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愚者の楽園に転移したけどまったく問題ない  作者: 長城万里
3 ただいま

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128/159

128 嘘

「領主様への挨拶は後回しですね」

「こっちの方が大事だからな」


「初対面だけど大丈夫でしょうか」

「大丈夫だよアオイくん」


「それにしてもムカつくよなサジンって奴」

「ああ」


トウェイン家へ着いた


「みんなおはよう」

「サクラさんおはよう、ベッキーたちは」

「まだ寝てるわ、夜通し泣いて少し前に寝たばかりだから」


そうだよな、立て続けに両親を亡くしたんだから


「ベッキーちゃんたちが起きて来ないうちに話すわね」

「ベッキーたちには聞かせられないんだね」


サクラさんは黙って頷く

なんとなくそんな気がした


「あの男、サジンは嘘をついているわ」

「いきなりだなサクラ」

「教えてくれサクラさん」


サクラさんがサジンの嘘を話してくれる


「まず攻略ペースがおかしいわ

 いくらAランク以上が6人でも10時間で29層は無理よ」


「頑張ればできるんじゃね?」


「ベンケイちゃん、たしかに休憩なしで行けば可能よ

 でも間でボスがいる、それを休憩なしでなんて不可能よ」


「そりゃそうか」


「それに魔物だけでなくトラップもたくさんあるはず

 トラップ解除にも時間は掛かるわ」


「そうですね、罠の数が多ければ時間も掛かります」


アオイくんは忍者だから罠解除のスキルも持っている

罠解除スキルを持っているからこそわかるのだろう


「それじゃ30層まで行ったってのは嘘なんだな」


「ええ、だから30層でシッドさんが死ぬはずはない

 行ってない場所で死ぬわけないもの」


「それでは10層か20層のボスあたりでしょうか?」


「そうね、メンバー構成から考えれば10層のボスが妥当ね

 あのメンバー構成では20層には到達しないはずだから」


「なんでサクラさん知ってるの?」

「その地下迷宮、ゲームのときに行ったことあるもの」


俺はダンジョン系は苦手なのであまり潜ったことがなかった


「わたしたちは行ったことがないと思ってるのよ

 あの男、格下だとわたしたちを侮ってるから」


「Cランクでも迷宮ぐらい行くだろ?」

「あの地下迷宮は難易度が高くてAランク以上推奨よ」

「なるほどCランクなら行くわけがないと」


こっちが知らないと思って攻略ペースとボス階層を偽ったわけか


「それらが嘘なのはわかったけどさ、なんでそんな嘘つくんだ?

 シッドが囮になって死んだことは本当なんだろ?

 そんな嘘ついてもサジンたちにメリットないだろ」


「そうね、でもシッドさん自ら囮になったのは嘘よ

 風の戦士団がシッドさんを囮にしたと思うわ」


「自分らが逃げるためにシッドさんをボス部屋に置き去りにしたのかよ!」

「ううん、10層のボスを倒すために囮にしたのよ」


俺はサクラさんの言っていることがよくわからなかった


「10層のボスは最初に攻撃してきた相手を優先的に攻撃するの

 他の人がそのあと攻撃しても無視するの

 だから最初の一人が攻撃を受けている間に他の人たちが攻撃する

 そうやって倒すパターンなのよ」


「シッドさんを犠牲にして倒していたってこと?」

「そういうことよ」


やっぱりクソ野郎だ


「でもそれならシッドさんが死んでいるのはおかしくないですか?

 そのボスはサジンたちが倒すはずだから怪我はしても死なないと思います」


「10層ボスを周回しているからよアオイちゃん」


「なんでそんなことを?」

「10層ボスのドロップが目当てでしょうね」


「10層がその迷宮の最初のボスだろ?

 初回から周回してまで美味しいドロップがあるのか?

 もっと上の階層の方が良いのがあるはずだけど」


ベンケイさんの言うとおりもっと上の階層を狙うはず


「たしかに上の階層になればなるほど良いものが手に入るわ

 だけどボスも強くなってリスクも高くなる

 だから10層で効率よく稼ごうとしているのでしょうね」


「10層のドロップってなんですか?」

「お金よアンナちゃん」


「そんなの魔物倒しまくればたくさん換金できるじゃん

 わざわざ他者を犠牲にする必要あるの?」


「ケンタくんの言うとおりね

 でも10層のボスのドロップするお金が高額なの」


「いくらなの?」

「1億円分の金塊よ」


俺たちは絶句した、ボス一匹で1億?


