163 日常から冒険へ
ベッキーの仕事が決まった翌日、シシリーがやって来た
そういや最近来なかったな
「お久しぶりですわケンタ様」
「そうだな、忙しかったのか?」
「ええ、王都へ数日行っていましたの」
リディアのところでも行っていたのかもな
「戻って来てさっそく来たわけか」
「あら、迷惑でしたかしら」
「いやあれだけ毎日のように来てたのに来ないから心配してた」
「それは嬉しいですわね♪」
ベッキーがお茶を用意する
「ベッキーさん、丁度良かったですわ」
「はい?」
ベッキーはもうシシリーに対して緊張はしていない
毎日のように来ていたから慣れたようだ
「ベッキーさんに似合いそうな服を王都で買ってきましたの
受け取って下さいな♪」
「服・・・」
ベッキーの顔が服屋でのことを思い出して少し引きつっている
「王都のお店の服なんて高い物はいただけません、ごめんなさい」
「庶民用の服屋で買った物ですわよ」
もちろん庶民用でも王都の物は高い
「えっと、でも」
慣れたとはいえ貴族に対して強く断れず困るベッキー
「気に入らなければ売るなり捨てるなりしても構いませんわ
私としましては着ていただけると嬉しいのですが」
「一応どんな服かぐらい見てみろよベッキー」
「う、うん」
収納袋から服の入った箱を出していくシシリー
そのうちの一つを開けてみるベッキー
淡い桃色の長袖ブラウスとひざ下丈のスカートのセット
白エプロンが付いていてシンプルだが可愛らしい服だった
奇抜な服ではなかったのでホッとするベッキー
「こちらもおすすめですわ」
別の箱を開けて服を広げるシシリー
白い長袖のシンプルなブラウス
ふくらはぎぐらいの丈のふわりとした黒スカート
他の箱も開けてみるがすべてシンプルな服ばかりだった
「大人しめな服ばかりだな」
「私服なのですから当たり前ですわ
パーティードレスなら少々派手めなものを選びますけどね」
ベッキーがうんうんとなにやら激しく同意していた
よっぽどサクラさんたちのが酷かったのだろう
「ありがとうございますシシリー様、大事に着させていただきます」
「ええ、もらっていただけて嬉しいわ♪」
すごいぞシシリー、ベッキーがメモらずに受け取った!
なんか負けた気分だが二人が嬉しそうなので良しとしよう
ベッキーは自分の部屋へもらった服を置きに出て行った
「ケンタ様、本日寄らせていただいた本題に入りますわね」
「なんだ? いつものように遊びに来たわけじゃないのか?」
「はい」
なんだろう、またなにか困ったことでも起きたのかな?
「明日の朝、私は王都へ向かいます」
「ん? その護衛でもしろと?」
「いえ、護衛はすでに手配済みです」
「だったら別に俺へ報告する必要ないだろ」
「3年ほど滞在する予定なので報告に参りました」
「3年? どういうことだ?」
「来月から3年間学園に通うため、これまでのようにお会いできませんの
当分は長期休暇に帰省したときぐらいしか会えませんわ」
リディアが通っている女学園に入学するそうだ
最近来なかったのは王都で入学試験を受けていたかららしい
学園へはシリウス様の屋敷から通うことになっているとのこと
伯爵家の別宅はあるが親戚の屋敷の方が安心だからだそうだ
「ケンタ様、長期休暇にはリディアと一緒に遊びに来ますわね♪」
「構わないけど他にも遊べる場所はあるだろ」
「私ばかりケンタ様と会っていますからリディアが拗ねますわ
リディアの相手もしていただかないと♪」
たしかにそうだけどさ
「わかったよ、俺で良ければお相手させていただきますよ」
「言質取りましたわよ♪」
明日の準備があるので長居せず帰ったシシリー
当分会えないとなると少しだけ寂しくなるな
翌日、今日からベッキーの仕事初めだ
10時から15時まで冒険者ギルドの飲食スペースで給仕をする
昼前後の忙しい時間帯は人手が足りない
だから最小年齢の10歳でも採用している
ベンケイさんとアオイくんが一緒にギルドへ向かう
依頼を受けるついでに二人が送っていくことにした
「おじさんとサクラさんは行かないの?」
仕事をしない俺とサクラさんを呆れた目で見るベッキー
いたたまれない俺たちとサクラさんを鼻で笑うアンナがそこにいた
「そういやシシリーはもう出発したのかな」
「早朝に伯爵邸を出発するって言っていたわよね」
今頃王都へ向かう馬車の中なのだろう
「なんか色々世間は動いているなあ」
「そうねえ、でもわたしは動きたくないわあ」
「激しくどういぃ~」
そう言いながら俺とサクラさんは屋敷に入ってダラダラとくつろいだ
(どうしてくれようかしらこのダメ人間ども!)
シシリーが王都へ行き、ベッキーの仕事開始から数日後
「なあケンタ」
「なんだベンケイさん」
珍しくベンケイさんとアオイくんがお休みをとっていた
そのベンケイさんが俺に言う
「そろそろ冒険しようぜ」
依頼を受けろ、仕事しろではなく、冒険をしようと言われた
俺はこの世界に来た当初のころを思い出す
運営には文句はあるがFPOは大好きだ
その世界が現実になり、そこで生きれることを喜んだ
この世界を楽しもう、堪能しようとワクワクしていた
仕事とかじゃなくて、純粋に冒険を楽しみたかったことを思い出した
色々あり過ぎて忘れてしまっていたのだろう
マーデラの一件、初めてリアルで人を殺したトラウマ
デリートシステム、イレイとの死闘
万能薬のことを忘れていてポリーさんを助けられなかったこと
マニーの奸計、ベッキーたちを救い出すことで頭がいっぱいだった
冒険を楽しもうと考える余裕がなかった
ありがとうベンケイさん、思い出せたよ
「そうだなベンケイさん、冒険をしよう!」




