120 決着、そして空を仰ぐ
暗い、どこまでも暗闇が広がっている
痛くもない、苦しくもない
死んだから痛みや苦しみから解放されたのだろう
そういや死んだのになんで意識があるんだろう?
ん? なんか光が見えた
こっちに近付いている
その光は金色の髪の女性だった
腰より下まで伸びたストレートの金髪
蒼い瞳で俺より少しだけ低い背丈
白い飾り気のない膝丈のワンピース
美女というよりは美少女のような顔
細身で胸は慎ましかった
なにかを探すようにキョロキョロしながら歩いている
俺に気付いて笑顔になった
『やっと見つけました』
小走りで近寄る女性
もしかして天使とかかな?
俺をあの世へ連れて行くために来たのかも
「俺は成仏させてもらえるのかな?」
『お兄さんは死んでいませんよ、死にかけてるけど』
「それどういうこと?」
『お兄さんを死なせないために来ました』
死にかけの俺を助けに来たってことかな?
『それでは目を閉じて下さい』
助けてもらえるならありがたい
言われたとおり目をつむる
なにか柔らかいものが優しく唇に触れた
思わず目を開ける
天使の顔があった
キスされていた
『もう、目を閉じててくれないと恥ずかしいじゃない!』
怒られた
「待って、なんでキスしたの!?」
すこぶる動揺する俺
リディアといい今時の若い子はこんな簡単にキスすんの?
『お兄さんを助けるために必要だっただけです
ほら、魔力が戻ってきているでしょ』
そういや枯渇していた魔力がどんどん戻ってる感じがする
『起きたらすべての能力が限界突破しているわ
相手がどんな能力で攻撃してもお兄さんには効きません
無敵状態だからあいつやっつけちゃってね』
あいつって、イレイのことかな
こっちの事情もわかっているようだ
すごいな天使
『それじゃあ早く起きてねお兄さん』
天使の身体が徐々に消えていく
羽を出して浮き始める
その羽は天使の白い羽ではなかった
何度も見たことのある虹色の羽だった
『起きたらみんなを、私を守ってね』
「お前、まさか、、、」
天使は優しく微笑む
『お前じゃなくて、、、、、』
その言葉は最後まで聞けることなく消えた
そして俺はまた闇に包まれる
身体に魔力が戻ってくる
体力が回復していく
力が湧き上がってくる
そして意識が戻る
ゆっくりと目を開ける
「、、、、、アンナ?」
アンナの顔が近くにあった
優しく微笑んでいる
「おはよう、お兄さん、、、」
そのまま俺に被さるように倒れる
「アンナ!?」
「ごめんなさい、魔力、使い切ったので」
アンナが魔力枯渇? 何があったんだ
そういや俺、魔力も体力も回復している
いや、元より増えてる感じがする
身体強化を使っていないのにそれ以上の力を感じる
「アンナが俺を助けてくれたのか?」
「はい、そのため魔力を、全部使いました」
苦しそうだ
「どうやったのか知らないけどすごいな
イレイに封じられていたのに回復してる」
「どうやったかは、秘密です」
こんなすごいことができるんだ
色々と秘匿事項なのだろう
「早く、ポチャのところへ、行ってあげて」
「ああ、だけどアンナをこのままには」
魔力もなく苦しんでるアンナを放置もできない
「それなら、お兄さんが、結界を張って、下さい」
「俺の結界はしょぼいぞ?」
自分で言ってて悲しくなった
「大丈夫ですよ、今のお兄さんなら、強い結界を、張れます」
たしかに今の俺の能力値ならいけそうな気もする
とりあえず張ってみる
「すげえ・・・・・」
自分で張っときながら驚いた
アンナの結界以上の頑丈な結界が張れた
「今のお兄さんは、無敵状態、です
さっさと、イレイを、やっつけて下さい」
「わかった、やっつけてくるから安静にしてろ」
「でも時間を、かけては駄目、ですよ
無敵状態は、1時間しか、持ちません、から」
やっぱりずっとってわけではないか
「おう、それじゃ行ってくる」
「行ってらっしゃい、、、」
俺はポチャが走り去った方向へ向かう
そういや気を失っていた間、夢を見た気がする
どんな夢だったのか思い出せないけど
思い出せない夢より今はポチャだ
全力で走る、すごく速い
ウソピョンと戦ったときのラインハルトより速いかも
もうイレイの姿が見えた
イレイが左腕を高々と上げて何か振り回している
楽しそうに笑ってやがる
「僕の邪魔をしてくれた罰だよ!
ほらほら、いつまで千切れずにいられるかなあ?