「たしかにちまちま魔物倒すよりかは効率良いですね

 ボスが強いといっても10層ならまだ倒せるでしょうし」


「だから何度もシッドさんを囮にして荒稼ぎしたと思うわ

 それにおそらく以前から同じことをしているのかもね」


風の戦士団、そのために他の冒険者を犠牲にしてやがるのか

シッドさんもあいつらに騙されて犠牲になったのか


「許せねえ」

「ああ、許せないな」

「とんでもない悪党です」


「みんな落ち着いて、わたしも許せないと思うわ

 でも証拠がないから糾弾できないわ」


「証拠かあ、厄介だな」


サクラさんの言うとおり証拠がなければ捕まえられない


「悔しい、シッドさんの仇討ちもできないのかよ

 あんなクズどもを野放しなのかよ」


「ケンタくん、諦めないで」

「サクラさん、でもさ、証拠がないんだよ」


自分の無力さに情けなくなる


「みんなで考えましょう、そのためにみんなに話したんだから」

「サクラさん、ありがとう」


本当にサクラさんはすごいな


「それに今はベッキーちゃんたちを見てあげないとね」

「そうだね」


そうだ、今はベッキーたちの支えになってやらないと


「なあ、負傷したけど生き残ってるAランク冒険者が一人いるよな

 そいつは何か知ってるんじゃねえか?」


「たしかに、現場を見ているはずです

 もしかして風の戦士団とグル?」


ベンケイさんとアオイくんの言うとおりだ

一人生き残っている、グルかも知れない


「そうね、その人に話を聞くのもアリね」


証拠集めの方向性が決まった

やってやる、絶対にシッドさんの無念を晴らしてやる


だけどその前にベッキーたちだ

ベッキーたちが落ち着いてからだ



話しが終わって沈黙が続く

それぞれで考えをまとめているのだろう

俺も今後について色々考えていた


お昼が少し過ぎた頃、ベッキーたちが起きてきた


「おじさん、こんにちは」

「おう」


泣きすぎて目が赤い


「えっと、そっちのお姉さんたちは?」

「私はベンケイ、よろしくな」

「わたしはアオイです」

「私はアンナです」

「三人とも俺の仲間だ」

「そうなんですね、、、」


急に人が増えたので委縮している

サクラさんのそばに寄るベッキー

サクラさんにかなり懐いたようだ


「お腹空いたでしょ、お昼用意するわね」

「手伝います」


泣き疲れているけど手伝うベッキー

気を紛らわすために動いていた方がいいのかもな


みんなで昼食

トムとハックがベンケイさんに懐いた

なんだろう、この敗北感は


こらアンナ、ざまあみたいな顔をするな


食べ終わって片付けも終わってやることがなくなる

ベッキーはまた沈み込む


「ベッキー、あまり考え過ぎるなよ」


駄目だ、まったく上手い慰め方が思いつかない


「おじさん、わたし、どうしたらいいの?

 お母さんもお父さんもいなくなっちゃった

 わたしもいなくなったらいいのかな」


「ベッキーがいなくなったら駄目だろ」

「どうして?」

「トムとハックが悲しむぞ」

「そうだよね、二人を置いていけないよね」


ベッキーがまた涙を流す


「わたしが二人を守っていかなきゃいけないんだよね」

「そう、だな、、、」


違うだろ俺


「でも、だったら、わたしは、、、」


苦しそうな声が聞こえる


「わたしは、誰が、助けてくれるの、、、」


ポリーさんを看病しながら働いて家を守ってきたベッキー

それも虚しくポリーさんは死んだ


冒険者は仕事柄、命の危険も付きまとう

だからシッドさんは仕事を選ぶようになった

だけどシッドさんは死んだ


残ったのは子供たちだけ

それでどうやって生きろというのか

弟たちを守るために生きろ?

なにを言っているんだ俺は!


ベッキーだって誰かが守ってやらないと駄目だろうが!

そんな当たり前のことわかってる

わかってるのにまともに言葉が出ない


ああもう! なにを迷ってるんだ俺は

簡単なことじゃないか、俺はいつでも単純だろ

考え過ぎてたのは俺の方だった


迷いは消えた

俺は俺の心のままに進む


「ベッキー、まともなこと言えなくてごめんな」

「おじさん?」


ベッキーを抱き寄せていた


「ベッキーの家族は弟たちだけになった

 だからってベッキー一人に背負わせていいわけがないんだ」


「でもわたししかいないし、、、」


「ベッキー、おまえが嫌なら断ってくれてもいい、俺の」


ドンドンドン!!


「おい、いるんだろガキ共! さっさと扉を開けろ!」


乱暴に扉を乱打して怒鳴る奴がいる

人が決意表明をしているときに邪魔するんじゃねえ!

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