143 風の戦士団
俺たちは探索マップを確認しながらベッキーたちを目指す
「どうやら街の外まで連れて行かれているな」
「とにかく北門へ行きましょう」
北門の前には馬車が渋滞していた
門兵たちが出入りの手続きで忙しなく動いていた
「これじゃあ外へ出るまでかなり時間がかかるぞ」
「なぜこんなに馬車が並んでいるのかしら」
「ああ、なんとなくわかりました」
「アンナ?」
昨日は馬車をチョビ髭が全車予約していた
そう、この馬車の群れはその予約された馬車集団だ
昨日出発ではなく今日出発にしていたのだろう
「移動手段を奪うだけじゃないってことか
俺たちを街から出しにくくするためでもあったんだ」
「あのクズ、見た目に反して悪知恵が回りますね」
アンナはもう商人ではなくクズ呼ばわりしている
「どうするケンタ、時間がねえぞ」
「くそ、どうすりゃいいんだ」
「だったら門を使わなければいいのよ」
「サクラさん?」
北門の列から離れて人気のない街の壁の前に来た
「じゃさっき説明したように壁を越えるわよ」
そう、正規ルートで街を出ずにこっそり勝手に出ることにした
アンナは自慢の羽根で飛んで壁を越える
サクラさんはベンケイさんをホウキに相乗りさせて壁を越える
アオイくんは俺がお姫様抱っこをしてフライで壁を越える
(うわー、うわー、うわー!)
アオイくんが変な顔をしている
どうしたんだろう?
「アオイくん、大丈夫か?」
「は、はひぃ~」
「ほんと大丈夫か?」
ポチャは俺の肩、サスケはアオイくんの頭の上
ヨシツネはベンケイさんの肩
ホワイトとブラックはサクラさんの肩
というように飛べないガイド精霊はそれぞれの場所に乗っている
ブルーとレッドは自力で飛べる
「よし、ここからはまたカブで走れるから急ごう」
北にある小さな森を急いで抜ける
探索マップにあるように廃村が見えてくる
まだ捕まっていないので安心する
「もう少しだ、逃げ切れよ」
少し移動して地下室のある廃屋を見つけた三人
小ぢんまりとしたワインセラーでした
ただ三人には何の部屋かわかりません
「扉も丈夫だったから隠れるにはいいね」
「姉ちゃんはここに隠れていて」
「二人ともどこへ行くの?」
ベッキーをここに隠すつもりの二人
「僕たちは分かれてあいつらを引き付けるよ」
「ベンケイ姉ちゃんが言ってた、カクラン?とかいうやつだよ」
「そんな、危険だからやめて!」
もしも二人が捕まって酷い目にあったらと心配するベッキー
「こういうときのために訓練してたんだ」
「僕たちだって姉ちゃんを守れるんだ」
「「おじさんには負けないよ!」」
トムとハックは地下から出て扉をしっかり閉める
「トム、ハック、、、」
ベッキーは二人を止められませんでした
「兄ちゃん、僕はこっちへ行くね」
「うん、僕はこっちだ、それじゃ」
「「地獄で会おう!」」
ベンケイが教えた再会を誓う言葉を言って走り出す二人だった
「よう、ガキどもは捕まえられたか?」
「あ、サジンさん」
「すみません、まだ見つからなくて」
風の戦士団が廃村に到着する
「まったく役に立たないな、ここからは俺たちに任せろ」
風の戦士団リーダーの大剣豪サジン、守銭奴
Aランクパーティーだが唯一のSランク冒険者
「少しぐらい痛めつけてもいいんだろ?」
格闘家ゴート、動けなくなった相手を一方的に殴るのが趣味
「いいんじゃないですか? 私が治癒しますし♪」
僧侶ザキ、人体実験が趣味
「大事な取引商品なんだから無茶なことするなよ」
魔導士ゲシュ、10歳以下の少年が大好物
「ゲシュ、ガキどもの居場所を探ってくれ」
「すぐに見つかるさ、<探索>」
探索で廃村内を調べるゲシュ
「ほう、こいつは面白い」
「どうした?」
「こいつらから魔法の気配がする、なんか身体にまとっているな
身体強化か? 他は魔道具からだな」
ゲシュの探索は位置だけではなく魔力も辿ることができる
