畑のおじさんはカブ収穫のときに本人が言っていたのでしょう?
他所から来た人を警戒すると」
言われてみればそのとおりだ
知らないおっさんがニコニコ親し気に近付いたら警戒される
おじさんの理由も当たり前のことだ
「そもそも無視するならチラリとも振り向かないはずです
おじさんはお兄さんの方を振り向いてくれたでしょ
きちんとした対応さえすれば警戒も解けたはずです」
たしかに声掛けたら振り向いてくれた
返事も無いし扉は閉められたけどな
「じゃ村人クエストはどうなんだよ
スーパーカブ抜いて報酬ももらったぞ」
「収穫のお礼と無視したお詫びでしょうね」
「でもあのアイテム、レア物だぞ」
「おじさんには不要の物だったんでしょ
それにアレは王都で買えますよ、高いけど」
なん、、、 だと、、、
「じ、じゃあ、商家クエスト、は?
ちゃんと儲かりまっかの合言葉で始まったぞ」
「その合言葉はたしかに目利きの合図です
でもクエストとかではありません
あの商家の商法の一つです
目利きをして成功したら特殊回復薬を渡す
それが口コミ宣伝になるので利益に繋がります」
なんてこったい・・・・・
「で、でも、時の運クエストは、、、」
「これが一番ダメなやつです
これこそクエストでもなんでもありません
朝食? どれを選んでも問題ありません
親父さんはたまにメニューを出します
今日は何にしようか迷ったら客に選ばせるのです」
親父さん、あんたってやつぁ、、、
「お婆さん、は?」
「そんなのたまたま困っている人に出会っただけです
困っている人なんてあちこちにたくさんいますよ
その後の諸々も運試しでも何でもありません
普通に行動していても遭遇するようなことばかりです」
俺はもう何も言えなくなっていた
「強盗は災難でしたけど普通に強盗ぐらいいるでしょ
盗賊とかいる世界なんですから」
ごもっともです
「あ、でも、報酬のお金は? かなりの額が増えてたよ」
「お兄さん、所持金の確認は何回した?」
「えっと、転移直後とその報酬の確認のときだけかな」
「神様から転移の支度金が入金されています
増えているのはそのお金ですね
転移直後の確認の後にでも遅れて入ったのでしょう」
神よ、せめて入金したよとメッセージぐらいくれ
「じゃあアシュラが出たのはなぜだ?」
「出たというか元々あの場所に棲息してます」
んんー?
「村人の誰かが運悪く縄張りに足を踏み入れたのでしょう
それで姿を現したのだと思います
タイミングがクエストっぽくなってしまっただけです」
「でもそれだとやっぱり倒さないといけないよな
あんなのがいたら他の村や街に行けないじゃないか」
「行けますよ、縄張りを避けて行けばね」
うん、そうだね、あはは、、、 泣きたい、、、
「それでも倒さないと村が潰される」
「村の自警団と冒険者で対処可能です
お兄さんが戦う必要はありませんでしたよ」
「犠牲がいっぱい出るだろ」
「みんな引き際をわかっています、危なかったら逃げますよ
そしてその都度対策を練って最終的には倒せます
プログラムで行動を決めているわけではありません
生きて考えて行動しています、現実なのですから」
ぐうの音も出ない
「まとめますけど、ゲーム感覚で行動しないで下さい
これは現実です、ゲームじゃないんです
いいかげんゲーム脳で行動するのはやめて下さいお兄さん」
「、、、、、はい、申し訳ありませんでした、、、」
そうだよな、現実でゲームじゃないもんな
勝手にクエストに結び付けていたんだよな
「少し言い過ぎたかも知れません、ごめんなさい
でもこの世界で生きていくためにわかって欲しかったんです
たしかにゲームとの類似点は多いです
でも似ているだけなので同列に扱わないで下さい」
「わかったよ、気を付ける」
「そもそもゲームの世界が現実になったのではありません
この世界を模してFPOというゲームがあるのですから
この世界がオリジナルでFPOがコピーです」
「うん、そのとおりだね」
「えっと、ダメ出しはこれで終わりです
あの、怒っていませんか?」
「いやアンナのおかげで色々理解できたよ、ありがとう
ゲーム脳は簡単に治りそうにないけど頑張るよ
これからもよろしくなアンナ」
「はい、任せて下さい♪」
アンナが嬉しそうだ
俺一人だったらゲーム感覚で酷いことになっていたかも知れない
アンナに出会えて良かった、ありがとうアンナ
はい、ダメ出し回です
今回の件でまた一歩現実であると理解したことでしょう
まあゲーム脳が完全になくなることはないでしょうけど
今後も少しずつ現実を突きつけられて理解していきます
その点でアンナは重要な役割ですね
次回、兎狩りヒャッハー!




