159 ペンペラン伯爵邸
「それじゃ行ってくるな」
「いってらっしゃい」
俺たちは領主邸へ挨拶しに行く、ベッキーたちは留守番だ
ポチャたちがいるから子供たちだけでも大丈夫だろう
俺たちの屋敷から歩いて約10分で正門へ到着する
門番が二人立っていて一人が中へ報告しに行ってくれた
何度か来たことはあるので俺たちのことを門番は知っている
「いらっしゃいませ皆様、ようこそペンペラン邸へ」
「お邪魔します」
シシリーが出迎えてくれて客間へ案内される
「どうぞこちらへ、お父様もすぐに参りますわ」
少しして領主様がやって来る
「よく来てくれたな、だが引っ越しの挨拶としては遅すぎるぞ」
「すみません」
しょうがないじゃん、忙しかったんだよ
「まずは我が街に巣食う悪党を退治してくれて感謝する、ありがとう」
領主様が一礼する
この領主様は平民であっても恩義に感謝を忘れない
「本来なら私がしっかり目を配っていれば良かったのだがな
奴らは表向きにはきちんとした商人と冒険者であったから気づけなかった
いやこれは言い訳だな、裏を見極められなかった私の失態でしかない」
「仕方がないですよ、領民全員の善悪を見極めるなんて難しいですから」
「そう言ってくれると救われる」
領主様はお茶を一口すする
「あの子供たちはどうしている?」
「ベッキーたちは家族として俺たちの屋敷にいる
辛いことはいっぱいあったけど元気でいます」
「そうか良かった、もしなにかあれば言ってくれ、必ず助けになろう」
「ありがとうございます」
「私もお助けいたしますわ」
「シシリーもありがとうな」
今回の件ではシシリーが領主様に伝えてくれたおかげもある
それに大事なことにも気づかせてくれたからな
「それでマニーや風の戦士団の処罰とかはこれからなんですよね」
「うむ、裁判は一週間後だが確実に重い処罰になるだろう
お前たちが渡してくれた録音玉が役に立った
奴らの悪事がしっかりと自白で入っていたからな
それに下っ端どもが簡単に奴らのことを白状しているし
なにより風の戦士団の連中が罪を認めている」
「え、あいつらが? 黙秘とかシラを切るとか思っていたんだけど」
「なにやら心が折れた感じで素直に白状したんだ、なにがあったのやら」
察した
格下の俺に負けてショックを受けていたサジン
きっとアンナに酷い目にあわされたであろうゲシュ
ホウキに宙吊りにされていたザキも同じく
ベンケイさんにフルボッコされたゴート
うん、心折れるよな
俺だったらベッドに潜り込んで引きこもるわ
「奴らには必ず罪に見合った処罰を下すことを約束する」
「はい、お願いします」
あとは領主様たちの仕事だ、俺たちは任せるしかない
「では挨拶も済みましたから帰ります」
「まあ待て、もう一つ大事な話がある」
なんだろう、またなにか依頼されるのか?
いつもこのパターンで依頼されていたからな
シシリーやシリウス様の護衛とかもそうだった
「これを冒険者ギルドに持って行け」
書簡の入った筒を渡される
「これは?」
「依頼達成の証明書だ」
「依頼達成? なにも依頼されていませんが」
「今回の一件、私が依頼したことにしている」
「んんん?」
今回の一件?
風の戦士団と戦ったこと?
マニーをとっちめたこと?
どちらも俺たちが勝手にやったことだ
ベッキーたちを助けるため、シッドさんの敵討ちのためだ
こんなの依頼でやることではない
そもそも依頼なんてされていない
「いやいや、おかしいですよ、俺たちが勝手にやったことですよ」
「それはわかっている、しかしそれだと問題があるのだ」
「問題?」
「まずマニーの件、アオイがマニーの商館へ侵入したよな
そして護衛やマニーを襲撃して捕縛していった」
アオイくんに頼んでマニーを捕まえに行ってもらったからな
「その侵入は不法侵入となる」
「あ・・・」
「不法侵入の上、アオイの方から襲撃して捕縛していっている
マニー側の応戦はいわば正当防衛となる」
アオイくんがわたしも処罰されちゃうのという顔をしていた
「で、でもあいつらの悪事が暴けたんだから・・・」
「それでも不法侵入と先に手を出したのはアオイだ」
ごもっともだけど、うわあどうしよう!
