3-4-3 VSストーンゴーレム(見るしか出来ない!) ①
本日2話目の投稿です。
「……呼んじゃったかな」
「これだけ守人を斬ればな。やれやれ、こんなことならわざわざ外で遊ばずとも、出る前に片付ければよかったか」
「まあ、どうせ出てくるなら狭い分、魔法を使うなら中で一気に始末する方が早かったよねえ」
囁き声を交わすヴィントとルーファスネイトに応えるように、ズシン、ズシン、と重い音を立てて、なにかが近づいてくる。
ピルピルさんの表情が険しい。そっと返された竪琴を俺が収納すると、ピルピルさんが自分の鞄から銀の笛を出した。
俺かマリーベルか。
どっちかわかんないけど、喉が鳴る。
涼やかな音を立てて、ルーファスネイトがまた長剣を抜いた。
ヴィントは俺たちのそばに来て、夜でもないのに蜂蜜色の目を金色にしてじっと迷宮の入り口から視線を離さない。
俺たちは声も出せない。ただマリーベルも俺も、落ち着かなくて正面と背後を忙しく気にするだけだ。
気がついたら周囲の木がすべてトレントになっていて、不気味に蠢いていた。
「おー、こりゃでかいのが来るな。ヴィント、リチャードの入ったノームにあいつらを突っ込めるか?」
「解除してからじゃ間に合わないね。それに、大きくなるとあれは薄くなるよ」
「じゃあ、しょうがないなー」
ふっと息をついたピルピルさんがのんびり肩をすくめたところで、とうとうそれが迷宮の黒い入り口から姿を見せた。
まず、巨大な手が出て、続けてぬうっと太い石の腕が伸びてくる。迷宮の入り口だって巨人族の男が楽に通れる高さがあるのに、それでも身を屈めなければ出てこれないような巨体だ。
「……ッ!」
怯えて息を呑んだマリーベルに、ぎゅっと捕まれた腕が痛い。
それはモアイを思い出すような、巨大な頭部だった。斜めになって出てきた大きな顔の眼の部分がぽっかりと黒く、中心に殺意を示す不気味な赤い光が浮かんでる。
首らしい首はなくて、どっしりとした一つの大きな岩そのものの胴体、短いけど太くて足の裏も巨大で、転ばせようもなさそうな足……。
深き森の迷宮の中にいるはずの、最初に出会う守護者、ストーンゴーレムだ。魔力はないけど、石でできたその身は体力と腕力、守備力が極めて高い。
一歩進めばズシンと地響きであたりを揺らし、二歩進んだ先で太い根をめきめきと踏み潰して、その木に擬態していた大きなトレントが怒りの形相で不気味な咆哮を上げた口から引き裂かれた。
生木の匂いが鼻について、一瞬吐きそうになった口を押さえる。
こ、こんな大きかったっけ、こいつ……!?
「ど、どうして…?」
マリーベルが喘ぐように呟くけど、俺も聞きたいよ!
「どうしてあのストーンゴーレム、あたしたちをまっすぐ見てるの……!?」
なによりも恐ろしいのはこれだ。
ピルピルさんの隠蔽も、俺の猫歩きも発動したままなのに、ストーンゴーレムの黒い深淵のような目はほかの誰でもなく、ただ俺たちに向けられている。
怖い……! 今俺、トイレ行きたくなくてよかった!!
「それはな、お嬢ちゃん。あいつに隠蔽が効かないからさ。ついでに呪歌も効かない。魔法もな。そういう魔道具なんだ。このへんは不死もそうだが、石だから痛覚がない。心がないから躊躇いもない。ただひたすらパーティの一番弱いヤツを狙う。そりゃおまえたちが標的になるだろー?」
笑ってそう言いながら、ピルピルさんが俺たちを庇うように無造作に歩いて前に出た。
「ボクはあいつを仕留めるまで隠蔽も掛けてやれない。だからおまえたちはとにかくヴィントのそばを離れるな」
「わ、わかった」
俺はなんとか返事したけど、マリーベルは震えながらがくがくと頷くだけだ。
無駄かも知れないけど、改めて猫歩きと隠蔽を発動する。
いよいよ全身が現れたところで太陽が雲に隠れて、まるであのストーンゴーレムの陰に自分が入ったような錯覚がした。
なんか、目の前に突然家が出てきたってでかさだな!?
「変異種か。ゴーレムでは久しぶりだな。ヴィント、二人を守ることに徹しろ」
「了解」
「親父殿、偵察と引き寄せを頼む」
「ほいほいっと」
ルーファスネイトの指示で散開、俺たちはヴィントに「おいで」って呼ばれて必死に駆け寄った。
「ピルピルさんも言ってたけど、怖くても僕から離れないようにね」
ああ、くっそ、やっぱり頼りになるな!
笑顔のヴィントに二人でこくこく頷いて、俺たちは俺たちで全力で警戒だよ!
リチャードさんとやらの方をちらっと振り返ったけど、残念。土精の加護の中で少し見えにくいし、うつ伏せでマントっぽいのにくるまってるから、ますます見えない。でもかなり体格がよさそうなことだけはわかった。
じっと目を凝らしていたら、ギンッ!! って俺の腕まで痺れそうな重たい金属音がして、慌てて振り返る。
ルーファスネイトの長剣が、自分の頭を掴みに来たストーンゴーレムの巨大な手を弾いた音だった。
「うん、固いな」
石なんだから当たり前だよね!?
軽く右手をぶらぶらする背中に思わず突っ込みそうになったところで、ふ、と息を吸って止めたルーファスネイトが剣を引き、唸りを上げて襲ってきた巨大な石の左拳を剣の柄頭で受け止める。
石をぶつけ合ったような音がして土と闇のマナが散り、ざざっと足が滑ったけど、すごい! あの石の巨体に力負けしてない!!
ああでも、あいつの右腕が空いてる!!
「きゃ…!」
ルーファスネイトの頭上に振り上げられた恐ろしい巨腕にマリーベルが悲鳴を殺して口を閉じるのと、鋭い警笛のような音が響くのは同時だった。
背中がざわざわするような、落ち着かない短い音の繰り返し。ピルピルさんの銀の笛の音だ。
瞬間、ゴーレムだけじゃなくて俺たち全員、そしてざわざわと蠢いていたトレントたちの視線まで、ピルピルさんに持って行かれる。
ルーファスネイトだけが気を取られずにぐっと膝を沈め、黒衣の全身をぶわっと闇のマナで包み込むように纏った。
「んッ!」
気合い一閃! 下から一直線に鋼の刃が関節を両断し、ズンと重い音を立ててストーンゴーレムの右腕が落ちる。
それで正気に戻ったのか、またあの赤い目がこっちを見た! 怖いからこっち見るな!!
しかも、これでだいぶバランスが悪くなったはずなのに、動きに支障がないのが気持ち悪い!!
迷わずこっちに足を踏み出したストーンゴーレムの前に回り込んで、ルーファスネイトが肩を竦めた。




