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愚者の楽園に転移したけどまったく問題ない  作者: 長城万里
3 ただいま

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136 一進一退

両親が亡くなり、家も失ったベッキーたち

消え入りそうな声で言葉を紡ぐベッキーに俺はなにも言えない


「おじさん」

「・・・なんだ」


「わたしね、辛いけど、苦しいけど」

「・・・・・」


「頑張るから、心配しないで」


涙を堪えて無理矢理な笑顔で俺に心配するなと言う

きっと俺が辛そうな顔をしていたからだ


馬鹿野郎! 一番辛い奴にそんなこと言わせるんじゃねえっ!


「すまんベッキー、俺がこんなんじゃダメだったな

 だけど無理矢理笑うな! 泣きたけりゃ泣け!

 これ以上お前らからなにも奪わせないからっ!」


「おじさん・・・」


俺はベッキーを抱きしめていた

お前らは泣いていいんだ、我慢すんな


ごめんな、俺が不甲斐ないせいで

万能薬のことを忘れて助けられなかった

外道たちへなんの対策もできていなかった


悔しい、悔しいが俺は落ち込んだりしたらダメだ

もっと悔しくて辛くて泣きたいのはこいつらの方だ

だから今度こそ守り抜いてやる

もうなにも奪わせねえ!


ベッキーは堪えていた涙を流して泣き始めた

トムとハックも泣いた


あいつら絶対ぶっ潰す






しばらくしてベッキーたちが泣き止む

三人ともかなり疲弊している

俺たちも怒りは残っているが落ち着いてきた


「・・・おじさん、ありがとう」

「礼なんか言うな、なにもできなかったんだから」

「ううん、わたしたちのために色々してくれているもの」


それ以上否定をせず受け入れることにした


「さっきも言ったけど、頑張るね」

「ああ、だけど俺たちがいるから無理すんな」

「うん」


気持ちが沈んでいるが前に進もうとしている

俺はその気持ちを支えていこうと誓う


「とりあえず宿屋へ行こうぜ」

「そうね、もう夕刻だし」


ベンケイさんとサクラさんの言うとおり大分薄暗くなってきた

俺たちの泊まっている宿屋へ行くことにする




ベッキーたちは俺と相部屋だ

夕食を食べたあとベッキーたちはすぐに眠りについた

俺たちはアンナたちの部屋でこれからについて話し合う


「あいつらだけにして大丈夫か?」

「ベッキーちゃんたちには結界をまとわせているから大丈夫よ」

「ああ、リディアにやってたやつか」


以前リディアがシシリーの代わりにさらわれた

そのときリディアを守るためにつけていた結界

服を着ている感覚で動けるという優れものだ


「ついでに部屋にも結界を張っているから安心して」

「ありがとうサクラさん」


ベッキーたちの安全確保はできたので話し合いが始まる


「まずはベッキーさんたちを匿う場所をどうするかですね」

「私たちのパーティーハウスでいいんじゃね?」

「賛成でござる、部屋は余っているから問題ないでござる」

「あ、そのことなんだけど」


俺はチョビ髭が来る直前にベッキーに言おうとしていたことを話す


「ベッキーに俺たちのところへ来ないかと言おうとしたんだよ

 言おうとしたらチョビ髭に邪魔されたんだ」


まったく人の決意表明を邪魔しやがって


「それなら全員一致で決まりね」

「そんじゃ明日の朝イチで連れて行くか?」

「でも移動手段がないでござる」


カブは一台二人までしか乗れない

サクラさんのホウキはサクラさんともう一人しか乗れない

どう考えても二人分足りない


「馬車を手配するしかないですね」

「アンナ頼めるか?」

「はい、朝になったら手配してきます」


これでベッキーたちの住む場所は決まった

ベッキーたちは俺たちの新しい家族だ

あの家だったら奴らも手出しはできないから安心だ


「それじゃ次はあの外道どもをどうするかでござる」