「次に風の戦士団」
「そっちも?」
「冒険者同士の私闘はギルドで基本的に禁止されている
もちろんこの国の法律でもだ」
模擬戦は構わないけど私闘が禁止されていることは知っている
「そして廃村は許可なく立ち入りを禁じている、これも不法侵入となる
その上、廃村で暴れて荒らすことも罪となる」
うん、建物壊したり大暴れしたね、やばいね
「だけどあいつらはアジトにしていましたよ」
「もちろん奴らも同様に、いやそれ以上に罪が重い
だがお前たちが不法侵入したことも暴れたことも事実」
でもなあ、ベッキーたちを助けるために急いでいたし
いちいち許可取ってられないし
「だから私からの依頼ということにした
マニーを捕縛するためにアオイを行かせたし
アジトを押さえるためにケンタたちを向かわせた
そういう依頼を出して達成してもらった
その依頼達成の証明書ということだ」
「そんな事後承諾のような、その、こじつけのような依頼っていいんですか?」
俺たちはベッキーたちを助けるために勝手にやったことだ
「受けてもいない依頼の達成証明書なんて不正では・・・」
「ふ、ケンタよ、これは正しい不正というのだ
世に必要悪があるのと同じで必要な不正もあるのだよ」
ニヤリと悪い顔をする領主様
不正なのに正しいってなんだよ
たしかに必要悪はあるかも知れないけど
まあ嘘も方便ということわざもあるからな
いいのか? うん、いいことにしとこう
「貴族というのはな、綺麗ごとだけでは務まらないのだよ
マニーやバッカーはやり過ぎていたがな」
そうだよな、世の中綺麗ごとだけではない
「わかりました、ありがたく頂戴いたします」
「うむ」
書状の入った筒を受け取る
「ああそれともう一通入れてあるからな
それもギルドマスターのキットに見せろ」
「そのもう一通ってなんですか?」
「ケンタたちのBランク昇格を認める推薦状だ
キットも今回の件は知っているから通るだろう」
Cランク昇格のときも推薦状を書いてくれた
また書いてくれたのか
「いいんですか?」
「バッカーだけではなくマニーの悪事も裁けることになった
お前たちは私に多大な貢献をしてくれている、その礼だ」
そんなに貢献した覚えはない
だけどこれもありがたくもらっておこう
「ん? Bランク昇格? ベンケイさんはどうなるんだ?」
ベンケイさんはBランクどころかすでにAランクだ
「すまんな、ベンケイ以外の昇格のみの推薦状だ」
「そんな、ベンケイさんだって仲間だし頑張ったのに」
「気にすんなケンタ、私は構わねえよ」
「だけど・・・」
「ベンケイはAランクだからSランクということになる
しかしSランク昇格は推薦状だけでは無理なのだ
推薦状も必要だが冒険者としての実績も必要
さらに昇格試験は必須事項となっている」
そうだった、Sランクになるためには必要なことが多かった
「もし昇格試験を受けたいのであれば別途推薦状を書くぞ
今でなくても今後受けたくなったら言ってくれ
それはケンタたちも同じだ、いつでも用意してやる」
「ありがとうございます」
「本当ならAランク昇格の推薦状を書きたかったのだがな
Sランクと同様、Aランクも実績と昇格試験が必須だ
どうするケンタ、昇格試験を受けるか?
それならば推薦状を書き直すが」
特に昇格を急いでいないしまだいいかな
「俺はまだいいけどみんなはどうする?」
「わたしもまだいいです」
「私もです」
「わたしも~」
「そうか、必要になったらいつでも言ってくれ
お前たちの実績は充分だし私はいつでも推薦状を書く
昇格試験はお前たちがやる気にならないとどうしようもない」
俺たちはそこまでランクにこだわっていないからな
ゆっくり上げていくさ
そういえばサジンはSランクだったよな、他の連中もAランクだし
あんな奴らでも実績と推薦状があったということになる
それに昇格試験もクリアしたってことだ
そこまで頑張ったのになんであんな風になったのかね
まあ俺が気にすることではないけれど
「推薦状と依頼達成証明書、ありがとうございました」
「礼を言うのは私の方だ、ありがとう」
「それでは失礼いたします」
「あら、もう少しゆっくりくつろいでいかれては」
シシリーがくつろぐように勧める
「帰るよ、ベッキーたちが待っているからな」
「そうでしたわね、あの子たちによろしく伝えておいて下さいませ」
帰るとき馬車で送ると言われたが断った
徒歩10分ぐらい歩くぞ?
マニーと風の戦士団のことはひとまずの決着は着いたから安心だ
ギルドへは後日行くことにしよう
ベッキーたちを今の生活に慣れさせることに専念したい
なにより俺たちも少しゆっくりしたいからな
「ただいま」
「おかえりなさい」
屋敷に帰っておかえりと言われる
うん、悪くない




