108 パーティーハウス
食べ終わって片付けをする
冷蔵庫に使った分を補充する
「それで治すことはできた?」
片付けと補充をしながらパンティさんと小声で話す
食べている間にパンティさんは<治療>魔法を使っていた
「・・・・・ごめんなさい」
「無理、なのか?」
「ええ、超級賢者でも治せない段階に入っていたわ
薬のおかげで延命しているけど、持って3ヶ月ぐらい
ああやって笑って喋れているのが不思議なぐらいよ」
子供たちに心配かけないようにしているのだろう
気持ちが病気に負けていないんだ
でも身体自体はボロボロだと思う
もっと早く出会っていれば、出会えていれば
いや、考えても仕方がないことだ
考えるなら今後のベッキーたち姉弟のことだ
俺とパンティさんは帰ることにする
「今日はありがとうございました」
「ポリーさん、起きなくていいから寝てて下さい」
起きてこようとしたので止める
「「おじさん、お姉ちゃんありがとう」」
トムとハックがお礼を言う
上の弟くんがトム、下の弟くんがハックだと教えてもらった
「おじさん、この前も今日もありがとう」
「ベッキー、これからも家に来ていいかな?」
「え、いいですけど、いいんですか?」
「大丈夫よ、わたしも一緒に来るから♪」
「えっと、はい、また来てくださいね?」
不思議そうに了承するベッキー
俺とパンティさんは家から立ち去る
時間は19時ちょっと過ぎ、20時前には宿屋へ戻れる
ライトを点けて夜道をカブが走る
「ごめんね、治せなくって」
「気にしないで、魔法は万能じゃないんだろ」
できないことはできない
だからやれることだけ精一杯やる
それだけだ
「これからはなるべく行くことにしようと思う」
「そうね、わたしも一緒に行くからね」
「うん、助かる」
ポリーさんの容体は持って3ヶ月、いつ最悪になるかわからない
ベッキーたちはその時期が来たらどうなるのだろう
父親がいるからなんとかなるとは思うけど
食事中に父親のことも聞いておいた
シッド・トウェインさん、Aランク冒険者
基本はソロでたまに合同討伐に混ぜてもらっているらしい
昨日から遠征してるので今日はいなかった
Aランクなら実力あるしそこそこ稼ぎはあるはずだ
だけど今はポリーさんの薬代で困窮している
言い方は悪いがポリーさん亡き後なら薬代は必要なくなる
Aランクの稼ぎなら生活もまともになるだろう
でも父親があちこち飛び回って家を留守にする
小さい子供たちだけで大丈夫だろうか
どれも俺が悩むことではない
でもできることがあるならやりたいと思う
「いい家族だよなベッキーの家族は」
「そうね、あの状況でも明るかったし」
「俺さ、どんな状況でも明るい家族に憧れているんだ
そういう家庭を作れたらいいなって思ってる」
「ケンタくんなら作れるんじゃない?」
「そうだといいな」
「ケンタくん、仲間を大事にするじゃない」
「そうだけど仲間と家族はまた違うでしょ」
「同じよ、大切に想う気持ちはどちらも変わらないわ」
「そうかも、知れないね」
「わたしは永遠の混沌は仲間であり家族だと思っているわ」
「そっか、そうだな、俺たちは仲間で家族なんだな」
少しだけ胸につかえていたものが取れた気がした
パンティさん、ありがとう
パンティさんは意外と家庭的だということを知れた
優しくて子供の扱いも慣れてて料理もできる
ふざけてる部分もかなーりあるがそれも愛嬌だ
美人でスタイル良くて強くて、って、どこの完璧超人だ?
あれ? あんたほんとにコミュ障か?
引きこもりのスペックじゃないぞ?
ネガティブさが微塵も感じられないんだが?
