146 ベンケイ対ゴート
ケンタたちと別れて動いている点の一つへ向かう
トムとハックのどちらかだ、無事でいてくれ
敵の点と重なって動きが止まった
捕まったのか? 急ごう
遠目に見えてきた、トムだ
首を掴まれていたが顎を蹴り上げて脱出した
やるじゃねえかトム♪
怒った敵が動けないトムへ拳を振るう
させるかよ
全力で地を蹴り敵の顔面に膝蹴りを喰らわす
敵は吹き飛び地面にバウンドしながら倒れる
着地すると緩やかな風に髪が揺られる
「待たせたなトム」
「ベンケイ姉ちゃん!」
どうやらサクラの結界は壊れているらしい
首には敵の手の跡が残っている
「よく頑張ったな、あとは任せろ」
おっと、忘れちゃいけない
「トム、こいつに魔力を流して持ってろ」
「なにこれ?」
サクラから渡された球体の魔道具をトムに預ける
「僕、魔法なんか使えないよ?」
「ほんの少し魔力を流すだけだ、家の魔導灯の使い方と同じだ」
「それならできるね、でも何の魔道具なの?」
「説明は後だ、少し下がってろ」
敵が起き上がって殴りかかってきた
ドゴンッ!
敵の拳を拳で受け止める
「ほう、俺の拳を拳で受け止めるとは驚きだ」
「このぐらい大したことはないぜ」
ニヤニヤ値踏みするように私を見る敵
気持ち悪い奴だな、見んな
「それなりに強いだろうが所詮はCランクだろ?」
「私はAランクだ」
「そういやお前らのパーティーには一人だけAがいたな
お前がそうだったのか、こりゃツイてるぜ♪」
「そうか?」
「お前がAなら他はCだ、だったらお前らに勝ち目はねえな
俺たちはサジン以外Aだからな♪」
「それがどうした」
「俺以外の相手が全員Cで俺の仲間のAとSが負けるわけないだろ?
そして同じAでも俺はお前に勝てるからな♪」
しょうもない理屈だな、こいつバカだな
「ランクってのはギルドが決めた目安だ
実際の実力はそれだけで決まらないぜ」
「ほう、いいねえ、その強がりがどこまでのものか見せてくれよ♪」
「いいぜ」
私は構える、敵も構える
「一応名乗っておくぜ、俺はゴート」
「私はベンケイ、まあ調べて知っているだろうけどな」
名乗りを合図にゴートが拳と蹴りを次々と放ってくる
一応Aランクだけはあるようだ、速いし的確に急所を狙ってくる
だが私はすべてかわしていく
「ほう、やるじゃねえか、だが避けてばかりじゃ勝てないぜ♪」
「そうだな」
攻撃をかわして数歩後ろへ下がる
「サンドバッグ」
「あん? そんな離れてどうするんだ」
私は拳を撃ち込む
ゴートが私の拳に吸い込まれるように引っ張られる
「なんだ!?」
『十連ハートブレイクショット!』
ズドドドドドドドドドドッッ!!
「ぐ、ばぅあっ!?」
十発すべての拳をゴートの心臓に高速で連撃する
十発目を撃ち込まれてゴートは吹き飛び仰向けに倒れる
普通なら死ぬだろうがこいつは生きている
こんな奴でもしっかりと鍛えているようだ
「ベンケイ姉ちゃん、そいつ縛ったりしなくていいの?」
「まだだ、こいつはまだ起き上がってくる」
「起き上がる前に縛った方が・・・」
「いや、これで終わらすわけにはいかねえんだよ」
「どういうこと?」
「・・・う、ぐぐ」
ゴートが起き上がる
「ぐはぁ、今のは効いたぜ、くそ」
「起きたか」
「正々堂々ってか? 俺なら倒れた後でも殴り続けるぜ」
「ひでえ奴だな」
「ひどい? よええ奴は殴られ嬲られても仕方がねえんだよ
それに勘弁してくれって懇願する姿を見るのは楽しいし
もちろん死ぬまで殴り続けるがな、わはは♪」
「そうかよ、それじゃこれまでもお前に殴り殺された奴はたくさんいるんだな」
「ああ、これまでもこれからも、そしてお前もな♪」
ゴートが再び攻撃を仕掛けてくるがかわしていく
「ちぃ、ほんと避けるのうめぇな」
「お前、今までどれだけ殴り殺してきたんだ?」
「かわしながら質問とは余裕かよ」
「余裕だぜ?」
「はん、数なんざ覚えてねえよ
強いて言うなら星の数ほど殴り殺してやったぜ♪」
次の一手をかわさず平手で弾く
「殴り殺すのは楽しかったか?」
「おう、最っ高に楽しかったぜ!
