125 引っ越し
身内に神級がいた件
こんな身近にいたのかよ
「賢者は超級で充分と思って神級まで頑張らなかったの
頑張っておけばよかったと後悔しているわ」
たしかにどの職業も超級で充分過ぎるからな
「今からでもなれるんじゃないの?」
「無理よ」
「そうですね」
無理と断言するパンティさんと同意するアンナ
「なんで無理なんだ?」
「神級昇格クエストはゲームのものです
この世界にはクエストなんか存在しませんよ」
そうだった、ダメ出しされたときに言ってた
神級昇格クエストが存在しないならたしかに無理だ
「少し元気が出たみたいですねケンタ殿」
「ん、そうかな?」
食事して、みんなと会話してたら落ち着いてきたのだろう
アンナが腹が減ってたらマイナス思考になると言っていた
そのとおりだな
それでもまだモヤモヤしている
簡単には払拭できない
みんなが元気付けようとしてくれているのに情けない
「よいしょっと」
ベンケイさんが対面に座る
「ケンタ、助けられなくて残念だったな」
「うん」
「しかも大嫌いとまで言われたそうだな」
「うぐ、言わないでよ」
「ひどいよな、たまたま忘れてただけなのに」
「たまたまでも大事なことを忘れてたんだから駄目だろ」
「ケンタがそこまで落ち込む必要はないんじゃないか?」
「助けることができる手段を持っていたんだ
それなのに助けられなかった」
ベンケイさんはなにが言いたいんだ?
「なるほど、たしかにそうかもな」
「そうだよ」
ベンケイさんが立つ
「ケンタも立て」
「なんだよ?」
言われたとおり立つ
「歯ぁ食いしばれ」
「へ?」
ボゴォッ!
「んぎゃっ!?」
思いっ切り殴られた
「ベンケイちゃん!?」
「お姉ちゃん!?」
「ベンケイ殿!?」
「な、なにすんだよっ!?」
いきなりのことでわけがわからない
「ケンタ、おまえ何様だ?」
「え? え? なに?」
「たしかに万能薬なら助けられただろうよ
忘れてたから助けられなかった? それがどうした
助けられないときはどう足掻いても助けられねえんだよ!」
ベンケイさんが悲しそうに怒っている
「少し助けて感謝されて神様にでもなったつもりか?」
「そんなことは、、、」
「目の前ですぐにできることでしか誰も助けられないんだよ
私らはただの人間だ、なんでもできる神様じゃないんだぜ?
大体、神様だってできねえこともあるだろうしな
だから助けられなくっても仕方がねえんだよケンタ」
「ベンケイさん、、、」
ベンケイさんの言うとおりだ
俺たちはただの人間、できることなんか限られている
「それでも、助けたかった、仕方がないなんて言うなよ」
ベンケイさんを少しだけ睨む
ベンケイさんは意に介さず俺を見据える
「おまえはそうだろうな、そう言うと思ってたよ」
「わかってるならなんでこんなこと」
「すべてを救えるなんてできないんだよケンタ
できるんだったら、私は、、、」
ベンケイさんが悔しそうに語る
「できるんだったら、私はあの村を救えていたはずだろ?」
俺は自分の馬鹿さ情けなさを改めて痛感した
俺はベンケイさんの傷を知っていただろ
気に入った村を、人たちを、救うことができなかった
その話を聞いて、その苦しみを分かち合っただろうが!
くそ、俺のクソ野郎!!
「だからな、助けられなくても立ち止まるなよケンタ
以前にも言ったろ? 進め! って」
ベンケイさんが寂しそうに笑う
そうだよ、あのとき俺は決めたはずだ、立ち止まらないって
ベンケイさんが言ってくれて俺自身も決意して
自分を鼓舞するように、進め! と
「ありがとうベンケイさん、目が覚めたよ」
「そっか、そりゃよかった♪」
ベンケイさんが手を差し伸べてくれる
その手を掴んで立ち上がる
「母親は助けられなかったのは残念だったな
だけどベッキーたちは生きている
これからはそいつらを助けてやろうぜ」
「そうだね、そうするよ」
アンナ、夕食ありがとうな
アオイくん、心配させてごめんな
パンティさん、支えてくれてありがとう
ベンケイさん、やっぱり最高で最強の相棒だぜ!
俺はいつも何度も挫けて立ち上がる
きっとこれからも挫けまくるだろうな
みんなには心配や迷惑をかけるだろう
ごめんな、そしてありがとう
「決着は着いたみたいね」
パンティさんがやれやれといった感じでヒールを掛けてくれた
殴られたダメージが回復する
「まったくどこの青春ドラマですか」
アンナが呆れながら言う
「ケンタ殿大丈夫ですか?」
「うん大丈夫だよアオイくん」
「それで明日からどうする?」
「悪いけど俺は当分ベッキーのとこへ通うよ」
なにができるかわからないけど動こう
ベッキーに嫌われたままなのもイヤだしな
「それじゃわたしも一緒に行くわね
わたしもいた方がいいと思うから」
姉弟たちと仲良くなってたもんなパンティさん
「ありがとうサクラさん、助かるよ」
「どういたしまして」
「お兄さん、冒険者の活動はどうするんですか?」
「それはアンナたちに任せるよ」
「わかりました」
アオイくんがなにか言いたそうにしている
「アオイくんどうかしたの?」
「ええと、この一件でみんな忘れてるようなので」
「俺またなにか忘れてたのか? ごめん、教えてくれ」
まったく成長しないな俺は
でもみんなって言ってたな、なんだろ?
