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愚者の楽園に転移したけどまったく問題ない  作者: 長城万里
3 ただいま

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103 姉弟

本日はお休みなので各自で自由に過ごす

俺はカブを走らせ街の北側へ向かう


教会そばの広場でバザーをやっている

掘り出し物がないかたまに見に来ていた


「今日はいいものあるかな~♪」


別に見つからなくてもいいのだ

色々見て回るのが楽しいのだ


結果、特にめぼしいものは見つからなかった

次回に期待だ


屋台で買った料理をベンチに座って食べる

ランチタイムだぜ♪


「あれ以来見かけないけどあの子ら元気かな」


俺は来るたびここで昼食をしている

あの子らというのは最初に来たときに出会った姉弟のことだ


俺が食べているとじーっと見ていた孤児のような子たち

孤児ではなかったのだが苦労はしてそうだった

服も靴もくたくたでお腹も空かせていたからな


何度か来ているがあれ以来一度も出会わない

まあ出会えたからってなにかできるわけでもないけど

だけど俺は縁というものを気にする質だ

元気でいるだろうかとついつい心配してしまう


「さて、教会で買い物して帰るか」


食べ終わって教会へ行く

回復薬を少し補充しておこう


一口に回復薬と言っているが種類がある

体力回復、魔力回復、解毒薬、状態異常回復(麻痺、眠りなど)

治癒薬(怪我、打撲など)のように色々ある

それぞれランクもあって値段も効果もピンキリだ


ちなみにこれらの回復薬では病気は治せない

回復薬は自然回復力の速さと回復量を底上げするだけである

だから病原体などを消す効果はないのだ


だが病気を治せる回復薬が一種類だけある、万能薬だ

しかし希少でお値段が悪魔的なので簡単には入手できない


運が良ければ俺のようにサイショノ村で手に入る

サイショノ村にそんな希少なものがなぜあるのか?

FPO七不思議の一つである


病気を治せる魔法はある

だけど使えるのは超級ランクの賢者と聖女だけだ


だから病気は普通に医者に任すしかないのである

しかし医者は誰もが利用できるとは限らない

治す病気によって料金がこれまたピンキリだ


そのため貧乏人は重い病気は治せず死んでいく

世知辛い世の中だ


「必要なだけ買ったし帰るか」


教会から出て隣の治療院の前を通り過ぎようとしたとき


「あ、おじさんだ、こんにちはー♪」


治療院から出てきた少年に声をかけられた

あの姉弟の大きい方の弟くんだ

俺のことを覚えていたようだ


「よお久しぶり、元気そうだな」


服と靴は相変わらずだが元気はあるようで安心した

でも治療院から出てきたってことは何か病気でもしたのか?


「どこか具合でも悪いのか?」

「僕? 違うよ、母ちゃんの薬を買いに来たんだよ」


「お母さん病気なのか?」

「うん」


大事そうに薬の入った小さい袋を抱えている

少なそうだからそんなに重症ではないのかな?


「早く良くなるといいな」

「うん、ありがとう」


少年は去って行った

姉と小さい方の弟くんは家なのだろう


やはり縁があるんだろうな、こうして再会できるんだから


俺は一人っ子だったけど兄弟姉妹には憧れがあった

というより家族というものに飢えていた

だから仲の良さそうなあの姉弟が気になるのだろう

母親の病気が早く治ることを祈っておくよ

そういや父親は何してるんだろう?

まあ俺が考えることではないか


「そんじゃ帰るか」


カブに跨り宿屋まで帰る



宿屋へ戻るとベンケイさん以外帰っていた

休みなのに狩りに行くのはどうなのよ

まあそれも自由か


夕刻、ベンケイさんも戻ってきたので夕食にする

明日の活動も決めて就寝






「ただいまー」

「おかえりなさい、薬は買えた?」

「うん、はいこれ」

「ありがとうねトム」


上の弟、トムに薬を買ってきてもらいました


トムは8歳ですがそれなりにしっかりしています

長男ですから頑張ってくれています

本当はもっと遊ばせてあげたい、ごめんね


「お母さん、薬飲んで」

「いつもありがとうベッキー」


お母さんに薬を飲ませます


わたしは10歳です、まだまだ子供です

でも家のためにしっかりしないといけません

子供でも働かせてくれるところを探しています

ですがなかなか見つかりません


「姉ちゃん、おなかすいたよう」


下の弟、ハックは6歳です、よく食べます

だけどうちは薬代にほとんど消えるので食事は少量です

もっとたくさん食べさせてあげたい、ごめんね


夕食の準備を始めます

すぐに終わります、少量ですから


「今日もこれだけ?」

「文句言ったらダメだよハック」

「うん、ごめん兄ちゃん、姉ちゃん」


トムがハックをたしなめます

ハックは素直に謝ります

わたしもごめんね


食事をしながらおしゃべりします

世間では行儀が悪いとか言われますがいいじゃない

みんなで笑い合えるだけ幸せです


「姉ちゃん、今日おじさんに会ったよ」

「おじさん?」

「あのときの泣きじゃくるぞおじさん」

「ああ、あのおじさん」


その呼び方はわかりやすいけど外で言っちゃダメよ?


