139 ベルとシシリーとガイド精霊
風の戦士団やユザワヤさんのことを調べていく
情報が集まるにつれて真っ黒だとしか思えなくなってきた
規則違反しているわたしも懲罰ものだけどね
ケンタさんが言っていた商人、バブリー・マニー
この人に関しては調べようがないので諦めます
手がないわけではないのですが置いておきます
風の戦士団をギルド側からどうこうできません
表向きは普通に依頼をこなしているだけですから
だからせめて情報だけでも伝えましょう
わたしがどうにかできるのはユザワヤさんぐらいですね
もちろん簡単ではありません、相手は王都のサブマスですから
でもギルド内のことです、私が使える手は使っていきましょう
「それで話というのはなんですかベルさん」
キット・カットさん、この街の冒険者ギルドのギルマスです
眼鏡をかけていて細身なのでよく事務員さんと間違われています
見た目はともかく元Sランク冒険者です
「ギルド関係者として糾弾したい方がいます」
「ユザワヤさんのことですか?」
「え、なんでわかったのですか!?」
どうやらわたしがコソコソ調べていたことがバレていたようです
それなのに見て見ぬふりをしてくれていたようです
「すみません、でもなぜ見逃してくれたのですか?」
「あなたはこのギルドに一番貢献して下さっていますからね
それに真面目なあなたが違反してまでやっていることです
それなりの理由があるのでしょう」
すみません、惚れた弱みの利己的な理由です
「ただもっと早く相談していただきたかったです」
「さすがに個人的なことで相談できませんでした、すみません」
「責めているわけではないので謝罪は不要です
それよりも事情を話していただけますか?」
「はい」
わたしは風の戦士団のこと、シッドさんのことなどを話します
ケンタさんには悪いけどケンタさんが関わっていることも話します
キットさんは正直に話せば助けてくれる人だから
「なるほど、マニー騎士爵も関わっていることですか
風の戦士団とマニー騎士爵のことはすぐになんとかはできませんね
ですがユザワヤさんに関しては私も動きましょう」
「いいんですか?」
「はい、うちだけではなく全ギルドに関わる問題ですから
それに以前から私も彼の行動には疑問を抱いていましたからね
いい機会です、片付けてしまいましょう」
どうやらユザワヤさんは様々な不正を疑われていたようです
ただ証拠も被害届けもないため手が出せなかったそうです
「王都のギルマス、ニードルさんには私から連絡しておきます
他になにかベルさんが打っておきたい手はありますか?」
「あ、それでしたら」
わたしはキットさんにあれこれ頼みます
「ベルさんは人使いが荒いなあ」
苦笑するキットさん
ギルマスでもなんでも使える手は使いますよ?
今日はお休みなのでケンタさんたちの屋敷へ行きます
でも留守だったので日を改めましょう
翌々日、屋敷へ行きます
屋敷の前に馬車が止まっていました
(あれって領主様のところの馬車よね?)
シシリー様が門のところで誰かと話していました
ケンタさんかな?
早く会いたくて門のところへ早歩きになります
すると
「今日は王都から取り寄せたクッキーを持ってきましたわ」
「わーいクッキー♪」
シシリー様の前には誰の姿もありません、独り言?
シシリー様の目線が下にあることに気づきます
下を見るとケンタさんの飼っている犬、ポチャくんがいました
「シシリーお姉さん、どーぞー♪」
「お邪魔しますわ」
ポチャくんが器用に門を開けてシシリー様を招き入れます
わたしは立ち尽くして呆然としました
「犬が、しゃべってる・・・」
思わずつぶやいた声にシシリー様が振り向きます
「あら、ベルさん」
「シシリー様、お久しぶりです」
「お久しぶりですわ」
そのまま少しの間お互い黙ります
「だーれー?」
ポチャくんがシシリー様の足元まで来てこっちを見ます
そして固まったように動きが止まりました
「シシリー様」
「なんでしょう?」
「ポチャくん、しゃべっていますね?」
「気のせいではありませんか?」 ニッコリ♪
いやいやシシリー様、そんな笑顔では誤魔化されませんよ
「・・・ポチャくん、元気だった?」
「うん、げんきー♪ っうぁっ!」
黙って後ろを向くポチャくん
尻尾がしょんぼりしています
可愛い♪
じゃなくてーーー!
