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愚者の楽園に転移したけどまったく問題ない  作者: 長城万里
1 愚者の楽園

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10 現実

みんなは村へ向かった

アシュラ・バスター改と俺の一騎打ちだ


みんなは俺だけで討伐できると言っていた

俺は一人じゃ無理だと言った


じつは一人で討伐できるが色々と条件がある

やれないことはないが非常に大変だったりする

だからパーティーで戦った方が楽なのだ


例えばこのアシュラ

単発とは言え遠距離攻撃をしてくる

そして全体攻撃


それらを躱しつつ色々と下準備をしないといけない

下準備が完了したら一撃で葬ることができるのだ

ようは下準備がとても大事で大変なんだよ


パーティーメンバーが手伝ってくれたら軽減できる

でもガバスさんたちをこれ以上危険に晒したくない


腕と頭が無いから少しは下準備をやりやすい

だから一人でやることにした


「じゃ行くぜ、アシュラ改」


銀の短剣を持って後ろに回り込む

アシュラ改の右足の太腿に突き刺す

痛みを感じていないようでまだ歩いている


銀の短剣は突き刺したままで左足の太腿にも突き刺す

そして俺は距離を取る


「こいつで倒れろ<決壊死(けっかいし)>!」


俺の合図に銀の短剣が呼応して光り、弾ける

同時に刺さっていた太腿が霧のように消える

両の太腿を失くして膝下の部分が転がる

支えを失くした胴体は地面に倒れる


これは俺の固有スキル・決壊死(けっかいし)

発動条件は銀の短剣を消したい場所に突き刺して合図する

効果は刺した部分(パーツ)を霧のように消し去ることができる


いちいち刺しまくらないといけないから大変なんだよ

動きの速い相手だと刺すことが難しかったりする

しかも部分(パーツ)ごとだから全部消すには何十本も刺さないといけない

どうだ、めんどくさいスキルだろう


ドンッ! ドゴンッ!


膝下の部分が爆発したようだ

だから距離取ったんだよ


胴体だけになったけどどうだろう


あ、モゾモゾ動いている

やっぱり胴体だけでも動くようだ

キモいぞアシュラ改


俺は胴体のあちこちに銀の短剣を刺しまくる

そして少し離れて合図する


「あばよアシュラ改、、、 決壊死(けっかいし)!」


アシュラ改の身体が霧になり徐々に消えていく


そしてすべて消えた


「って何だアレ」


身体が消えた跡にボーリングの玉のような黒い球体が残っていた

まさかアレもアシュラ改の一部なのか?


ヤバい気配がする

俺は銀の短剣を突き刺すために走る


だが黒い球体が宙に浮かんだ


「しまった、、、」


爆発しやがった


俺は咄嗟に地面に銀の短剣を突き刺す


決壊死(けっかいし)!」


刺したところから半径5メートルほどの地面が消滅する

その穴に転がり込むが爆発に少しだけ巻き込まれた


くそっ、いてぇ、、、 ダメージがでかい、、、


爆風が消えて俺は穴の中でぐったりしていた


収納庫から回復薬を取り出す

手から零れ落ちる

手に力が入っていない

ああ、折れてるなコレ


意識が朦朧としてきた

不安、痛み、苦しみ、脱力、様々な感情が渦巻く


FPOの世界に来れて、FPOの世界で生きれることに歓喜した


チュートリアルとかクエストとかやってきた

全部ゲームの延長線上の感覚でやってきたな

リアルを実感したとか思ったりもしたな


リアル?


馬鹿だな俺は、リアルなんて言っているんじゃねーよ

リアルなんて言葉を使ってる時点でまだゲームだと思っていたんだ


この世界はゲームじゃない <現実> なんだよ!


紛うことなき現実世界なんだよ

何がリアルだ、何が実感しただ、大馬鹿野郎


この痛みと苦しみと死の恐怖こそが本物だ

これが本当の現実(リアル)だろうが


くそ、もっとちゃんと現実を見ていれば

この世界をしっかりと認識していれば

俺は、、、 ダメだ、意識が、、、、、








・・・・・・・・・・? 何か口の中に入ってくる


ゴクン


何か飲んだ? 飲まされた?


