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(三)
俺の持ち主である三川美幸は、そのぬいぐるみを自分の娘に買い与えた。それは娘が歩き回ることができるようになってしばらくしてからのときだった。買い物に行ったイオンのショッピングセンターで娘の幸恵がひと目みて気に入ったのだった。
「ほら、早く行くよ」「買わないよ」
そう言って娘を抱き上げて連れて行こうとする彼女であったが、娘はダダをこねた。その場に座り込み、ギャン泣きし始めたのだ。
ショッピングセンターは子連れ客に優しい作りではあったが、だからといってそこを訪れる客全員が、ギャン泣きする子どもに対し優しいわけではなかった。彼女は周囲の者たちから、冷たい視線の集中砲火を受けた。
彼女はそんな娘の意固地と周囲の無言の圧力に負けて、そのぬいぐるみを買い与えた。
(続く)