「その人って以前日持ちする食べ物を下さった方よね」

「うん、変な人だけど優しそうなおじさん」


物をもらったことはちゃんとお母さんにも報告しています


「ありがたかったけど大丈夫なのかしら」

「どうして?」

「親切にしておいて騙したりとか」


「うん、わたしも少し思ったよ

 でもあの人はそんなことしないと思う」


「ベッキーが言うならそうなのかしらね」


お母さんはわたしの見る目を信じてくれています

わたしは基本的に他人を疑います、生意気な子です

だってお父さんもお母さんもお人好しだから

わたしがしっかりしないとって思うから


お父さん、お母さん、トム、ハックはわたしの大事な家族です

だからわたしは頑張ります


そういやあのおじさん、何してる人なんだろう?

もし会えたら聞いてみよう



夕食の片付けをしていたら


「ただいま!」


「お父さん!?」「「父ちゃん!」」


「おかえりなさいシッド」


お父さんが帰って来ました、3日ぶりです

お父さんは冒険者でしょっちゅう依頼で家にいません

今回の依頼が終わって帰ってきたようです


「具合はどうだいポリー」

「薬のおかげで苦しくはないわ」


冒険者のお仕事で稼いだお金はほとんど薬代で消えます

わたしたちの服や食事などは節約してやりくりしています


「すまないなベッキー、俺がもっと稼げればいいんだが」

「ううん、無事に帰ってくれるだけでいいわ」


冒険者は死と隣り合わせだと知っています

だから生きて帰って来てくれるだけで嬉しいです

家族の誰も欠けてほしくない


高い報酬のために死んでは意味がありません

安い報酬でも生き延びることが大事です


今日は家族全員そろって眠ります

仕事、見つかるといいな、、、






翌日、俺たちは冒険者ギルドで依頼を物色する

と言っても俺とアオイくんはもう決まっていた


「ケンタ殿、全員揃ったのであの山へ行きましょう」

「アオイくん、あの山とはあの山のことかい」

「そう、あの山でござる!」


ようやくあの山へ行けることに俺とアオイくんは興奮する


「おまえら何言ってんの?」

「全員揃うまで行かないようにしてた場所ですよお姉ちゃん」


アンナが呆れながら説明する


「アメディオ亭だけじゃなかったのね」

「こだわり過ぎだろおまえら」


ベンケイさんとパンティさんにも呆れられた


「いいじゃん、こだわったって!」

「そうでござる!」


あの山とはニクジャガ山のことである

FPO最後の日にみんなで狩りに行った場所だ

あれがゲーム最後の狩りだった

この世界であの山に行くならみんなで行きたいんだよ!


「とにかく今日の討伐はニクジャガ山に決定!」

「別に反対とかしないから落ち着け」


こうして俺たちはニクジャガ山へ向かうのであった






おまけ > お休みは休むためにあるのよ?


仲間に復帰したけど最初がお休みになってしまった

ゲームのときと同じくゆるいわねケンタくん

そこも良いとこなんだけど


宿屋を出てそれぞれ行きたいところへ動き出す


わたしは宿屋を右へまっすぐ歩く

曲がり角を左に曲がりまっすぐ歩く

また曲がり角を左に行き、さらに左へ曲がる


最後にもう一度左に曲がるとあら不思議、宿屋の前に到着したわ


「御主人様、薄々気付いていましたが、、、」

「うふふ♪」


「サクラ様、もっとちゃんとお出掛けしましょうよ」

「散歩も立派なお出掛けよ♪」


「姐さん、せめてもう少し長く散歩しようぜ」

「イヤよ、疲れるじゃないの」


「主様、広場とかで遊ぼうよ~」

「ごめんねホワイト、お部屋で遊ぼうね♪」


四神(あなた)たちの言いたいことはわかるわよ?

でもお休みなら部屋でゴロゴロしたいのよ、だって人間だもの


ということで、わたしは部屋に戻ってゴロゴロ引きこもる

諦めた四神たちとお昼寝タイム(まだ午前中だけど)を満喫♪


ああ、素晴らしきかな引きこもりライフ♡

第43話からちょうど60話ぶりの再登場の姉弟です

第三章はこの姉弟をメインに他色々エピソードが語られます

次回、みんなであちこち行くにゃー♪

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