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愚者の楽園に転移したけどまったく問題ない  作者: 長城万里
3 ただいま

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124 大嫌い

「お父さん、誰か来てるの?」


ベッキーが出てきた


「おじさん、来てたんだ、、、」


泣きはらした目をしていた


「おじさんだ」「お姉ちゃんもいる」


トムとハックも出てきた

二人も目が少し赤い


「お母さんね、いなくなっちゃった

 おじさんのこと良い人だって言ってたよ」


俺を心配させないように無理矢理笑顔で言う

良い人? 誰が?


「ごめんベッキー、俺はそんな風に言ってもらえる資格はないよ」

「おじさん?」


「俺は万能薬を持ってることを忘れていた駄目な奴だよ」

「万能薬ってなんですか?」

「ケンタくん!」


子供が万能薬なんて知るわけがない

パンティさんは教えるなと言いたいんだろう

でも言わないと駄目だ


「万能薬はどんな病気でも治せるんだ」

「どんな病気、も?」

「ケンタさん、言わなくていいです」


シッドさんも止める


「お母さんも、治せたの?」

「ああ」


ベッキーは気が抜けたように聞いてくる


「どうして使ってくれなかったの?」

「持っていることを忘れていたんだ」


「思い出したの?」

「昨日思い出したんだ、遅すぎるよな」


「そう、なんだ、、、」

「だから俺は良い人なんて言ってもらえるような奴じゃないんだ」


「そう、なん、、だ、、、」


ベッキーの目からボロボロと涙が零れ落ちる



万能薬はどんな病気も治す、呪いなども解ける

死んでも24時間以内なら完全回復状態で蘇生できる


持って3ヶ月というのは3ヶ月生きられるということではない

3ヶ月以内に死ぬということだ


だからあの日の夜でも翌日でも死ぬ可能性はあった

事実、翌日にポリーさんは亡くなった


病気の進行具合によっては超級賢者なら治せた

だけど進行しすぎていて治せなかった


それでも万能薬なら治せた

だけど俺が忘れていたから治せなかった


なにが自己満足だ、なにが偽善だ、なにがサプライズだ

やれることだけ精一杯やる? やれてないじゃないか!


万能薬はまさしく万能だ

けれど持ってる奴が忘れてたら意味がない

使うべき時に使わないならただの水だ



「ベッキー、ごめんな助けられなくて」


ベッキーが涙を拭い、俺を睨む


「なんなんですか、中途半端に施してくれて

 どうしてお母さんを治してくれなかったの!

 食べ物も偽善もいらない! お母さんを返してよ!