「う・・・・・」


目が開く


「ケンタ、気が付いたか!」

「レフティ、もっと回復魔法を掛けろ」

「やってるから黙っててミッド!」


この心地良さは回復魔法か、、、


「わかりますかケンタさん」

「チケットさん、、、」


ああ、どうやら助かったらしい


「みんなが助けてくれたのか?」

「ああ、でかい爆発が見えたから心配で引き返した」

「ありがとう、ガバスさん、みんな」


どうやら助け出されて村役場の仮眠室に寝かされているらしい


さっきの飲んだのは回復薬だった

レフティとチケットさんが回復魔法を掛けてくれている


「やっぱり私も残ればよかったな」

「いやそれだとガバスさんも爆発に巻き込まれてましたよ」

「そうかも知れんが盾で少しはマシだったかも知れんぞ」


言われてみればそうだな

そういうところもゲーム感覚だったんだな

ゲームでは基本ソロプレイが多かったから

誰かに頼るなんてことはほとんどなかった

せいぜい四人で組んだときぐらいだ


ようやく動けるようになったので俺は宿屋に戻った




翌日、今回の依頼の報酬を貰うため村長宅へ来ている

魔物は完全消滅しているので素材はナシ

一人10万円の報酬を受け取る


「ケンタよ、お主が一番の功労者じゃからコレを渡そう」


村長から一本の剣を渡される

なんか見覚えがある剣だな


「この剣は?」

天誅剣(てんちゅうけん)じゃ」


思い出した、アレだわ

この剣で斬られたら悪人は更生するんだよ

それ以外は斬れないというめんどくさい剣


使う場面が限られるけどレア物なのでありがたくいただく

そうだな、悪い貴族を成敗するときにでも使おう




宿屋の親父さんに挨拶をする


「お世話になりました」

「またこの村に来たら泊ってくれよ」

「はい」


この村でやることは終わった

自分のこの世界での生き方も決まった


この世界はFPOだがゲームじゃない、現実だ

FPOの知識を重点に置かないことにした

参考程度にして現実を見て生きていく


そして今日、この村から出て次の村や街へ旅立つ


次の村まで行く乗り合い馬車のところへ向かう

俺は他に移動手段を持っているが馬車で行く

村長が気を利かせて料金を出してくれたからだ


「ケンタさん、ここでお別れですね」

「わたしたちは反対方向ですから残念です」

「冒険者やってたらまた会えるよね♪」


三人組とは行き先が反対なのでお別れだ

ライツの言う通りどこかで会うこともあるだろう


「お前たちも元気でな」


ガバスさんとチケットさんは自警団の仕事で忙しそうだ

だから昨日のうちに挨拶しておいた


「ちゃんと風呂入って身形をきちんとしろよ」

「わかってるよ、臭いと言われたくないからな」

「またサイショノ村にも寄って下さいね」

「いつかまたこの村に立ち寄りますよ」


乗り合い馬車に乗り込む


御者が馬を走らせる


サイショノ村が遠ざかる


チュートリアルは終わった


ここからが本当の冒険の始まりだ


現実のFPO世界を楽しもう


次の村はツギノ村だ!

ケンタはゲーム脳でゲーム感覚が抜けていません

表面的には現実世界だとわかっていても

ゲームの延長線上の感覚で動いていました

死が近付いて初めて現実だと脳も理解したのです


この話のためにケンタにはこれまで「リアル」と言わせていました

「リアル」と「現実」を使い分けたつもりです

上手く伝わったかどうかはわかりませんけど


ただ今後もケンタは「リアル」と言うことがあります

ゲーム脳が一朝一夕で抜けるわけがありませんから

それでも「現実」であることを理解しているので少しはマシでしょう

それにもっと「現実」を意識することがいずれ起こりますから


黒い球体 → アシュラの心臓です


ネーミングネタ

天誅剣 → ジャッキー・チェンの「カンニング・モンキー/天中拳」

決壊死 → 漫画「結界師」


さて、いよいよ次回からゴニョゴニョ(ネタバレになるから言えない)

次回、次の村のツギノ村だ!

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