107 偽善者
教会で買い物を済ませて広場のバザーへ行く
「人が多いわね」
「いつもこんなもんだよ」
「そうなのね、それじゃはぐれたらいけないから」
左腕に抱きついてくるパンティさん
今度は腕に柔らかく温かいものが当たる
いい匂いもして落ち着かない
「ちょ、やめてくんない? 当たってるよ?」
「当ててるのよ♡」
悔しい、でもちょっと嬉しい自分が恨めしい
その状態であちらこちらと見て回る
商品を見るため途中から腕を離してくれた
バザーを堪能したパンティさんがご満悦だ
「お昼過ぎてるからどこかで食べようか」
「そうね、お腹空いたわね」
小さい食事処を見つけた、喫茶店のようだが店名がギャバン
この店、大丈夫か? 店内が魔空空間とかじゃないだろうな
店に入るが普通の喫茶店だった
席に座ると小さい子が水を持ってきてくれた
この店の子かな、お手伝いとはえらいね
「どうぞお水です、ご注文が決まりましたら呼んでください」
「ありがとう♪」
「ありがとう、って」
あの姉弟の姉だった
「あれ、おじさん?」
「おう、久しぶりだな」
「知り合い?」
「ここキミの家?」
「いえ、雑用で働かせてもらっています」
小さいのに働いてるのか
やっぱり家は苦しいのかもな、母親が病気らしいし
「ごめんなさい、まだ仕事あるので」
「おう、引き留めてごめんな」
ペコリと一礼して奥に引っ込む姉
「ねえねえ、誰なの?」
「食べながら話すよ」
先に注文をする
それからパンティさんに姉弟のことを話した
「そっか、お母さんが病気なんだ」
「俺はサブ職業に賢者持ってるけど中級ランクだから治せない」
「わたしもサブに賢者持ってるわよ、超級ランクで」
「は?」
パンティさん、スペック高過ぎ!
でも超級ランクの賢者なら、、、
「えっと、サクラさん」
「いいわよ♪」
「まだなにも言ってないよ?」
「言わなくてもわかるわよ、治してあげたいんでしょ」
「うん、でもいいのか? 俺の自己満足だぜ」
「ケンタくんのやらない偽善よりやる偽善ていうの?
わたしもそれには同意するわ、だからいいのよ♪」
「ありがとうサクラさん」
「お礼の言葉はあの子からいただくわ
それが自己満足ってものでしょ♪」
これであの子たちも少しはマシな生活ができるだろう
「でもあの子にお母さんの病気を治すって言ったら駄目よ」
「なんで?」
「超級賢者だからってすべての病気を治せるわけではないのよ」
「そうなの?」
病気ならなんでも治せるもんだと思ってた
「病気の進行具合によっては治せない場合もあるの
だから期待させたら駄目」
申し訳無さそうな顔で言うパンティさん
「いや、俺が勝手になんでも治ると思ってただけだから
無理だったら仕方がないよ」
あの姉弟にとっては仕方がないで片付けられないだろうけどな
「魔法は便利だけど万能じゃないの」
そうだよな、万能じゃないんだ
当たり前のように使って結果を出してきたから勘違いしてしまっている
魔導士なのに魔法を過大解釈したら駄目だな
「サクラさんは気に病まないでくれ
俺の自己満足に付き合わされてるだけなんだから」
「ええ、ありがとう」
食べ終わって席を立つ
姉が来てテーブルの上を片付け始める
「仕事いつぐらいに終わるの?」
「え? あと1時間ぐらいで終わりですけど」
「じゃ外で待ってるから」
俺はそう言って会計を済ませて店を出る
1時間後、姉がキョロキョロしながら店から出てくる
「こっちだ」
姉が困惑しながら俺たちのところへ来る
「あの、なんでしょうか」
「そう警戒するな」
まあ警戒するよな、二度しか会ってないし
「キミんちまで連れてってくれ」
「え?」
不審者を見るような目で見ながら数歩後退する姉
「駄目でしょケンタくん、色々飛ばし過ぎよ」
「そんな、俺は単刀直入に言っただけなのに」
「それが駄目なんだけど」
「あの、以前は助かったので感謝はしています
でもいきなり家に連れていけと言われても困ります
やっぱりなにか目的があるんですか?」
また数歩後退する姉、逃げる気満々だ
「ごめんなさい、このお兄さん悪い人じゃないわ
ちょっとおバカさんなだけだから疑わないであげて」
わたしバカよねー、おバカさんよねー、、、
パンティさんはしゃがんで姉と話をする
「わたしはサクラ、このお兄さんはケンタ
よければあなたのお名前を教えてくれる?」
優しく微笑むパンティさん、姉は少し警戒を解いた
やはり怪しいおっさんより優しいお姉さんの方が強い
「わたしはベッキーです」
「ケンタくんがね、今日も食べ物を渡したいらしいの
でも前回より多いし、あなた一人では運べそうにないの
だから家まで運びたいってことで連れていって欲しいわけ」
「そうなんですね、でも多くもらっても保存ができません」
「大丈夫よ、そのためにわたしがいるのだから♪」
キョトンとするベッキーと俺
「ケンタくんまでキョトンとしないでね」
「だって保存手段なんてどうするんだよ」
「それはあとのお楽しみよ♪
それでお家に行ってもいいかしら?」
