142 トムとハック
ベッキーたちの伯父ピーターを名乗る男
ベッキーたちはその男の宿泊先へと移動していた
街の北門へ馬車は行く
「あの、この街に泊まっているんじゃないのですか?」
「街を出て少し先にある村に泊まっているのだよ」
「なんで街に泊まらないんですか?」
「恥ずかしい話、最近は業績が悪くてね
経費削減のため村の安宿を利用することにしているんだ」
苦笑するピーター
言っていることの筋は通っているためベッキーは黙る
ただ少しずつ不安が募る
北門を出てまっすぐ北へ向かう馬車
小さな森を抜けると村が見えてくる
(これが村?)
村を囲む柵は補修されず朽ちていた
見える建物もボロボロだった
活気もなく人気も感じない場所
「この村、廃村じゃないんですか?」
「はは、ボロボロだからって住んでいる人に失礼だよ」
(こんなところに住んでいる人なんているの?)
村に入って村の中で唯一ボロボロではない建物に着く
その建物はしっかりと手入れがされていた
「それじゃ宿の人に君たちの部屋を追加で頼んでくるよ
馬車の中で待っていてくれ」
ピーターは馬車から降りて建物に入っていく
入ったのを見計らってベッキーは馬車の扉を開けようとする
しかし開かない
「トム、ハック、これってやっぱり騙されたんだよね」
「姉ちゃん、僕たちがいるから大丈夫だよ」
「そうだよ、僕たちがいるよ」
不安がるベッキーを元気づける二人
そこへ建物から二人の男が馬車までやって来る
どこから見ても宿屋の従業員ではない
マニーと一緒に来ていたチンピラと同じような男たちだった
「降りろ、大人しく付いて来い」
「下手な抵抗は痛い目を見るだけだからな」
言われたとおり大人しく馬車から降りる三人
三人の前と後ろに立って連行していく
三人は前からトム、ベッキー、ハックの順に縦並びで歩く
「そうやって素直に付いて来れば何もしねえからよ」
「大事な商品だ、丁重に扱ってやるよ♪」
ヘラヘラ笑いながら連行していく男たち
(姉ちゃん、走る準備しててね)
(ちょっと引っ張るけど一緒に走ってね)
(トム? ハック?)
「おじさん、お菓子食べていい?」
ハックが後ろの男に聞く
「あん? こんなときに度胸あるな、面白いガキだ
食っていいぞ、てか俺も小腹が空いたから少しくれ」
「いいよ♪」
ハックは収納袋を漁ります
「ほういいもん持ってるな、だけどあとで没収な」
収納袋から小袋を出すハック
「おい早く寄越せ」
「うん、あげるー♪」
ハックは小袋を男の顔に投げつける
「うわ、なにを!?」
バン!
袋が開いて中に入っていた粉が男の眼前に広がる
「んぎゃあっ! いてえっ! しみるぅっ!」
その粉が目に入り、口から吸い込む
涙を流し、鼻水を出して、咳き込む男
その場に崩れて顔を抑えて喚き苦しむ
コショウ爆弾は効果てきめんだった
「なんだ!?」
前にいた男が何事かと振り向く
振り向くと眼前にトムの手が迫っていた
「うおっ!?」
手に持っていたゴム袋を至近距離から男の顔へぶつける
破裂したゴム袋からドロッとした液体が飛び散る
目を中心に顔中に広がっていく
「うがはぁっ!! いたたた! んはあっ!」
後ろの男と同じく目と鼻と口をやられる
マスタード爆弾、コショウと違って顔に張り付く
二人の男がのた打ち回る
「「行くよ、姉ちゃん!」」
「ちょ、ちょっと二人とも!?」
トムとハックはベッキーの手を掴み走り出す
ベッキーは突然のことで慌てる
三人はその場から全力で逃走した
ここは少し小さめの街のような廃村
マニーが奴隷や闇取引の商品の倉庫として使っている
雇ったチンピラどもを警備にあてている
建物の配置や雰囲気はさながらスラム街のようであった
小さめの街ほどの広さはあるので入り組んでいた
そのため小さな子供なら隠れられる場所はたくさんあった
三人は廃屋の一つに入って少し休憩する