「屋敷の購入の件はどうするんですか?」
「そういやそうだな」
「すっかり忘れてました」
「ベッキーちゃんちのことで頭がいっぱいだったわ」
「うん、俺もそれどころじゃなかった」
アオイくん、覚えていてくれてありがとう
「うーん、ベッキーの方を優先させたいしなあ」
「そうかも知れませんけど、こっちも放置と言うわけには」
「アオイくんの言うとおりなんだけど、うーん」
「先に済ませておきましょうケンタくん」
「そうですね、一日開けた方がいいでしょう
ベッキーさんもその方が落ち着いていると思いますし」
たしかに今日の明日じゃ落ち着いていないだろう
「わかった、それじゃあ明日はみんなで商業ギルドだ」
翌日、商業ギルド
あとは契約書を渡して残りの手続きをするだけ
これで俺たちの屋敷になるからみんなで立ち会うべきだ
なので今回は全員でやって来た
「・・・・・・・はぁ」
契約書を確認したウーフさんが大きなため息をつく
つきたくもなるよね
「すみません、結局タダでいただく形になりました」
「いえ、ケンタさんのせいではありません
こちらこそすみません、ため息などついてしまって
まったくあの人は昔から自分勝手なのですよ」
村長、息子をあまり困らせるなよ
「父が決めたことです、文句は言えません
言いたかったら村へ行かないといけませんしね
これで契約を受理致します」
ものすごくガックリしている
「えっとウーフさん、一つ提案があります」
「なんでしょうか?」
これは節約おかんのアンナにも承諾は得ている
こら、思考を読んで睨むなアンナ
「この屋敷、実際のところはおいくらになるのですか?」
「そうですね、土地と屋敷を合わせて8億6千万ですね」
うん、赤字も赤字、大赤字だねウーフさん
「では同額を商業ギルドへ寄付します」
「え? はい?」
言われたことへの理解が追い付かないようだ
「寄付だから商業ギルドと俺たちだけのことです
村長のことは関係ないので問題ないでしょう?」
「な、なるほど、たしかに、ですが宜しいのですか?
せっかく無償で屋敷が手に入るというのに」
「いいんですよ、無償はさすがに心苦しいです
それにこんな形で手に入れると居心地が悪くなります
俺たちの大事なパーティーハウスですから」
「ありがとうございます、これで赤字にならなくて済みます」
心底疲れ切った笑顔のウーフさん、お疲れ様です
契約手続きと寄付のやり取りが完了する
そして俺たちを屋敷まで馬車で連れて行ってくれる
「ここがケンタさんたちの屋敷になります」
やはりフレンダ男爵邸と同じ規模の屋敷だ
貴族の屋敷と言った感じがする
でもシンプルな造りなので落ち着きがある
これなら住みやすそうだ
「ウーフ様、いらっしゃいませ」
「ようやく買い手が見つかったから全員集めてくれ」
中に入ると使用人らしき人々が数人いた
買い手が付くまで屋敷を維持するために置いていたそうだ
おかげで屋敷はキレイな状態だった
引っ越ししてすぐに掃除から始めなくてもいいので助かった
使用人さんたちは最後の片付けをして立ち去った
「それでは屋敷をご案内致します」
屋敷を案内してくれるウーフさん
各部屋や設備などの説明も受ける
やっぱりそれなりに広いし部屋数もいっぱいだ
設備も豊富でアンナが喜んでいた
「それではこちらが屋敷の鍵類と権利書などの書類になります」
鍵と書類を受け取る
これでこの屋敷は完全に俺たちのものになった
ウーフさんは寄付の件に改めて礼を言ってギルドへ帰っていった
「それじゃ引っ越し作業でもしましょうか?」
「荷物は収納庫に入ってるから楽だね」
「宿屋には物を置いてないからな」
「でも宿屋を退去しないといけませんよ」
「今日は宿屋で寝泊まりしましょうお兄さん」
「そうだな、今日の分まで払っているからな」
それに今から引っ越し作業をすると夜中になっちまう
荷物が収納庫だとしても部屋に置いていく手間がある
部屋割りもしていないし、各部屋をまだきちんと把握できていない
今日は最後の宿屋泊まりだ
明日からこの屋敷での生活を始めることにした
翌朝、宿屋を引き払い屋敷へ直行する
二階には廊下を挟んで両側に各5部屋、計10部屋がある
各部屋はかなり広い、さすが貴族の屋敷だ
ちなみに三階建てで三階も二階と同じ造りだ
一階は設備系などで埋まっている
その中からそれぞれ自由に部屋を選ぶ
各部屋の間取りはほぼ同じなので取り合いはない
部屋割りも済んで荷物を置いたりして引っ越し作業をする
あとは屋敷や敷地を把握するためにあちこちうろつく
「やっとパーティーハウスを手に入れたんだなあ」
しみじみと喜びを噛みしめる
「これで宿屋代を浮かせます」
「気楽に引きこもれるわ♪」
「自分の部屋だから気兼ねがいらねえ」
「これで、、、 うひゃあ♪」
みんなもそれぞれの想いを噛みしめているようだ
ツッコみたいところはあるけれど




