123 万能薬
「それじゃ7億で」「高い、譲らんぞ」
「それじゃ5億なら」「まだまだ高いのう」
「それじゃ3億に」「このまま帰るか?」
「それじゃ1億、、、」「話にならんのう」
「では10万円でどうでしょうか?」
「アンナ!?」
アンナが割って入ってきた
(10万はダメだろアンナ)
(アシュラ討伐の報酬と同じ額ですよ)
(ん? そういやそうだけど、それがどうした?)
「アシュラ討伐の報酬の代わりに屋敷をいただく
と言うことでどうでしょうか村長さん」
「ほう、お嬢ちゃんの方が話が分かるようじゃ」
「お嬢ちゃんではなくアンナです」
「おおすまんアンナ、失礼した
そうじゃの、討伐報酬を金ではなく屋敷に変更しよう
うむ、よかろう」
「ありがとうございます」
「待って、討伐は俺一人でやったわけでは」
「じゃがケンタ一人で倒したようなものだったぞ?」
結果的にはそうかも知れないけど
「お兄さん、ここが落としどころですよ」
「うむ、アンナとやらはよく分かっておる」
ダメだ、この二人に勝てる気がしない
俺は諦めて討伐報酬としてもらうことにした
10万円を返金する
契約書に討伐報酬の件を書き込む村長
そしてサインして認印を捺してくれた
ついでに
『報酬として渡す、文句があるなら村へ来い』
と備考欄にウーフさんへメッセージを書く
ウーフさんの胃が心配になってきた
「これで契約完了じゃ、あとはウーフに任す
なにかあればウーフに相談するといい」
「ありがとう村長」
「冒険者活動、頑張れよケンタ」
「はい」
無事契約できて村長宅から出る
ちょうどお昼なので宿屋へ戻って昼食にする
「お兄さん、今日はこれからどうしますか?」
「契約できたから街へ出発するか?」
「いや街へは明日の早朝に出発しよう」
「それじゃ少し村をぶらついていいですか?」
「いいよアオイくん」
「わたしもそうしようかな」
「そんじゃ私も」
三人はこの世界に来てサイショノ村へは初めて来たからな
ゲーム時代が懐かしいのだろう
食べ終わって少しみんなでぶらついた
商店にやって来た
「この村の商店と言えばアレよね」
「目利きですねサクラ殿」
「せっかくだからやろうぜ♪」
「みんな答え知ってるだろ、ズルじゃん」
「「「イカサマ上等♪」」」
「それもそうだな」
(ダメな人たちの集まりだ)
商店の中に入る
「いらっしゃませ♪」
相変わらず笑顔で迎えてくれる、さすが商売人
「あらお客さん、久しぶりですね」
「覚えててくれたんだ」
「そりゃ万能薬を当てた人なんていませんからね
印象に残っていますよ」
まあそんなとこだろうな
ん? パンティさんがポカンとしている
「サクラさん、目利きに挑戦するんじゃないの?」
「ケンタくん、万能薬、当てたの?」
「え、うん、当てたよ」
万能薬を当てたことに驚いていたのか
そうだよな、なかなか当たるわけないし
「まだ持ってる? 使っちゃった?」
「使ってないよ、どうして?」
気付いてないの? って感じで呆れた顔をされた
「サクラさん、万能薬がどうかしたのかよ」
「治せるじゃない」
「へ?」
「ベッキーちゃんのお母さんを治せるじゃない!」
ベッキーの母親、ポリーさん
超級賢者の魔法でも治せない状態まで進行していた
その状態でも治せる手段がある
それが 万能薬 だ
「そうだった、俺持ってたのに、あのとき忘れていた、、、」
ド忘れしていた自分の馬鹿さに愕然とした
「ケンタくん、帰ったらすぐに治しに行きましょ」
「ああ、絶対に行く、忘れててごめん」
「落ち込まないの! しっかりしなさい」
「あの、お客さんたち、どうかしたんですか?」
俺とパンティさんの様子を見て不安そうにする店員
「騒いでごめんな」
「ごめんなさい、帰りますね」
「はあ、またのご来店お待ちしてます」
宿屋でベンケイさんたちにも状況を説明する
「そうか、助けることができるんだなケンタ」
「ああ、まったくもっと早く思い出せていれば」
「仕方がないですよケンタ殿、忘れることだってあります」
「そうそう、お兄さんが忘れるのはデフォルトです」
「アンナ、フォローになってないぞ? 泣くぞ?」
「ケンタくん、出発は明日の早朝の予定だったけどどうする?」
「みんな、悪いけどすぐに出発していいかな」
「もちろん」「いいぜ」「委細承知」「決定ね」
「みんな、ありがとう」
宿屋を引き払い俺たちは街へ帰ることにした
「こんな時間から行くのか? 慌ただしいな」
「親父さんすみません、急用ができたもので」
「冒険者ならよくあることだ、気にするな
でもまた村に来てくれよ」
「もちろん」
親父さんに礼を言い出発する
少しでも早くポリーさんを治してあげたい
あの姉弟たちを喜ばせたい
まったく俺って奴は駄目だなあ
肝心なところでポカをする
パンティさんは箒、俺とベンケイさんは白カブ
アンナとアオイくんは緑カブ
事故らないギリギリの最高速で進む
