134 バザー
みんなで教会近くのバザーにやって来た
いつ来ても活気があってまるでお祭りのようだ
「よし、私がおごってやるからついて来い二人とも!」
「らじゃー!」
「ぶらじゃー!」
トムとハックが意気揚々とベンケイさんに付いていく
師弟というよりガキ大将と舎弟たちのようだ
というか、らじゃーぶらじゃーなんて返事どこで覚えたお前ら
ああ、ベンケイさんが教えたな、ヤメロ
「拙者、古物を吟味してくるでござる!」
テンション高くなってるなアオイくん
久々のござる口調だ
「一人にすると危なっかしいので私が付いていきますね」
「頼んだぞアンナ」
アンナがアオイくんに付いていった
俺とサクラさんとベッキーが残された
「俺たちも見て回ろうか」
「そうね」
右に俺、左にサクラさん、ベッキーは真ん中だ
サクラさんはベッキーと手を繋いでいた
俺もベッキーと手を繋ぐ
軽く驚いた顔で俺を見上げるベッキー
「ダメだったか?」
「う、ううん」
「それじゃ行こうぜ、欲しいもんあったら遠慮なく言えよ」
「そうよ、お姉さんたちがなんでも買ってあげるわ♪」
「そうそう、おじさんに任せなさい! なんてな♪」
「なんか人さらいみたい」
「「ぐはぁっ!!」」
最近少しだけ元気になってきたのはいいけどそれはやめてくれ
まあ元のベッキーに戻りつつはあるのだからいいか
やっぱり時間が解決してくれるということなのかもな
それにずっと俺たちがいたから誰もいない状態よりマシだったのだろう
トムとハックもベッキーのために明るく振る舞っていたしな
あいつらだって辛いはずなのに良い弟たちだぜ
ベッキー、お前は一人じゃない
トムとハック、そして俺が、俺たちがいる
だから二度といなくなるなんて言うなよ
そう思わせないように今日はベッキーを笑わせてやる!
それにしてもこうして三人で手を繋いで歩いていると親子みたいだな
俺が父親、サクラさんが母親、ベッキーが娘
うん、俺の理想図だ
待て、俺が楽しんでどうする
今日はベッキーを喜ばせるために来たんだろ
本来の目的を忘れてはいけない
「よし、片っ端から回っていくぞ!」
俺たちは目につくもの気になったものを見て回った
本、生活用品、雑貨、アクセサリー、食べ物などなど
このバザーには様々なものがある
ベッキーは生活用品に目ざとかった
もっと年頃の女の子っぽいものに目を向けようよ
まあベッキーが少し楽しそうな感じがしたのでいいか
サクラさんが魔道具を吟味する
ベッキーには退屈じゃね?
でも意外にもサクラさんと盛り上がっていた
雑貨も生活用品に近いためベッキーが興味津々だった
良かった、まだぎこちないけど笑顔が出てきた
連れてきて正解だったな♪
本も興味はあるらしいが古い書物が多いため手が伸びない
俺は絵本や冒険小説とかをすすめる
絵本を手に取りページをめくるベッキー
わくわくしているのがわかる
俺とサクラさんもそれぞれ好みの本を探す
気に入った本を数冊買った
「ベッキー気に入ったやつあったか?」
「えっと、これとこれが面白かったです」
俺はその二冊を買う
サクラさんが半分出すと言って強引に支払う
「ベッキーへ俺たちからのプレゼントだ」
「そんな、高いのに」
絵本と言えどこの世界の書物は高い
「子供が気にするな」
「気にするよ、もっと節約して下さい!」
アンナみたいなこと言うな!
「もらってくれないと困るわ」
「そうだな、とっても困るぞ」
「でも・・・」
俺は閃いた! あの手があるじゃないか
「受け取ってくれないと困ることになるぞお嬢ちゃん」 ニヤリ
「え、それってまさか・・・」
「受け取ってくれないとみっともなく泣きじゃくってやるぞー!」
「やっぱり、出会ったときのですね」
「ケンタくんそんなことしてたの?」
呆れるベッキーとサクラさん
そして笑い出す二人
ああ、ベッキーの笑顔久しぶりだな
やっとベッキーが元に戻りつつあることが嬉しかった
この調子でベッキーの心をどん底から引きあげてやる
それから広場に設置されているテーブルで昼食にする
「買ってくるから座って待っててくれ」
俺は屋台を回って色々買っていく
途中寄り道したので少し待たせてしまった
「ごめんな、お待たせ♪」
「お腹空いたわよケンタくん!」
「美味しそう」
ベッキーも愛想笑いではなく自然と笑顔がこぼれるようになってきた
いい傾向だ、俺も嬉しくなって笑顔になる
昼メシを食べ終わってまた少しだけバザーを見て回る
「おじさん、お姉さん、ありがとう」
「どうした突然」
急にお礼を言われたのでとまどう俺
「お母さんのとき大嫌いって言ったのに許してくれてありがとう」
「あれはお相子だって言っただろ」
「お父さんがいなくなってからもずっといてくれてありがとう」
「わたしたちはベッキーちゃんの友達だから当たり前よ」
「わたしは落ち込んで無気力になってなにもしなくなった
それでもいっぱい助けてくれた、嬉しかった
今日だって楽しかった、久しぶりに笑えた
だから、ありがとう」
少し涙を浮かべて微笑むベッキー
「明日からは、ううん、今から前を向くね
まだ気持ちの整理もつかないけど頑張るね」
「ああ、頑張れ」
「応援してるわ」
ずっとうつむいていたベッキーが顔を上げ頑張ろうとしている
俺はこの子を絶対に守ってやると改めて誓った
サクラさんも同じ気持ちのようで決意を固めた顔をしていた
「そろそろみんなと合流しようか」
「うん」
俺たちはまた手を繋いでみんなを迎えに歩き始めた
最初に別れたところで待つことにした
集合場所を決めてはいなかったけどみんなここへ来るだろう
ほら、ベンケイさんとトムとハックが来た
「おう、待たせたな」
ベンケイさんは串焼きを食べていた
「姉ちゃん、ベンケイ姉ちゃんに買ってもらった」
「もらったー」
トムとハックが腰につけた袋をベッキーに見せる
「収納袋?」
「おう、必要だったからな」
「ベンケイさん、こんな高い物もらえません」
ベッキーが二人から取り上げてベンケイさんへ返そうとする
たしかに収納袋、すなわちアイテム袋は高い
一番安い物でも10万はする、高いやつは億を越える
「言ったろ、必要だから二人に買ったんだ
これは投資だ、私が何に投資しようが私の勝手だ
それにベッキーに買ったわけじゃないからな
二人から取り上げて返すようなマネすんな」
「う、はい、ごめんなさい」
「姉ちゃんごめんな、でも僕たちは返したくないよ」
「ごめんね姉ちゃん」
多分あの変な特訓と関係があるのだろう
トムとハックも本当に必要だと思っているから貰っているはず
「ベッキー、諦めろ」
「おじさん」
「施しとかではなく本当に必要だからあげたんだと思う
トムとハックも施しなら受け取っていないはずだ」
「うん、そうだね」
ベッキーは収納袋を二人に返す
そんなやり取りをしていたらアオイくんとアンナがやって来た
アオイくんは刀や手裏剣などの掘り出し物を見つけてウハウハだった
暴走するアオイくんを追いかけて疲れ切ったアンナがぐったりしていた
「アンナお疲れ」
「ほんとにお疲れですよ」
今夜は肉とケーキで労ってやろう