よええ奴が無様に俺の拳で潰れていくのは気分が良い
懇願し絶望して死んでいくんだぜ?
こんな快感、他にはねえぜえ♪」
「そうか、そいつは良かったな」
「お? お前ももしかしてそういう口か?
なんなら俺たちの仲間になって一緒に狩りに行くか?
お前強いから大歓迎だぜ♪」
ゴートが攻撃をやめて握手を求めてくる
「良かったなってのはそういう意味じゃねえよ」
「あん?」
バチン! ゴートの差し出した手を弾く
「てめえのような腐れ脳筋なら遠慮せずぶちのめせる
そういう意味の良かったってことだ」
「腐れ・・・ てめえ」
ゴートの額に血管が浮く
「怒ったか? 怒ってんのは私の方なんだがな」
静かにゴートを見据える
「しょうがねえなあ、てめえも殴って嬲り殺してやらあ」
「お前にはできねえよ」
「うるせえ!」
ゴートが拳を無差別に放ってくる
結構な速さでほぼ全方位に繰り出してくる
『喰らいやがれっ! 爆砕連打!!』
「その強さをもっといいことに使えよな、まったく」
私は呆れながら距離を取る ズバッ!
「逃がさねえよ!」
間合いを詰めてくるゴート
「その拳も」
「うらあっ!」
「当たらなければどうということはない」
「んが?」
(なんだ? 俺の身体が地面に落ちていく?)
拳を繰り出しながらゴートは地面に激突する
「なんだこりゃあっ!?」
「終わりだ」
倒れているゴートの近くに立つ
「てめえ、何をした? んぐっ!? い、いてえぇっ!」
「鈍い奴だな、今頃痛みに気づいたか」
ゴートの両足の膝下がなくなっている
距離を取ってすぐに私が火雷神で斬り捨てた
「て、てめえっ! 武器使うなんて卑怯だぞおっ!」
「お前にとってこれは殺し合いなんだろ?
殺し合いに卑怯もくそもあるかよ」
「うぐぐ・・・」
悔しそうに唸るゴート
「やべえ、血が、血が止まらねえ」
「まあ両足切断してるからな」
ゴートの顔が青ざめていく
「た、助けてくれ、死にたくねえ」
「懇願した相手を殺してきた奴が命乞いか?」
「わ、悪かった! もう、もう二度としねえから!」
「今後しないからといって今までの罪は消えねえよ」
「た、頼むう、助けてくれよう・・・」
必死なゴート、殺されてきた奴らもこんな感じだったのだろう
「一つ、教えておいてやる」
「な、なんだ?」
「殺していいのは殺される覚悟のある奴だけだ」
「はあぁ~?」
わけがわからないといった顔のまま気を失うゴート
「ベンケイ姉ちゃん、そいつ死んだの?」
「いや、こいつしぶといからまだ生きている」
私はサクラからもらった治癒薬を足にかけてやる
血が止まり傷も見る見るうちに塞がっていく
すげえ効果だな、サクラの治癒薬
適当に包帯を巻いてやって特製の鎖縄で身体を拘束する
この鎖縄はアオイからもらった
「これで一丁上がり♪」
「こいつの力なら鎖でもちぎれるんじゃ」
「こいつは魔道具だから力だけでは無理だ
アオイは魔道具ではなく忍具とか言ってるけどな」
ゴートを建物の横に座らせておく
「それじゃ奴らが集まっているところへ行くぞ」
「おじさんたちと合流しないの?」
「そっちの邪魔をさせないためにザコどもを足止めするんだよ」
「なるほど」
私はトムを連れてザコが集まっているところへ向かった
ケンタたちなら心配ない、あいつらは強いからな
・・・正直、助けずに殺してしまいたかった
でもケンタに止められているからな
「よし、ザコどもに八つ当たりだ♪」
「ええ!?」




