129 バブリー・マニー
「私が出ますね」
「頼むアンナ」
こんな状態のベッキーを出すわけにはいかない
扉を開けると小太りのチョビ髭オヤジがいた
その後ろに3人のガラの悪そうな男たちがいた
「誰だお前は? この家のガキじゃないだろ」
「この家の方たちの友人といったところでしょうか」
「ふん、まあいい、さっさとここのガキどもを呼んでこい!」
うるさいオヤジだ、ヒゲむしりとったろか
「この家の子供たちに何かご用ですか?」
「関係ないガキは引っ込んでろ!」
アンナに掴み掛かろうとするオヤジ
だがその手を掴み返して放り投げるアンナ
ドスンッ! 「んぎゃっ!?」
「「「マニー様!?」」」
手下どもが慌てる
「汚い手で触らないで下さい」
「ぐぐぐ、このガキ、、、 お前ら、このガキ捕まえろ!」
手下どもがアンナに襲いかかる
ベタン! 「いだっ!」「うおっ!?」「なんだこりゃ?」
見えない壁にぶつかる手下ども
「落ち着きなさい、人んちで暴れるんじゃないわよ
アンナちゃんも投げ飛ばしちゃダメでしょ」
「ごめんなさい、つい」
サクラさんが結界を張ったのだ
「なんだお前は!」
「静かにしてもらえません? 落ち着いて話し合いましょ」
「子供たちだけじゃなかったのか?」
「子供たちだけにしとくかよ」
部屋にいる俺たちの存在にやっと気付くオヤジ
「一応俺が年長者だから話を聞くぜ」
「関係ない奴は引っ込んでろ!」
「関係あるぜ、この子たちのことを託されてるんだ」
「預かれる親戚はいないと聞いていたが?」
「ごちゃごちゃ言ってねえで用件言えよ」
ベンケイさんもご立腹だ
「ふん、仕方がない、話してやる」
偉そうだな、やっぱヒゲむしりとってやろうか?
「私はこの街で商人をしているバブリー・マニーだ
貸金業もやっていてシッドにも金を貸している」
シッドさんが借金?
ポリーさんの薬代のためかな
「しかしシッドは死んだと聞かされた
だからこの家とガキ共を借金のカタにもらいに来た」
「家はともかく子供は駄目だろ」
家は担保になってたかも知れない
でもシッドさんは子供を担保にしないだろ
「そもそも本当にシッドさんは借金してたのか?」
「これが証文だ」
広げて見せつけるオヤジ
サインがしてあるけどシッドさんのサインかわからない
「ベッキーちゃん、お父さんの筆跡わかる?」
「えっと」
ベッキーが証文のサインを見る
「お父さんの、字です、、、」
本物だったか、ベッキーが愕然とする
「もう少しよく見せろ」
「ふん、いくら見ても本物だ」
書いてある内容を確認する
借りた金額は1億円、利息が月5割
暴利もいいとこだな、闇金か?
返済が滞ったり死亡した場合の担保に土地と家があった
それでも不足している場合は子供たちを借金奴隷にする
サインはそれらに対する承諾のサインだった
ありえない、シッドさんがこんな内容に承諾するなんて
子供たちを家族を大切にしていた人だぞ?
しかしサインは本物
一体どうなっているんだ?
「これでわかっただろう? 大人しくガキ共を渡せ!」
「慌てるな、まだ全部読んでない」
借りたのが3ヶ月前か
「毎月利息だけは返してたんじゃないのか?」
「いいや一度も返済がない」
やっぱありえない、利息ぐらいは返しているはずだ
Aランク冒険者の稼ぎならそれぐらいは返せる
いくら薬代に使っても利息ぐらいは返しているだろう
「本当に利息の返済すらもなかったのか?」
「ああ、ないな」
こればっかりは領収書とかがないから証明のしようがない
「今日までの利息を含めた金額はいくらだ?」
「ん? 3億3750万だ、それがどうした」
「わかった、俺が払ってやる」
「はあ? お前のようなザコ冒険者が払える額じゃないぞ?」
ヒゲむしりてえ
「払えるから払ってやると言ってるんだ
だからきちんと完済の証明書もよこせよ」
チョビ髭が少し考えている
「わかった、なら事務所について来い
証明書の用意もしないといけないからな」
「ああ、だが偽物とか用意するなよ?