「はあ、はあ」
「姉ちゃん、水飲んで」
トムが水をベッキーに渡す
水を飲んで息を整えるベッキー
「あんたたち、なんなのよアレ」
「姉ちゃん、声抑えて」
「あ、うん、ごめん」
慌てて口を押さえるベッキー
「子供相手なら油断してるからそこをつけって言われた」
「近くに寄って確実に撃ち込めって言われた」
「・・・ベンケイさんね」
「それで相手が隙を見せたら全力で走れって言われた」
「ひたすらコソコソ逃げろって言われた」
「ベンケイさん・・・」
ともかく建物に入る前に逃げることに成功しました
「これからどうするの?」
「うーん、まだ敵地だから逃げ隠れするしかないかな」
「でもあの二人以外にもいるでしょ」
ここは敵地、廃村内にはチンピラたちがウロウロしています
仮に廃村から出たとしても街へは小さな森を抜けないといけない
ましてや子供の足では逃げ切れない
「結局、捕まって終わりなのね
ごめんね、わたしが騙されたばっかりに」
ニセ伯父に付いていくことを選んでしまったこと
ケンタたちが来るまで待たなかったこと
ベッキーは自身の選択に後悔する
「大丈夫だよ」
「そうだよ」
「あんたたち前向きね」
こんな状況でも元気な弟たちに苦笑するベッキー
「だっておじさんたちが助けに来てくれるよ」
「そうだよ、それまで捕まらなければいいんだよ」
「ここにいること、おじさんたちは知らないでしょ」
三人は靴にGPSが付与されていることは知りません
「ベンケイ姉ちゃんが言ってた」
『別に勝たなくてもいい、逃げ切れればいいだけだ
強い助っ人のいるところまで逃げ切れればお前らの勝ちだ』
「アオイ姉ちゃんも言ってた」
『勝てない相手からは逃げて強い味方に任せるの』
「「捕まらなければどうということはない!」」
(助かったら二人に一言文句言おう、うんそうしよう)
ベッキーは変な決意を持てるぐらいは冷静になりました
「でもその強い味方がどこにいるかわからないじゃない」
「おじさんが言ってた、どこにいても見つけてやるって」
「だから見つけてくれるまで頑張る!」
(おじさん・・・)
もがき苦しむ男たち
何事かと建物からチンピラたちが出てくる
「うおっ、どうしたお前ら」
「ガ、ガキがぁっ、ふぐぅ」
「に、にげたっ、ひぃ、ひぃ」
苦しむ二人からベッキーたちが逃げたことを知る
数人が三人を探しに走り、残りは男たちの介抱をする
そして一人が馬に乗ってマニーへ報告に行った
マニーの商館、その地下施設
ここは闇取引などを行う場所である
今日も闇取引の商談をしていた
マニーは商談が終わってくつろいでいた
そこへ伝令がやって来る
「何をしとるんだ貴様ら! 逃がしただとおっ!?」
「も、申し訳ありません」
「まあいい、あの場所から出るのはガキどもには無理だろう
出れたとしても森があるからすぐに捕まえられるか」
(ケンタとかいう奴にあの場所がわかるはずもないからな)
「全員で廃村中をくまなく探してさっさと捕まえろ」
「は、はい!」
伝令の男はまた馬に乗って急いで廃村へ戻って行った
「騒がしいですね、何かあったのですか?」
「サジンか」
サジンだけでなく風の戦士団全員が顔を出す
マニーは子供たちが無駄な抵抗をしていると憤る
「丁度いい、ザコどもだけでは時間がかかる
お前たちもガキどもを捕まえに行ってくれ」
「それは別料金になりますよ?」
「ふん、これだから冒険者は、くれてやるから行け」
「いつもありがとうございます♪」
「言っておくが姉は傷付けるなよ?」
「承知致しました、弟たちは?」
「殺さなければどうしようと構わん」
「わかりました、お任せ下さい依頼主様♪」
風の戦士団も廃村へ向かいました
「あいつらならすぐに捕まえるだろう
これで予定どおり今夜はあの娘と、くくく」
マニーはワインを片手にいやらしい笑みを浮かべる




