160 ベルとシシリー
領主邸へ挨拶に行った翌日
朝食後にくつろいでいると
「ごきげんようケンタ様」
「おはようシシリー」
当たり前のように屋敷へやって来るシシリー
「なんか用事か?」
「特にありませんわ」
なら来んな!
そのまま我が家のようにくつろぎ始めるシシリー
ベッキーがお茶と茶菓子を出す
「ふふ、ありがとうベッキーさん」
「い、いえ」
ベッキーは貴族令嬢に緊張している
しなくていいぞ、わがままな姉だとでも思っておけ
特に俺の邪魔をすることもなく過ごしていた
俺も気にせずくつろぐことにした
シシリーは本を読んだりたまにレッドたちと遊んだりしていた
最近慌ただしかったからこういうゆったりしたのも悪くない
ちょっとわがままな妹が遊びに来ているようなもんだしな
お昼になってシシリーも一緒に昼食を食べる
いつまでいる気なんだか、まさか夕食も?
食べ終わって少しして新たな来訪者が来た
「こんにちはケンタさん」
「ベルさん久しぶり」
「ベルさん、ごきげんよう」
しれっと俺の隣で挨拶をするシシリー
ベルさんを客間へ案内するポチャ
ベッキーがベルさんにお茶と茶菓子を用意する
「こんにちは、あなたがケンタさんたちが助けたかった子ね」
「はい、ベッキーと言います」
「わたしはベル、よろしくね」
「ベッキーの弟たち、トムとハックも紹介するよ
三人とも俺たちの家族として迎え入れたんだ」
トムとハックも呼んでベルさんと引き合わせた
「トムです」
「ハックです」
キレイなお姉さんに照れながら挨拶する二人
二人は客間からすぐに出て行った
どんだけ緊張したんだよ
「王都の方は無事に済んだみたいだね」
「ええ、その報告に今日は寄らせてもらったの」
今回の件の悪党の一人ユザワヤ
こいつは王都の冒険者ギルドのサブマス
俺たちでは手が出ないからベルさんが動いてくれた
「こっちには昨日の夕方に帰って来たから報告は今日にしたのよ」
「そっか、疲れているところごめんな」
「いいのよ、わたしたちギルドの問題でもあるから」
ユザワヤ糾弾の話をしてくれるベルさん
借用書の偽造、シッドさんのサインはスキルでやったそうだ
スキル<転写>なんてFPOにはなかったスキルだ
ゲームと現実での差異がこんなところで出てくるとは思わなかった
というかシシリーのお母さんってすごい立場の人なんだな
第一王妃の専属侍女長で親友でもあるなんて
「さすがお母様、そして王妃様も素晴らしい方ですわ」
シシリーが誇らしげだ
ステータス鑑定と魔力鑑定もFPOにはなかった
ゲームでは必要のないスキルだからだろう
俺たちの鑑定は人物の場合は名前、種族、性別、年齢ぐらいしか見れない
アイテムや物を見るときは名称、必要な詳細説明などである
「それにしてもシリウス様も動いてくれたのか
今度会えたら礼を言わないとな」
「言わなくていいですよ、調子に乗るから」
「そうですわ、調子に乗りますわ」
二人ともシリウス様に厳しいね
「これで本当に決着がついたって感じだな」
「そうね」
(わたしはまだ始末書を書かないといけないけど)
小さいため息をつくベルさん
「どうかしたのベルさん」
「いえ、なんでもないわ」
まあユザワヤの件で疲れたんだろうな
「ところで家族として迎え入れたって言ったわよね?」
「ああ、三人とも俺たちの家族だ」
「それって養子にしたってこと?」
「いや、この屋敷に住むんだから俺たちの家族ってことになるだろ」
「それただの同居人では」
「え、一緒に住むなら家族だろ
仲間も一緒に住んでいるし、仲間は家族同然だし」
うーんと困った顔をして考え込むベルさん
隣でなるほどといった感じで頷くシシリー
「ケンタさんの考えを否定する気はないけど一般的には家族ではないわ」