ベッキーは少し考えて
「はい、いいです」
少し不安そうだがパンティさんを信用したのだろう
ベッキーの家に着いた
小さいが普通の二階建ての家だ
「ただいま」
「おかえり姉ちゃん」
「おかえりー」
「おかえりベッキー」
ベッキーに続いて俺とパンティさんも入る
「こんにちは、おじゃまします」
「いきなりの訪問、失礼いたします」
「「おじさん!?」」
弟くんたちが驚く
「あのどちら様ですか?」
ベッドで身体を起こしている女性がいる、母親だろう
「初めまして、俺はケンタと言います」
「初めまして、わたしはサクラと言います」
「お母さん、このおじさんが食べ物をくれた人だよ」
ベッキーが母親に説明してくれた
「そうですか、その節はありがとうございました
このような状態ですみません」
「いえ、お構いなく、無理はしないで下さい」
「ありがとうございます、私はポリーと言います
それで本日はどのようなご用件で?」
「また食べ物を持ってきました」
「この前より多いみたいで直接来てくれたの」
「そうなんですね、ありがとうございます
ですがたくさんいただいても保存ができません」
「大丈夫ですよ、わたしが用意しますから♪」
「どうするのですか?」
パンティさんが台所の空いてる場所を探す
そこへ白い大きな箱を出す
「え、なんですかそれは?」
「お姉さん、その箱は?」
「すげー」
「でけー」
驚く一家、俺も驚いた
これ冷蔵庫だわ
「氷の魔石で稼働する冷蔵庫です♪
これに食べ物を入れておくと通常よりは長持ちしますよ」
「そんな便利なものがあるのですね」
「あの、これ高いんじゃないですか?
わたしたちお支払いできませんよ」
ああ、買えって言われてると思ってるな
「わたしからの贈り物よ♪」
「で、でも」
「ベッキーちゃん、疑う気持ちは大事よ、信じてとは言わないわ
だからこれはわたしがここに捨てていった物なの
拾って使うのはベッキーちゃんの自由だからね♪」
なんという強引理論
「色々おかしいですよ!?」
ベッキーは混乱している
「おかしくっても捨てたからあとは知~らない♪」
「おじさん、このお姉さん大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ、と思う」
さすがのベッキーも怪しいおじさんにすら助けを求める
冷蔵庫を設置して食べ物をこれでもかと詰めていく
これで無駄食いしなければ1ヶ月は凌げるだろう
それからパンティさんが台所で料理する
引きこもりだが自分で料理をしていたらしい
コミュ障だからデリバリーとか使わないんだそうだ
「お姉ちゃん、すげーな」
「僕おなかすいてきたー」
弟くんたちは料理するパンティさんにべったりだ
ベッキーは料理を手伝っている
俺は椅子に座ってボケっとしている
あれ? 俺いらない子じゃね?
でもなんかいいなこういう雰囲気
奥さんが料理してるのを眺める俺
まわりに子供たちが楽しそうにしている
こういうのが俺の家族の理想図なんだよ
俺は家族というものに飢えていた、今もだけど
そのせいかそれに似た仲間というものを大事にする
あっちの世界で色々あったからな
この世界で理想の家族ができたらいいなと思う
俺が俺である限り無理かもだけど
「あの、ケンタさん?」
「え、はい、なんですか?」
物思いにふけていたらポリーさんに話しかけられた
「どうして私たちに恵んで下さるのですか?
貧乏だから同情して憐れんでいるからですか?
失礼を申し上げますがそんな目で見ないで下さい
私たちは物乞いではありません」
ベッキーと同じようなことを言うね、さすが親子
「そうですね、でも物乞いとか思ってませんよ
同情? 憐み? それでもいいんじゃないですか?
助かるのに理由なんていらないでしょ
助けるのも理由なんてなんだっていいじゃないですか」
「そうかもしれませんけど、なぜなのかは知りたいです
なにか目的があるのでは?」
ちゃんと疑えるんですね
病気で弱っててもしっかりしている
やっぱり親子だわ
「目的ね、ありますよ」
「やっぱり、、、」
キッと軽く睨んでくる
子供たちを守ろうとする母親の目だ
「俺の自己満足を満たすため、それが目的です♪」
「は? なんですかそれは? ただの偽善ということですか?」
少し呆れ気味に驚くポリーさん
「そうですよ、俺、偽善者ですから♪」
「・・・・・・・」
複雑そうな顔をするポリーさん
「偽善者が偽善をするのは当たり前、常識ですよ♪」
「ぷっ、自分で偽善者って言う人、初めて見ました」
ポリーさんが軽く笑う
「わかりました、その偽善ありがたくいただきますね」
「ありがとうございます♪」
「いえ、こちらこそ助けていただきありがとうございます
お礼はなにもできませんがお許し下さい」
軽く会釈するように一礼するポリーさん
「はーい、できましたよー♪
ケンタくん、運ぶの手伝ってね」
「おう」
テーブルに料理を並べていき夕食タイムだ
俺とパンティさんも一緒に食べる




