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愚者の楽園に転移したけどまったく問題ない  作者: 長城万里
3 ただいま

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127 訃報

そうだ、シシリーに教えておこう


「リディアが攫われたときに助けてくれた人のこと覚えてる?」


「会うことはできませんでしたがお名前は覚えています

 たしかチェリー・ブロッサムさんでしたわね」


「ケンタくん、このお嬢さんあのときの関係者なの?」

「そうだよサクラさん、あの子の親友だ」


「もしかして」

「わたしがチェリー・ブロッサムです」

「でもお名前が」

「あれは偽名でサクラが本当の名前です」

「そうだったのですね」


「あの子は元気ですか?」

「はい、リディアはとても元気です」

「リディアって名前なのね、あのときは聞かなかったから」


(このこともリディアに伝えないといけませんわね)


オシリス様が辺りを見回していた


「他のメンバーはどうした?」

「それぞれ所用で出掛けています」


仕事に行ったとは言わない

言ったら俺がサボってるみたいだから

事実だけど


「なるほど、皆仕事でケンタはサボりか」

「なんでわかるの!?」


もういやこの領主様、早く帰って


「仕方がないな、今日のところは帰るとしよう」


二度と来んな!


「全員で必ず挨拶に来いよケンタ」

「領主様、少し横暴じゃないですか?」


不敬かも知れんが不満をぶつける


「そう怒るな、私はお前たちの助けになりたいだけだ」

「どういうことですか?」


安息の邪魔をしたいだけのように思えるんだが


「お前たちのおかげで長年の災いを消すことができた

 感謝しきれないぐらいの恩がある」


バッカーの件か


「だから何か困っていたら私に言え

 ペンペラン伯爵家の名に誓って助力しよう」


傍若無人な振る舞いもあるけれどやはり良い領主だ

俺たちのために家名にまで誓ってくれるなんて


「ありがとうございます、後日必ずみんなで挨拶に伺います」

「うむ、楽しみに待っているからな」


領主親子は帰って行った、馬車で

徒歩10分ぐらい歩けよ



夕食時、アンナたちに領主親子襲来の話をする


「そういや引っ越しの挨拶してなかったな」

「ご近所への挨拶は大切ですよね」

「そうですね明日でも行きますか?」

「アンナちゃんの言うとおり早い方がいいかも」

「いや明日はベッキーのところへ行くから明後日だな」


今日は行かなかったから明日はベッキーたちのところへ行く

ということで領主邸へのご挨拶は明後日に決定した




「本当に1日空けで来ましたね」

「当たり前だろ」


何日か空けると思ってたようだがそうはいかないぜ

俺はお前たちが心配なんだよ


そしていつものようにくつろいでいると誰かが来た


「こんにちは、シッド・トウェインさんのお宅ですか?」

「はい、そうですがどちらさまですか?」


子供しかいないと思われたら危ないので俺も顔を出す

訪ねてきた男が少し胡散臭げに俺を見る


どっから見ても同業者、冒険者である

だけど結構金のかかった装備で固めてあった

それなりのランクの冒険者なのだろう


「俺はサジン、Sランク冒険者だ」

「俺はケンタ、Cランクだ」


Sランクなら金持ってるよな、そりゃ装備も良いはずだ


「お前はシッドさんの知り合いか?」

「まあな、それでSランク様が何の用だ?」


サジンの態度がなんか気に入らないから俺も横柄に話す


「知り合いか、ならお前も子供たちと話を聞いてくれ」

「どうするベッキー、中に入れるか?」

「えっと、何の話かによります」

「キミのお父さん、シッドさんのことだ」

「お父さんの?」

「シッドさんなら遠征中だぞ」


(こいつ、Cランクのくせにいちいち煩いな)


「そう警戒するな、Sランクの俺が何かしたらすぐ捕まっちまう

 ここまで上り詰めた経歴を潰す気はないから安心しろ」


たしかにそのとおりだな

気に入らないから警戒し過ぎてしまった


「ああ悪かった、この子たちのことを託されていたからな」

「そうか、それなら仕方がないな」


ベッキーはサジンを招き入れる

サジンを椅子に座らせる、俺とベッキーも座る

トムとハックとパンティさんも座る


「こちらの女性は?」


まあ気になるよな


「サクラと言います、Cランクです」

「ほう、どこかのパーティーに所属しているのですか?」

「この人のパーティーに所属しています」


俺を見て言うパンティさん、サジンが軽く俺を睨む


「お前のパーティー? 何て名だ」

永遠の混沌(エターナル・カオス)だ」


「ああ、あのランキングが急上昇したパーティーか

 変なイベントやってた奴が加入したんだよな」


ベンケイさんのことだろうな


「おい、うちのメンバーを馬鹿にする発言は控えろよ」

「いちいち突っ掛かるな、単純な奴だな」


軽くニヤつくサジン、ムカつく


「じゃれてないでシッドさんの話ってなんですか?」


パンティさんが割って入る

そうだな、こいつとケンカしてる場合ではない


「ふん、サクラに免じて許してやる、命拾いしたな」


殴り飛ばしたい気持ちをぐっと堪える

サクラって呼び捨てにするんじゃねえ!