アオイくんが現在進行形でござる口調でござる

どうやらずっと感情が昂っているようだ

怒りが治まらないのだろう、俺たちもだけど


「やっぱりもう証拠とか集めるよりさっさと潰さないか」

「相手は腐ってても貴族だ、証拠もなしに襲撃すれば私らはただの暴漢だ」


ベンケイさんの言うとおりなんだけどさ

これ以上あいつらに動ける時間を与えるのもなあ


「あの子たちをハウスへ連れて行ってから証拠集めをしましょう」

「サクラさんの言うとおり、その方が私たちも動きやすいですよ」


サクラさんとアンナの言葉に一同納得する

まずベッキーたちをハウスへ連れて行く

そのあと証拠を固めて叩き潰しに行く

その流れに決定した俺たちは明日のために眠ることにした


俺は自分の部屋へ向かう

小さいとはいえ三人がベッドで寝ている

だから俺は床に毛布を敷いて寝るしかないな


バシンッ! 「いてっ!」


部屋の扉を開けようと取っ手を掴もうとしたら弾かれた

部屋に結界張ってあるの忘れてた

慌ててサクラさんに解除してもらう


「ごめんねケンタくん、忘れていたわ」

「俺も忘れてたけどな」


苦笑する俺とサクラさん

ようやく部屋に入れた俺


ベッドでは三人が静かに寝息を立てている

まぶたが少し腫れている、また少し泣いたのだろう


俺は床に毛布を敷いて眠る

明日は新しい家に連れて行ってやるからな




翌朝、食堂に集まる


「ケンタ、ベッキーたちは?」

「まだ部屋で寝ているよ」


それだけ疲弊しているということだ

一応サクラさんに昨日と同じ結界を張ってもらっている


「それじゃあ行ってきますね」

「頼んだぞアンナ」


朝食を軽くとってアンナは馬車の手配に向かった

俺たちはここで待機である


「家のことはベッキーたちが起きてきたら話そう」

「そうね」


「ところでガイド精霊たちのことはどうすんだ?」

「ベッキーたちの前では普通の動物っぽくしてもらうしかないよなあ」


さすがにしゃべる犬猫なんて驚くだろうし怖がるかも知れない

犬猫はまだいい、狐と亀と虎もギリギリ誤魔化せる

でも火の鳥と龍は厳しいな、無理だろ?


「わたしの四神には隠れていてもらうことにするわ」

「ごめんなサクラさん」




ダラダラと駄弁っているとアンナが帰って来た


「早かったな、もう手配できたのか? さすがアンナパイセン♪」


いつものように叩かれるかと身構えたがなにもしてこない

どうした?


「すみません、やられました」


どうやら馬車がすべて予約で埋まっていたそうだ

もちろん馬車の御者たちにとっては大繁盛であろう

だがいくらなんでも全車予約で埋まるなんてあるかよ

チョビ髭の奴が手を回したに違いない


「でもなんで馬車を手配できないようにしたんだ?」

「別の場所へ移動させないためでしょうね」


「俺たちが他の移動手段を持っているかも知れないのに?」

「たしかにおかしいでござる」


「私たちの移動手段では全員が移動できないことを把握しているようです」

「どういうことだアンナ」


馬車の手配をしに行ったアンナは尾行に気づく

そいつを捕まえて口を割らせたそうだ

さすがアンナパイセン、相手はきっと酷い目にあったことだろう


「あのクズ、いえあの商人は私たちの情報を調べていたようです

 それで私たちの移動手段も知られているようです」


これまで大人しかったのは俺たちのことを調査していたからか

クソ野郎だがそれなりに慎重な奴のようだ


「調べ終わって動き始めたってわけか」

「そういうことですね」


「私らがいる以上直接は手出しできないのにご苦労なこった」

「だけど油断はできないわ」

「そうですね、金と権力だけは持っていますから」

「それに風の戦士団も動いているはずでござる」


まったく厄介な連中だ

しかし移動は封じられたからどうするべきか

俺たちは計画変更を余儀なくされた

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