パンティさん、謎の女だ
でも魅力的な女性なのは間違いない
あっちでもきっとモテてたに違いない
「サクラさんって元の世界で彼氏とかいたんじゃない?」
「いるわけないでしょ、引きこもってたのに、それに、、、」
「それに?」
「うっさい、抱き付くわよ!」
「それ俺が嬉しいだけだよ」
「へー、嬉しいんだー♪」
しまった、自爆した! ムギュッ♡
「ふっふっふ、宿屋に着くまで離してあげなーい♪」
「勘弁して下さい、ごめんなさい、俺が悪かったです!」
嬉しいけど恥ずかしい
俺は魔力を多めに注いで速度を上げる
急いで宿屋へカブを走らせる
それに、のあとが気になるけど誤魔化されたな
言いたくないのかな、パンティさんにも色々あるんだろうな
だけどこの誤魔化し方はやめてくれ
ようやく宿屋に着いて解放される
「うう、穢された、、、」
「失礼ね!」
部屋に向かうと部屋の前でアンナが仁王立ちしていた
「二人ともどこ行ってたんですか」
「教会広場のバザーだよ」
「バザーは17時には終わりますよ」
「まあまあアンナ、中で話そうぜ」
ベンケイさんが部屋から出て来てアンナに言う
部屋に入って俺とパンティさんはベッキーたちのことを話した
「そうだったんですね、ごめんなさい
でも遅いから心配したんですよ」
「すまん」
「ごめんねみんな」
「でも治せないんですね」
アオイくんが自分のことのように落ち込む
「こればっかりは仕方がないさ」
「アンナはそういう能力はないのか?」
「お姉ちゃん、私は未来の猫型ロボじゃないんですよ」
アンナでも無理か、じつはちょっとだけ期待してた
「私たちもできる限り応援するぜ」
「わたしも協力します」
「ありがとう二人とも」
ポリーさんは助けることができない
でもあの子たちは助けてやりたい
できることをやろう、みんなで
翌朝、顔を洗いながら思い出す
色々あってすっかり忘れていた
「今日はギルドで依頼を受けるんだよな」
「討伐! 討伐にしましょう!」
「のんびりできる依頼がいいわ」
うちのメンバー自由だな
「ギルドへ行く前に話したいことがある」
「なんですか?」
「食べてから部屋で話す」
食べ終わって女子部屋に集合
「俺の最初の目標がみんなを集めることだった」
「おう、ちゃんと集まったから目標達成だな」
「それじゃ次の目標でも決まったんですかケンタ殿」
「次の目標は同時期に考えていたことなんだ」
「なにかしら?」
「パーティーハウスを手に入れたいと思っている
だけど必要ないと思う人もいるかも知れない
だからみんなの考えを聞きたい」
パーティーのことだからみんなの考えを無視してはいけない
「私はどっちでもいいかな
依頼で飛び回ったりするからな」
予想どおりベンケイさんらしい答えだ
「わたしも特には気にしてませんでした
もう少しだけ考えをまとめさせて下さい」
「うん、いいよ」
「わたしは賛成!
宿屋は他のお客さんもいるから気を遣うでしょ
パーティーハウスだと仲間だけだから安らげるわ♪」
たしかにそうだな
「私も賛成です、というかもっと早く手に入れるべきでは?
宿泊料が勿体無いですよ、ハウスだと維持費だけなのに」
さすがアンナ、節約おかん
「殴りますよ?」 ニッコリ
「思考を読み取るな!」
どうやら反対はいないようだ
「それでアオイくんはどう? 考えまとまった?」
「はい、大賛成です!」
「そ、そうなんだ」
大が付く賛成をいただいてしまった
「賛成は嬉しいけどどうして?」
「えっと、サクラ殿とほぼ同意見でござる
仲間だけの方が気楽でござる」
「そうよねアオイちゃん、同志ね♪」
(すみませんサクラ殿、じつは建前です)
「なあ、一人一部屋もらえるのか?」
「一応そのつもりだけど」
「なら私も大賛成だ♪」
「どうして?」
「自分の好きに模様替えできるだろ」
「なるほど」
満場一致でパーティーハウス購入が決定した
「それでどうするんですかお兄さん」
「そうだな、今日から探すことにするよ」
「依頼はどうすんだよ」
「そうだよな仕事もしないとな」
「それじゃ二手に別れればいいのでは?」
「おお、そうしよう」
アンナの言うとおり二手に分ければいい
ハウスチームと依頼チームに分けて活動だ
さっそくチーム分けを話し合うがすぐに決まった
依頼チームはベンケイさんとアオイくん、討伐大好き組だ
「私はマイルームがあれば問題ない」
「わたしも特に要望はありません
みんなと住めればいいだけです
それに家探しより討伐していたいですから」
うん、なんとなくわかってたよ二人のことは
俺とアンナとパンティさんがハウスチームだ
「お兄さんが商人に騙されないようにします
あと変な家を買われないようにします」
変な家ってなんだよ、俺のセンスを疑ってるのか?
うむ、センスないな俺、頼んだぞアンナ
「自分の住む家はきちんと選びたいもの」
そうだね、さすがパンティさん
「俺は言い出しっぺでリーダーだからな」
自分が提案して丸投げはしないぜ、たまにするけど
でも家は大事だからしっかり選ぼう
こうして組み分けも決定して行動を開始する
出動! 永遠の混沌!!
依頼チームは冒険者ギルドへ意気揚々と向かって行った
もう誰も暴れん坊たちを止められない
俺たちハウスチームも宿屋を出る
だがすぐに足を止める
「どうしたのお兄さん?」
「どこで家を買えばいいんだ?」
「お兄さん、ノープランやめてくれない?」
バカだコイツと言いたそうな顔で見るな
「だってこの世界に不動産会社なんてないだろ」
「商業ギルドよケンタくん」
「サクラさんの言うとおりです」
商業ギルドの存在は知ってるさ
でもゲームでは商売をするプレイヤーが登録するところだ
そもそもゲームでは土地や建物などの売買がなかった
だから思いつかなかったんだよ
「商業ギルドは知ってるけど思いつかなかっただけだ」
「ふぅ、やっぱりお兄さんは私がいないと駄目ですねえ」
やれやれといった感じで鼻で笑うアンナ
「くそう、アンナのクソやろう!」
ボガッ!
「誰がクソですかっ!」
口に出して言ってしまったため殴られた
「遊んでないで行きましょう」
「はーい」
「ふぁい」