アンナは魔法が使えなくなってるだけで魔力はある
魔力を流すことは可能だから緑カブを運転できる
急いではいるが腹も減るし眠気もくる
だから食事と仮眠はとる
ブリダイコン山の麓まで来た
ここで野営をする
「早朝、レッドとブルーに乗って山越えするけどいい?」
「いいわよ」
「任せるがよい」
二人に乗って行けるところまで行く
無理はさせたくないから途中まで行ってもらう
そこからはカブと箒でオシリペンペン街までノンストップだ
「アオイくん、悪いけどミズムシ街は素通りするよ」
「もちろんです、また今度ゆっくり行けばいいです」
ネミロフさんやギルドのみんなにお礼もしたい
でも今はポリーさんを優先だ
翌朝、ブルーとレッドに乗って山を越える
山を越えても下りずにそのまま飛んでもらう
カタコリ村の少し手前で下りる
「レッド、ブルー、ありがとう」
レッドとブルーは小さくなってパンティさんと箒に乗る
ここからは街までノンストップで進む
オシリペンペン街に到着
お昼ちょっと前に着いた
「それじゃこのまま俺はベッキーのところへ行ってくる
みんなは宿屋でゆっくりしててくれ」
「待って、わたしも行くわ」
「サクラさんも疲れてるだろ」
「それはケンタくんもでしょ」
今回は村長に会いにいくだけのはずだった
それがイレイとの決戦のおまけがついてきた
そのおまけが結構大変でみんな疲れている
さらにあまり休む暇もなく帰還した
たしかに俺も疲れている
「でも万能薬を持ってるのは俺だけだから」
「そうね、でも一人で抱え込まないでね」
「そうですよお兄さん、サクラさんお願いします」
「そうだなサクラはその家族とも会ってるしな」
「行って下さい、わたしたちは待ってますケンタ殿」
「みんな、ありがとう」
正直、一人だと不安もあった
またなにかポカするんじゃないかと
誰かがいてくれるだけで安心できる
「それじゃサクラさん、後ろに乗って」
「ええ」
俺とパンティさんはトウェイン家へ向かう
街中なので爆走はできないが馬車よりは速い
待ってろよ、もうすぐ治してやるからな!
「そういやベッキーは喫茶店で働いてたな」
「そうね、今日も仕事かしら?」
「家に行くか喫茶店に行くかどうしよう」
「家に行って先にポリーさんを治してあげましょう
ベッキーちゃんが帰って来たら驚くわよ♪」
「いいね、サプライズだね♪」
最初の予定どおりトウェイン家へ向かうことにした
トウェイン家の近くでカブから降りる
家から俺と同年代ぐらいの男が出てきた
冒険者のようだ
「こんにちは、もしかしてシッドさんですか?」
「そうですが、どちら様ですか?」
やっぱりシッドさんだった
ポリーさんの夫で姉弟たちの父親だ
「俺はケンタと言います」
「わたしはサクラと言います」
「ああ、あなたたちが
ポリーと子供たちから聞いています
色々便宜を図って下さりありがとうございました」
深々と一礼するシッドさん
「大したことはしていません」
食料を渡していただけだからな
「それで今日はどうしました?」
「サクラさん、今回は言ってもいいよね?」
「そうね、確実だから」
前回は超級賢者でも治せない状態だったから諦めた
治すと言って治せなかったら駄目なので言わなかった
でも今回は万能薬があるから確実に治せる
「ポリーさんの病気を治しに来ました」
「・・・・・失礼ですが、どうやって?」
シッドさんは喜ぶでもなく静かに聞いてくる
まあいきなり治すといっても信じられないのだろう
パンティさんが浮かない顔をしている
どうしたんだ?
「万能薬です、この薬で病気は治ります」
シッドさんが一瞬目を伏せゆっくり瞼を開ける
「万能薬ですか、たしかにそれなら治せるでしょうね
ありがとうございます、ですが必要ありません」
まさか断られるとは思わなかったので困惑した
「必要ないって、ポリーさんが助かるんですよ!」
「ケンタくん! もういいのよ、諦めて、、、」
「サクラさん? なに言ってるんだよ」
サクラさんはシッドさんの言葉と態度からなにかを察していた
俺はとても嫌な予感がした、そしてそれは当たる
「すみません、ポリーはもう亡くなりました」
ええと、たしか最後に会ったのが、家探しの前の日だから、、、
ええと、6日前か、ええと、なんで? ええと、、、
「い、いつ、ですか? お亡くなりになった、のは」
「5日前です、俺はその翌日に仕事から帰って来ました
子供たちが妻の傍らで泣いていて悔しかったです
討伐なんか行かずにそばにいればよかったと後悔しました」
悲しそうに悔しそうに語るシッドさん
5日前、俺は商業ギルドで家探しをしていたときだ
俺が呑気に家探ししているときにポリーさんは、、、
「ですので、もう必要ないのです
お気持ちだけ受け取らせていただきます
お心遣いありがとうございました」
一礼するシッドさん、やめてくれ、礼なんて言わないでくれ
俺は助けられなかったんだぞ!