「あのガキどもに魔法が使えるとは思えんな
だとするとあの男が仕込んだのか?」
サジンはニヤリとする
「たしかに面白い、捕まえたあと奴らが来るのを待とうじゃないか」
「私の実験台にさせて下さいよ♪」
「殴り潰してやるぜ!」
「おっさんと女どもなんだろ? 俺は興味ないね」
「好きにしろ、それじゃさっさと捕まえに行こうか」
「三人ともバラけているな、どうする?」
「動いているのが二人、留まっているのが一人か
なら手分けをするしかないな」
「止まっているのなんかつまらん、俺は右側のガキのところへ行くぜ」
ゴートは左右に分かれて逃げている右側を選ぶ
「動いていないのは多分姉だな、弟二人が囮にでもなっているのだろう」
「なるほど、なら左側の少年を狙うとしよう」
ゲシュは左側を選び、ほくそ笑む
「では私とサジンで姉のところへ行きますか」
「決まったな、では散開!」
風の戦士団はそれぞれのターゲットに向かって動き出す
「なんか静かになった、追いかけてくる足音も聞こえない」
チンピラたちの姿がなくなったので不思議に思うトム
「見つけたぜ♪」
「え?」
廃屋の上からゴートが降り立つ、拳を撃ち込みながら
ドガガンッ!
「うわあっ!」
「避けたか、すばしっこいな」
辛うじて転がってかわせたトム
撃ち抜かれた地面に穴があく
「ザキに治させりゃいいから可愛がってやるぜ♪」
ゴートは腕を振りながらトムを見下ろす
「兄ちゃん大丈夫かな、姉ちゃん見つかってないよね」
コソコソ隠れながら少しずつ慎重に移動するハック
詰んである木箱を背に様子をうかがう
ズババンッ!
「うわっ!?」
木箱が何かに貫かれ爆散する
驚いて飛び退いたが木箱の破片が飛んでくる
しかしすべて弾かれたためハックに怪我はない
「へえ、無傷か」
ゲシュがアイスアローで木箱を貫き破壊したのだ
「ザキが言っていたな、魔法をまとっているって
身体強化じゃないな、結界か?」
(だけど結界なら身体に当たる前に防げるよな)
「まあいいか、って待てこら」
考え事をしている間に逃げていたハック
「待てと言われて待つバカはいないよー」
「しょうがないな」
ゲシュはハックを追いかける
サジンとザキがベッキーの隠れている廃屋へ着く
周辺をチンピラで囲んで廃屋の中へ入っていく
「ここのはずですよね」
「部屋にはいないな」
地下の扉を見つけるサジン
扉は中から鍵がかかっているため開けられない
「おい、観念して出てこい」
「サジン、それじゃ出てきませんよ」
ザキがサジンにダメ出しをする
「お嬢さん、出てこないと弟くんたちが酷い目に遭いますよ」
(まさか捕まったの!?)
「あ、嘘だと思っていますか? 仕方がありませんね
信じないなら別にいいんですけどね、可哀想に」
ザキはサジンとチンピラたちに音を出さないように合図します
無言のまま数分が経つ
(立ち去ったの? なんでなにも言わないの?)
どんどん不安になるベッキー
「お嬢さん、出てこないと弟くんの一人を殺しますよ?
それでどっちから殺せばいいか君が選んで下さい
もしくは素直に出てくるかですね」
(・・・・・)
ガチャリ
扉が開いてベッキーが出てくる
「お願い、二人は、二人だけは助けて、、、」
少しだけ涙をにじませながら懇願するベッキー
「ええ、いいですよ、マニーさんに交渉してあげましょう」
「まったく手間をかけさせやがって」
「あの、トムとハックはどこですか?」
二人の姿が見当たらない
「さあ、まだ捕まったという報告がありませんからね」
「な、嘘だったの?」
「いいから来い」
サジンがベッキーの腕を掴もうとする
それをかわしてベッキーは廃屋を飛び出す
しかし外はチンピラたちが囲んでいた
「ああ・・・」
愕然とするベッキー
サジンとザキも廃屋からゆっくり出てくる
「無駄な抵抗ばかりしやがって」
サジンは今度こそベッキーの腕を掴んだ