千切れたら飛んでっちゃうよね♪」
その手は尻尾を掴んでいた、ポチャの尻尾だ
尻尾を掴んでブンブン振り回していやがった
「なんかブチブチ音がし出したね♪
もうすぐ千切れちゃ(ガキンッ!)い、そう、だ、、、」
左腕を手刀で斬る
ポチャを掴んだままの左腕が飛ぶ
それをジャンプしてキャッチ
「ぐああっ! 痛い!? なにがっ!? ぎぃっ!」
痛みでのた打ち回るイレイ、ざまあみろクソガキ
「ポチャ、しっかりしろ」
「お、兄さん、、、よかった、無事、だったん、だね」
裂傷、骨折、打撲、千切れかけの尻尾、頭が少し変形していた
俺たちのために頑張ってくれたんだな
「俺たちの、俺のためにすまなかった」
「仲間、だもん、へっちゃら、だよ♪」
ああ、お前は俺たちの最高の仲間だ
「治してやる、エクストラハイヒール」
すべてのダメージと状態異常を全回復、体力も全回復する
俺はエクストラハイヒールを本来使えない
無敵状態だから使えた
ポチャの怪我が消えていく、折れた骨も元どおり
身体が元の愛らしい姿に戻っていく
息が途切れ途切れだったのが落ち着いていく
「どうだポチャ、まだどこか変なところあるか?」
「ないよ、ありがとうお兄さん♪」
尻尾をブンブン振って喜ぶポチャ
「おまえっ、なんで生きてるんだよ!?」
痛みが終息したイレイが俺に気付いたようだ
「死の淵から戻ってきたぜ、お前を叩き潰すためにな」
「なんで回復してるんだ? できないようにしたのに!」
そりゃ不思議だろうよ
「そいつは企業秘密だぜ♪」
そう言って銀の短剣を左足に投げ刺す
「痛っ! まさか固有スキルも?」
「そのまさかだ、決壊死!」
イレイの左足が消滅する
片足がなくなり地面に倒れる
右足だけでなんとか身体だけは起こす
「けっこう根性あるじゃねえか」
「僕の能力が解除されるなんて、ありえないっ!」
そうかもな、アンナがいなかったら俺は死んでいただろう
だけど俺たちをなめてかかったお前の自業自得だ
「さて、時間がないから終わらすぜイレイ」
「くそ、くそっ! それならっ!」
まだ何か手があるのか?
イレイに近付く足を止める
何も起こらない
「何かしたのか?」
「お兄さんの回復した『手段』を消したよ
だからお兄さんは元の弱いお兄さんに戻ったのさ」
んー、特に変化はないな
無敵状態は続いている
「戻ったところで今のお前には勝てると思うぞ
両腕と片足がなくて身体もヒビだらけじゃないか」
「そうだね、でも僕の能力の一つを忘れているよ」
そう言ってイレイは飛んだ
そういや飛行能力があったな
「今日のところは見逃してあげるよ
次に会ったときは遊ばず殺してあげるからね!」
飛んで行った、ようは勝てないから逃げたんだな
「やっぱクソガキだ
ポチャ、アンナのところへ戻っててくれ」
「お兄さんはどうするの?」
「ちょっとあいつ潰してくる」
ポチャを撫でてやる
そしてフライで飛んでイレイを追う
今の俺の速度ならすぐに追いつく
見つけた、必死で飛んでいて背後の俺に気付かない
さらに加速してブラックホールを纏った手刀で胴を斬る
「なっ!? うぐわぁっ!!!」
痛みで飛行が途切れる
真っ二つになった身体が地面に激突する
下半身は砕け散る
「おまえっ、おまええぇっっ!!」
そんなに騒ぐとご近所さんに迷惑だぞ、いないけど
「逃がすわけないだろ」
「上半身でも飛べるんだよっ!」
イレイが飛ぶ、そしてぶつかる
「結界だと!」
「言っただろ逃がさないって、バインド」
魔法の鎖で上半身を何重にも縛り上げる
「こんな鎖、消してやる!」
サクッ!
「んぎゃっ!?」
額に銀の短剣を突き刺してやる
「俺の一言でお前の頭は消滅する
鎖を消すよりも頭が消える方が早いぞ
さすがに頭が消えたらお前も終わりだろ?」
「うぐぐ、、、」
悔しそうに唸るイレイ
ガシャン! 「ぎゃあっ!」
上半身の下から順に踏み砕いていく
ガシャン! ガシャン! ガシャン!
「ぎっ! んがっ! やめろっ! 痛い!」
中身が空洞なのに痛覚があるってのは不便だな
だけどポチャをいじめた分は償ってもらう
首と頭だけになるイレイ
「ひぃっ、ひぃっ、やめて、、、」
「ポチャも俺も痛くて苦しかったんだぞ」
ガシャン! 首を砕く
「いやだ、消えたくないぃっ! たすけてぇっ!
ごめんなさいぃっ、、、」
涙を流して懇願するイレイ
「悪いがお前を許すことはできない」
「そ、そんな、、、」
もう俺は躊躇しない
「決壊死」
断末魔を上げる間もなくイレイの頭が霧となる
終わった、やっとイレイを倒せた
無敵状態のおかげだ
ようするに俺は弱い
もっと強くならないと誰も守れないことを痛感した
ポチャがボロボロにされた
アンナは俺のために魔力を使い切った
魔力枯渇の苦しみは知っている
みんなもきっとあの能力で苦しめられたに違いない
それでも俺よりは対抗できていたはずだ
みんなを守れるように強くならないとな
なにより自分自身すら守れないでどうする
俺は強くあれと決意を固めた
「アンナとポチャのところへ戻ろう」
フライで飛んで戻る
あれ、速度が落ちてる?
というか元の俺の速度だ
無敵状態終了かよ
アンナに頼んでまた無敵状態にしてもらおうかな?
いや駄目だな、それだとアンナがまた倒れる
魔力使い切るみたいだし
他力本願じゃなく自分自身を鍛えよう
アンナとポチャのところへ戻ってきた
「ポチャ、アンナの状態は?」
「おかえりお兄さん、大丈夫だよ、寝てるだけだよ」
アンナは少し魔力が戻ったのか苦しそうな感じはしていなかった
すうすう寝息を立てて眠っている
ありがとうなアンナ、お前のおかげで倒せたよ
「ポチャも頑張ってくれてありがとう」
「えへへ♪」
撫でてやると尻尾を振って喜んでいる
もう少しだけここで休憩してみんなを迎えに行こう
俺はポチャと寝っ転がり空を眺める
空には無数の星が輝いていた
「DSイレイ」編終幕です
夢に出てきた女性は誰なのか?(バレバレだってば)
ポチャごめんよ、ひどい作者でほんとごめんよ
次回、サイショノ村再び
宿屋の看板娘に名前が付きましたよ