あと事務所で暴力に訴えたりしても無駄だからな
そこのチンピラどもより俺の方が強いぞ」
チンピラどもが舐めてんのかという感じで睨んでくる
「よせ、払ってくれるのなら問題はない」
「そう言ってるだろ」
チョビ髭とチンピラたちは馬車に乗る
馬車は二台あって一台はチョビ髭専用
もう一台にチンピラたちと俺たちが乗る
俺たちと言っても俺とアンナだけだ
サクラさんたちはベッキーたちについててもらう
馬車に揺られながらアンナの念話で会話する
『お兄さん、あの借用書は本物でした』
『そうか、それじゃ仕方がないな』
サインはベッキーが本物だと証明した
だが借用書自体はあとから作った偽物かも知れない
だからアンナにこっそり鑑定してもらっていた
アンナの鑑定は俺たちの中で一番精度がいいからな
『完済証明書も鑑定頼んだぞ』
『任せて』
しばらくしてチョビ髭の商店に着いた
思っていたより大きな商店だった
絶対悪いことして大きくしたんだぜ
中に入って事務所に向かう
その途中でチラリと見えた
奥端の方に奴隷売買のコーナーがあった
ベッキーたちが借金のカタになったらおそらく
いや確実にあそこへ連れて行かれたのだろう
そんなことさせるかよ!
事務所に入り椅子に座る
少し待っているとチョビ髭がさっきの借用書を机に置く
そしてもう一枚の用紙を置く
「これは?」
「弁済代理人の証明書だ、これに名前を書け」
一応書いてあることを読んでみる
『アンナ、鑑定頼むぞ』
『もうやりました、本物です』
さすがアンナパイセン
いてっ、つねんな!
「ところでここに書いてある事務手数料と代理手数料って何だ?」
「事務手数料ぐらいわかるだろ、馬鹿か?」
ヒゲむしりとってやるぅ! いや堪えろ俺、ガマンガマン
「そっちはわかるさ、でも代理手数料なんて聞いたことねえぞ」
「本来なら証文どおりの担保をいただく手筈だ
それを変更するのだから手数料をいただくのも当然だ」
この悪徳商人はどんだけ意地汚ねえんだよ
金額も事務手数料が1億、代理手数料が2億
借金が3億3750万だから合計6億3750万
暴利も大概にしやがれ!
「どうした、今更払えないとか言うんじゃないだろうな?」
ニヤつくチョビ髭
「払ってやるよ、だがちゃんと完済証明書をよこせよ」
俺は6億3750万を机に用意する
さすがにチョビ髭が驚く
「まさか本当に払えるとは」
「商売人のくせに人を見る目がねえな」
少し悔しそうな顔をするチョビ髭、ざまあ♪
「ふん、いいだろう」
チョビ髭は完済証明書にサインして捺印を押す
『用紙も印も怪しいところはありません』
『さすがにここまできて小細工はしないか』
完済証明書を収納庫に収める
「これであの家と子供たちには手を出すなよ
あの子らに何かしたら許さねえからな」
「わかっている、用が済んだらさっさと帰れ」
「はいはい、じゃあな」
事務所から出て商店の外へ向かう
気になったので奴隷コーナーをチラリと見る
「お兄さん、奴隷ほしいの?」
「いらない」
たんに騙されて奴隷になった人もいるのかなと思っただけだ
だからといって助けることなんかできないんだけどな
とりあえずベッキーたちが奴隷にされなくて良かった
あの男、気に入らないが金は持っている
それにあの場にいた奴の仲間の女どもは上玉だ
なんとかして手に入れられないものだろうか
それよりも計画が狂ってしまった
計画ではシッドのガキどもを手に入れるはずだった
特にあのベッキーという娘は私の奴隷にする予定だったのだ
昨日あの男を始末しといてくれればよかったのに
サジンめ、気の利かん奴だ
まあいい、まだ手はある
あの男からもっと金をふんだくってやる
女どもも奪ってやる、くくく
「マニー様、サジンさんが来ました」
「そうか、通せ」
サジンが軽く挨拶をして椅子に座る
「計画が狂ったので調整せねばいかんことになった」
「おや? ガキどもはもう奴隷にしたのでは?」
「じつはな・・・」
私は事の経緯を話す
「なるほど、あいつそんなに金を持っていたのか
Cランクのくせにどうやって稼いだんだ?」
「奴のことを調べないといかん
だがいつでも動けるようにしていてくれ」
「もちろんですよ、マニー様にはお世話になっていますからね」
「ふん、大枚叩いているんだからな」
計画変更について少し話してサジンは去って行った
私はあの男の情報を集めるように部下たちへ命じる
私がすべてを奪ってやるぞ、くくく