「ほら! しゃべりましたよ今!」
「はあ、これはもう誤魔化せませんわね」
片手で顔を覆い空を見上げるシシリー様
もとより誤魔化せていませんよ!
「もう、ポチャが返事なんてするから」
「ごめんなさい」
「説明していただけますか?」
「仕方がありませんわね、いいですかポチャ?」
「うん、ごめんね」
シシリー様の説明によるとただの犬ではなく聖獣とのこと
ケンタさん、聖獣なんてすごいの飼ってたのね
さらにサスケくんとヨシツネくんも聖獣だと教えられます
なんなの永遠の混沌、普通のパーティーじゃないわ!
「ふう、一応理解しました、したくないけど」
「そう、それはよかったわ」
よくはないですよ?
「ねーねー、中で話そうよー」
「そうですわね」
「ポチャくん、わたしも入っていい?」
「いーよー♪」
わたしとシシリー様は応接室へ招かれます
「ポチャさん、もう少し考えて行動して下さい」
「ごめーん」
サスケくんにたしなめられるポチャくん
本当にサスケくんもしゃべっていた
「あまり驚かないのですねベルさん」
「しっかり驚いてはいるわよヨシツネくん」
ヨシツネくんがお茶を用意してくれます
しゃべるだけでも驚きなのに器用なのね
扉が開いて燃えている鳥がお菓子を持ってきた
さきほどのシシリー様が持ってきたというクッキーです
待って、燃えている鳥って何よ!?
「なに? 焼き鳥?」
「失礼ねっ! 誰が焼き鳥よ!」
あ、しゃべった、うん、これもアレね
「ごめんなさい、あなたも、その、聖獣?」
「そうですわよ、彼女はレッド
他の者も出てきなさい、紹介するわ」
シシリー様が合図をすると何かが部屋に入って来ました
「隠れるのは性に合わないぜ」
「我も挨拶せねばな、御主人様が世話になっておるようだし」
「主様の代わりに遊んでよ♪」
増えた、虎に亀に龍、って龍?
うん、もう深く考えるのはやめよう
「わたしはベル、みんなよろしくね」
みんなも挨拶を返してくれた
悪い子たちじゃないみたいなので良しとしましょう
「それでベルさんはなぜこちらへ?」
「ケンタさんたちに大事な話がありまして伺いました」
「今日もケンタ様たちは不在ですわよ」
「そうみたいですね」
かと言ってこのまま帰るわけにはいかない
なるべく早く次の行動へ移していきたいですから
「ポチャくん、ケンタさんたちに戻ってくるように伝えてくれる?
できるだけ早い方がいいの、お願い」
「うん、わかったよベルお姉さん」
ポチャくんは四神と呼ばれる子たちに話す
四神の子たちはサクラさんの聖獣だそうです
どうやら四神の子たちは念話ができるらしい
レッドちゃんが念話で伝えてくれる
「伝えたわよ」
「いつごろ戻って来るかわかるかしら」
「向こうも立て込んでいるみたいだから早くても今日の夜中ね」
「そう、なら出直して明日また伺うわ」
夜中だとケンタさんたちも疲れているかも知れない
だから明日の朝の方がいいと思う
聖獣の子たちと少し遊んで屋敷から出ます
シシリー様が馬車に乗る前に声をかける
大まかな事情をシシリー様に話しておきました
少しばかり頼み事もします
「わかりましたわ、そちらの方は任せていただきますわ」
「よろしくお願いします」
わたしは帰って明日に備えます
明日は忙しくなりそうです