「それでお父さんがどうしたのですか?」

「結論から言おう」


シッドが腕組みをして言う

いちいち偉そうなのが気に入らない



「シッド・トウェインさんはお亡くなりなった」



シッドさんが亡くなった? 何を言っているんだお前


「お父さんが、亡くなった?」

「ああ」


「待てよ、シッドさんは遠征中で今頃迷宮攻略中だぞ

 Aランクパーティーが主軸になっているんだ

 一緒に参加したメンバーもAランクだ、あり得ないだろ

 そもそもなんでお前にそんなことわかるんだよ!」


「そのAランクパーティー、風の戦士団のリーダーだからだ」

「はあ? お前Sランクだろ?」

「俺以外がAランクだからパーティーランクがAなんだよ」


そうだった、パーティーランクはメンバーの一番下のランクになる


「でも出発から今日まででたった5日じゃないか

 往復の移動を引けば攻略に1日しか使っていないことになる」


「死人が出たんだ、即時撤退に決まっているだろ」

「だけど!」

「ケンタくん!」


パンティさんに止められる

駄目だ、やっぱり俺一人だったら熱くなってこうなっちまう

パンティさんがいてくれてよかった


「サジンさん、詳しい経緯をお聞かせくれますか?」


「もちろん、そのためにわざわざ足を運んだのだから

 遠征の疲れもあるのに来たんですよ」


クソ野郎が、ベッキーたちもいるんだぞ

少しは言葉を選びやがれ!


それからサジンは経緯を話し始めた



風の戦士団とシッドさんともう一人のAランク冒険者で6人パーティー

ランクも人数も悪くないので攻略がハイペースで進む


早朝5時から入って10時間

15時ちょっとには29層まで攻略が完了した


10層ごとにボスが湧くので30層のボス戦に挑む

回復もしてボス戦に突入するも急激にボスの格が上がった


10層と20層ではボス一体だけだった

だけど30層ではボスのまわりに数十体の魔物が控えていた

それも10層のボス級の強さの魔物ばかり


さすがに撤退を余儀なくされる

しかしトラップもあって逃げることが難しかった


もう一人のAランク冒険者が負傷する

そこでシッドさんが自ら囮になった

サジンに子供たちへの伝言を頼みボス部屋の扉を閉じた


負傷したAランク冒険者を連れて風の戦士団は迷宮をなんとか脱出する

近くの街で一晩休息してオシリペンペン街へ帰還した


今朝早く帰還してギルドに報告

そのままサジンはここへ来て今に至る



「そんな、お父さん、、、」

「父ちゃんが、、、」

「父ちゃん、、、」


三人は言われたことを理解しきれないでいる

いやわかってはいるのだろうけど混乱しているのだ


「シッドさんの、遺品、形見はないのか?」

「そんなもんあるわけないだろ、ボス部屋の中だ」


なんだその言い方は、ふざけんな!


「シッドさんの伝言は?」


パンティさんが聞いてくれる


「『帰れなくなってすまない』と伝えてくれと言われた」


ベッキーが声を出さずに涙を流して呆然とする

トムとハックも泣いているが堪えようとしている


シッドさん、なんであんたが囮になったんだよ

子供たちのために命を捨てるようなことするなよ


いやそもそもお前らが責任持って矢面に立てよ!

誘った責任ってもんがあるだろうが!


「おいお前、なにを睨んでるんだ?

 文句があるなら相手になってやるぞ」


「いいかげんにしなさい!」


パンティさんが怒る


「ケンカなら別の日に別の場所でやりなさい

 子供たちの気持ちを考えなさいあなたたち」


「ごめんサクラさん」

「そうだな、すまんサクラ」


だから呼び捨てにするんじゃねえよ

睨みそうになったが堪える


「それじゃ伝言も伝えたから俺は帰らせてもらう」


サジンは立ち上がり外へ出る


「やれやれ、やっとゆっくりできるわ」


クソなセリフを吐いて去って行った

あんな奴がSランクだと?


いや今はクソ野郎のことはどうでもいい

ベッキーたちの方を優先だ


「サクラさん、ごめんな」

「しょうがないわよ、わたしもムカついたもの」


それでも我慢できてたパンティさんはすごいよ

俺は感情のまま対応してたからな


「おじさん、お姉さん、ううう、お父さんが

 お父さんまで、いなくなった、よ、、、」


もう声を押し殺せずボロボロ泣いていた

パンティさんはベッキーを抱きしめて撫でている


どうしたらいいんだ俺は

この子たちのために何ができるんだ

ポリーさんのときといい役立たずだ


自分の無力さに呆れてしまう


「わたしはここに残るからケンタくんは屋敷へ戻って」

「でも」


パンティさん一人に任せるのも悪いよ


「みんなにこのことを伝えて、そして明日みんなでここに来て」

「みんなで?」


「少し話したいことがあるの」

「何?」


「それは明日話すわ、お願い」

「・・・・・わかった」


何を話したいのかはわからない

だけど俺はパンティさんの言うとおりにする

きっと俺には気付けなかった何かに気付いたのだろう


屋敷に戻りみんなに話す

そして翌朝、俺たちはトウェイン家へ向かった

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