「ええ!?」
「家族というのは親族や養子や婚姻により親族になった者など
そういった人たちが共に暮らす関係を家族と呼ぶのよ
もちろん家族同然に仲間を想う気持ちはいいことよ
でも一般的には家族ではなく同居人ということになるわね」
ようするに気持ちはそれでいいが世間的には違うということか
「理解はしたけど俺は家族として受け入れたんだ
それを変える気はないよ」
「ええ、変えなくてもいいわ
ケンタさんにとっては大事なことなんだと思うから
でもベッキーちゃんたちの親戚がいるはずよ
いずれ三人を引き取ると言うかも知れないわ
そのときはどうするの?」
たしかに伯父さんがいる
シッドさんの訃報を知って探して引き取りに来るかも知れない
「そのときは、ベッキーたちの気持ち次第だ
それまでは俺たちが家族だ」
「わかったわ、そのことについてはもう言いません
色々言ってごめんなさいケンタさん」
「ベルさんは俺たちやベッキーたちのことを思って言ってくれたんだろ
わかっているから謝らなくていいよ」
ベルさんは俺たちのことを考えて言ってくれたんだ
そもそも家族にこだわっているのは俺のわがままだしな
「では私もここに住めばケンタ様の家族なのですね♪」
「なに言ってんの?」
シシリーがいい笑顔でおかしなことを言い出した
お前んちは徒歩10分先にあるだろ?
「それならわたしだってここに住めば・・・」
「ベルさん?」
ベルさんまでなんかブツブツ言い出した
「シシリー、伯爵邸がお前の家だ、帰れ」
「まあひどい!」
「ベルさんは、その、まだダメですよ?」
「わ、わかっていますよ!」
俺とベルさんは顔を赤くする
まだベルさんには告白の返事をしていない
付き合ってもいないのにさすがに同居はできないよ
「ずるいですわ、ベルさんと私への断り方に差がありますわね」
「当たり前だろ」
「まあいいですわ、いずれその差も埋めて私が頂に立ちますので」
「なんの?」
ほくそ笑むシシリーがちょっと恐い
それからシシリーとベルさんも一緒に夕食を食べた
なぜか俺の両隣に二人が座る
ベンケイさん、ニヤニヤしないで
食べ終わってシシリーは迎えの馬車で帰っていった
さすがに暗いから徒歩で帰れとは言わない
ベルさんは俺が送っていく
「ベルさん、ユザワヤの件、本当にありがとう」
「どういたしまして」
雑談しながらベルさんの家にカブで向かう
「着いたよ」
「送ってくれてありがとうケンタさん」
しばしの沈黙
「えっと、告白の返事、待たせてるよね」
「そうね、でも急がなくていいわよ」
(急いで断られたら困るもの)
「だけどあまり待たせるのも」
「いいの!」
口に人差し指を立てて塞がれる
「だって時間がかかるってことは迷ってるってことよね
それはわたしのことを真剣に考えてくれているってことだもの
少なくとも脈ありってことだから嬉しいのよ♪」
そりゃ考えるさ、ベルさん俺のどストライクだし
だけどリディアのこともあるから答えがすぐに出ない
「前にも言ったけど、他にもケンタさんを想う人がいるはずよ
その人たちの気持ちも受け止めてあげてほしいとも言ったわ
わたしは貴族寄りの考えだからわたしだけを選んでなんて言わないわ
まあわたしだけを選んでくれるというのも悪くはないけれど
ケンタさんが愛してくれるなら別にどっちでも構わない
だから、いい返事がもらえそうになるまで待ってるわ」
優しく微笑むベルさん
マジで俺にはもったいないくらい良い女性だ
「うん、しっかり考えるよ」
「ええ、いっぱいわたしのことを考えてね♪」
くそう、照れた顔が可愛い!
「それじゃおやすみなさい」
「おやすみ・・・」
ベルさんは家に入る
俺はゆっくりカブを走らせ屋敷に戻る
少し火照った顔を冷ましながら