 おじさんなんかだいっきらいっ!」


拭ったけどまた涙が溢れ出す

罵倒されて当然だ、俺は謝ることしかできない


「ごめんな・・・」

「謝らなくていいからお母さんを返してよ!」

「やめなさいベッキー!」


シッドさんがベッキーを叱る


「ケンタさんは悪くないんだよ、八つ当たりはやめなさい」

「お父さん、だって」

「そうだよ姉ちゃん、おじさんに怒ったらダメだよ」

「トム」

「姉ちゃん、おじさん悪くないよ?」

「ハックまで」


みんな、庇ってくれてありがとう

でも俺が悪いんだよ、大事なことを忘れていたのだから

忘れていなければ救えたのだから


「みんなおじさんの味方ばっかり! もういいっ!」


ベッキーは家の中へ走り去った


「「姉ちゃん」」


トムとハックはベッキーを追いかけて家に入る


「すみませんケンタさん、あとでよく言い聞かせておきます」

「ベッキーを叱らないで下さい、言われたことは事実ですから」

「しかしケンタさんは悪くないでしょう?」


「万能薬を持っているくせに忘れていました

 助けたいのにそんな大事なことを忘れるなんて駄目ですよ

 シッドさんに殴られても文句を言えません」


「そんなことしませんよ、ケンタさんに怒っていませんから

 そもそも万能薬を使っていただけても対価を払えません」


「対価なんて求めませんよ」


「ケンタさん、それはいけません

 万能薬の価値は知っています、対価は必要です」


そうかも知れないけど


「持っている人に出会えること自体が奇跡的です

 普通は王族とか特別な人しか持っていません

 ましてやそれを他人のためになんて使いません

 本当にその気持ちだけでありがたいです」


シッドさんだって悔しいはずだ

万能薬があれば助かったと思っているはずだ

それでも恨み言は言わない


この一家を俺は助けることができなかった

悔しい、悲しい、俺は拳を強く握り締めた

痛い、血が出てしまった

でもこんな痛みなんか比べ物にならない


「ケンタくん、今日はもう帰りましょ」


パンティさんがヒールを掛けてくれた


「そうするしかないね」

「ケンタさん、ベッキーを許してやって下さいね」

「許すもなにも俺の方こそすみません、また来ます」


俺は頭を下げて立ち去った



帰り道、パンティさんはなにも言わなかった

俺も言葉が出なかった


宿屋に着いた


「ごめん、疲れたから仮眠する」

「そう、みんなにはわたしから話しておくわ」

「ありがとうサクラさん」


俺は部屋に入るなりベッドに潜り込む


自分の情けなさに落ち込んだ

万能薬で治せることは知っていた

運良く手に入れた万能薬も忘れていたら意味がない


今更ぐちぐち考えてももう過去には戻れない

どうしようもないのはわかっているけど頭を巡る






帰り道、ケンタくんとは無言だった


万能薬のことは言わなくてもよかったのに

でもそれができない人だというのはわかっていた


まったく、不器用なんだから


宿屋に着いてケンタくんは部屋へ閉じこもった

今はそっとしておきましょう


わたしも部屋へ行きます


「ただいま」

「おうおかえり、どうだった?」

「治せましたか?」

「お兄さんは?」


みんな吉報を待ってたのね、ごめんね訃報よ

手遅れだったこと、ベッキーちゃんのことなどを話す


「それでお兄さんは引きこもってるんですね

 まったく相変わらずの雑魚メンタルです」


辛辣ねアンナちゃん

でもケンタくんを心配しているのがわかるわ


「ケンタ殿は悪くありません、ひどいですベッキーちゃん」

「そうね、でもベッキーちゃんもどうしようもなかったのよ」

「それはそうですけど、、、」


アオイちゃんももどかしいでしょうね


「ベンケイちゃん?」

「ん?」


「ベンケイちゃんもなにか言いたいことがありそうだけど」

「いや、ああ、まああるけど、それはケンタに直接言う」


ベンケイちゃんが怒ってるような感じがしたから聞いてみた

でもそれは本人へぶつけるようだ


わたしも言いたいこと、悔やんでいることがある


「そろそろ夕食ですからそのときにでもお兄さんと話しましょう」

「そうね」



夕食、ケンタくんは来ませんでした


「仕方がない人ですね、お兄さんは」

「ケンタ殿は苦しんでいるんですからそっとしておきましょうよ」

「でもそういうわけにもいかないわ」

「よし、叩き起こしに行こうぜ」

「ベンケイちゃん、もっと優しくしてあげましょう?」

「いいえ、お姉ちゃんに賛成です」

「アンナさんまで、、、」


ケンタくんの部屋へ乗り込むことになりました






起きて椅子に座ってボケっとしていたら


バンッ! と勢いよく扉を開けてみんなが入ってきた


「お兄さん、夕食時間過ぎましたよ」

「アンナ、今日は食欲ないんだ」


本当はお腹は空いている

でも食べる気が起きないのも本当だ


「私にそんな嘘は通用しません」


テーブルに収納庫から食事を出して並べるアンナ

美味そうだ、お腹が鳴る、でも手を出せない


「落ち込んでいるから食べられないんですか?」


パンティさんから結果は聞いているだろ

今はそっとしておいてほしい


「なるほど、食べさせて欲しいんですね」

「なに言ってんの?」


アンナがシチューの肉をスプーンに乗せる


「はい、あーん♪」

「なにすんの!?」


「いいから、あーん♪」

「おまえ、楽しんでるだろ」


「お前じゃなくてアンナでーす♪」 ズボッ!

「んがぐぐ!」


無理矢理食わされた


「いきなり突っ込むな! 危ないだろ!」

「でも美味しかったでしょ?」


そりゃ美味かったけどさ


「とにかく、文句言わず食べて下さい

 お腹が空いていたら思考も悪い方にばかり転びます

 ウジウジ悩んでないで前を向きなさい!」


アンナなりに励ましてくれてるんだろうな

でもな、今回ばかりは自分が許せないんだよ

ごめんなアンナ


とりあえず食べることにした


「お兄さん」

「なに?」


「私もごめんなさい」

「なんでアンナが謝るんだよ」


「私はお兄さんが万能薬を持っていたの知っていたでしょ

 サイショノ村でのことを聞いていたから」


そうだったな、話したよな


「それなのに私も思い出さなかった

 お兄さんと同じです、ごめんなさい」


「アンナは所持者じゃないから仕方がないだろ」


気にしていたのか、辛い思いをさせたようだ


「アンナは気にするな」

「、、、うん」


まわりに心配や迷惑を掛け過ぎだな俺


「ケンタ殿、わたしはその家族とは会ったことがありません

 だから助けられなかった気持ちは漠然としかわかりません

 それでもケンタ殿が辛かったのだけはわかります」


「アオイくん、ありがとう」

「なにもできないのが口惜しいです」

「俺のことを想ってくれるだけで嬉しいよ」


アオイくんまで悩ませてしまった

ごめんなアオイくん


「わたしももっと賢者を育てればよかったわ」

「超級まで育てたのはすごいと思うよ」

「でもその上の神級だったら治せたのよ」


各職業の最高ランクが神級だ

だけど神級へ到達したプレイヤーは数えるしかいない


たしか4人だったか、3人だったか?

それぞれ違う職業で神級に到達していたはず

どの職業かは知らない


神級へ到達するための条件が無理ゲー過ぎる

まずプレイヤーの基本レベルが1000以上

11年やっても893だったからな俺


大前提として神級にしたい職業を超級にするのは当たり前

超級になって100日以上その職業をメイン状態のままにしておく


100日経過後、神級昇格クエストが発生

俺はそこまで到達していないから内容を知らない

クエストをクリアしたら神級になれることしかわからない


「神級なんて簡単になれないからな」

「そうよね、簡単じゃなかったわ」


ん? まるで神級になったことがあるみたいな言い方?


「えっとサクラさん、どれか神級の職業を持ってるの?」

「わたしの魔女が神級よ」

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