140 想定外
久しぶりに屋敷で朝を迎える
今日はベルさんがやって来る
きっと風の戦士団のことだろう
俺が頼りないから調べてくれたんだと思う
でも危険なことはしないで欲しい
みんなも起きて来て朝食をとる
食べ終わってくつろいでいると呼び鈴が鳴る
俺が迎えに行こうとするとポチャが先に行った
誰か来ると出迎える習慣がついたようだ
知らない人を上げたらダメだぞ?
俺が玄関へ着く前にすでにポチャが案内していた
「おはようケンタさん、お邪魔します」
「おはようございますケンタ様」
「おはようベルさん、シシリー」
シシリーも来ていた
本当に毎日来ているんだな
応接室へ全員集まる
「ベルさん、シシリーがいるけどいいの?」
「シシリー様には事情を話してあります
ケンタさんに許可なく話しました、ごめんなさい」
「いや謝らないで、ベルさんなりに考えがあったんだろ」
「ええ」
「ケンタ様、もっと私やお父様を頼っていただきたいですわ」
平民の私情に領主様を巻き込めるかよ
「敵の背後には貴族もおられるのでしょう?
ケンタ様たちではどうこうできませんわよね
ならば貴族である私たちを頼って下さいな
それに我が家は伯爵家、格上ですわよ
その騎士爵ぐらいどうこうできますわ」
たしかにそうだろうけど
「悪かったよ、それからありがとう」
「わかっていただければよろしいですわ」
「それじゃ遠慮なく、領主様にマニーの方を任せてもいいか?」
「もちろんですわ、と言いますかすでに動いていますの」
「へあ?」
どうやらベルさんから事情を聞いてすぐに領主様に報告したらしい
そして領主様も報告を受けてすぐに動いてくれているそうだ
なんて仕事の早い領主親子
「ありがとうシシリー、領主様にはこの件が片付いたらお礼に行くよ」
「ええ、お父様に伝えておきますわ」
「ベルさんもありがとう、おかげでこっちの負担が減ったよ」
「いいのよ、でもまだ風の戦士団が残っているでしょ」
「ああ、それに謎のAランク冒険者もな」
「それらのことで情報共有をしましょうケンタさん」
まずこちらの状況を説明した
ベッキーたちの家が燃やされたこと
俺たちの屋敷に迎え入れること
そのために馬車を用意して欲しいこと
「そう、あれからそんなことがあったのね」
「酷いですわね、住処まで燃やすなどありえませんわ」
「それで今は教会に預けているけど安心はできない
この話し合いが終わったらすぐにでも戻りたいんだ」
「わかったわ、馬車はギルドの方で用意するわね」
「ありがとう」
「次はわたしの方でわかった情報を話すわね」
「頼む」
風の戦士団の最近の活動内容はあの迷宮攻略ばかりだった
そして必ず10層周回だけで帰還している
「やっぱりシッドさんと同じやり方で荒稼ぎしているんだな」
そして合同参加した冒険者のほとんどが死んでいる
生き残った人も後日亡くなったり行方不明になっていた
「口封じか、どこまでもクソだな」
「謎のAランク冒険者も殺されているのかも」
「それはないわケンタさん」
謎のAランク冒険者は風の戦士団とグルだと言うベルさん
グルだから殺されるわけがないということか
「でもなんで奴ら側だってわかるんだ?」
「そもそも冒険者じゃないから」
「冒険者じゃない? それじゃマニーの部下かなんかか?」
「マニー騎士爵の部下でもないけどその人物は特定できています
証拠は集めているところだけどほぼ確定しているわ」
冒険者と商人貴族だけでなく別枠の奴がいたのか
「どこのどいつか教えてくれる?」
「ユザワヤさんという人よ」
「名前だけじゃわからないよ」
ベルさんが言いにくそうにしている
貴族と冒険者以外の奴だが何かヤバい奴なのか?
「王都の冒険者ギルド、サブギルドマスターよ」
俺たちは言っていることが理解し難かった
サブマスだって? しかも王都の
「同じギルド職員として恥ずかしい限りです、ごめんなさい」
「いや、ベルさんや真面目に働いている職員は悪くないだろ」
「それでもこれはギルドの不祥事になります」
たしかに警官が事件を起こしたら他の警官も悪く思われるのと同じか
それでもベルさんは悪くない!
「それにしてもサブマスか、こいつも俺たちには手出しできないな」
「ええ、だからユザワヤさんに関してはわたしに任せて」
「ベルさんが危険じゃないか、相手の方が権力あるし」
「大丈夫です、糾弾する手筈はすでに打ってあります」
「どゆこと?」
「こう見えてわたしにも使える手札はいくらでもあるのですよ♪」
笑っていない目をして笑うベルさん、ちょっと恐い
「ベル、ちょっと恐いぞ」
ベンケイさん、言っちゃダメー!
「わたし、怒っていますからね
私欲のためにギルドを利用するなんてサブマス失格です
そして小さな子供たちを苦しめるなんて許せません!」
握り拳で語るベルさん
「落ち着きなさい、ベルさん」
「あ、ごめんなさい、つい熱くなりました」
シシリーにたしなめられて座り直すベルさん
「ともかくギルドのことはギルドでなんとかしますので任せてください」
「う、うん、お願いするよベルさん」
それから伝え忘れがないか確認したり意見などを出し合った
「それじゃわたしはギルドへ戻って馬車を手配します
なるべく早く屋敷へ馬車を送りますから待ってて」
「ありがとうベルさん」
ベルさんはギルドへ向かった
「では私もお父様へ報告へ参ります」
「シシリーもありがとうな」
「この件が落ち着いたら必ず我が家へお越し下さいね」
「ああ、絶対みんなで挨拶に行く」
シシリーは馬車で帰っていった
徒歩、いやツッコまないでおこう
俺たちはギルドから馬車が届くまで待機する
その間にみんなで情報をまとめたり今後のことを話し合う
1時間後、馬車が屋敷へ来る
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
ギルド職員の男性が御者をして馬車を届けてくれた
その人が降りて一礼して立ち去る
「では私が走らせますね」
「頼んだぞアンナ」
アンナ以外御者ができないので任せる
「結界は張っておいたわよ」
「ありがとうサクラさん」
今回はガイド精霊も全員連れて行くので屋敷に誰もいなくなる
なので敷地全体に結界を張ってセキュリティ対策だ
「さあ行くぞ、ベッキーたちを迎えにゴーだ!」
馬車は走り出す、ベッキーたちの待つ教会へ向かって
13時頃、教会へ到着した
馬車は速いがカブよりは遅いので時間がかかった
俺たちは急いで教会内へ入る
ベッキーたちの姿はないが部屋にいるのかも知れない
「おや、どうしましたか?」
「神父様、こんにちは」
昨日、手続きしてくれた神父様だ
「預けていた子供たちを引き取りに来ました、どこにいますか?」
「え?」
「え?」
なんかイヤな予感がする
「あの子たちの伯父様が引き取りに来られて連れて行きましたよ」
「はあ?」
「たしかあなた、ケンタさんでしたよね」
「はい」
「ケンタさんのお名前も出していましたし
親戚であるその方が引き取ることになったと言っていました
ケンタさんとは話がついているとも」
そんな奴とは会ってもいないし、そんな話はしていない
やられた、まさかそんな手でくるとは
脅しや金や暴力なんかの手段しか対策を考えていなかった
堂々と教会へ足を運び交渉(詐欺)だけでくることは考えていなかった
もっと考えろよ俺のバカ野郎!




