1-2-3 到着、冒険者ギルド ②
本日9話目の投稿です。
「そ、それは…っ、ちょっと、だいぶ、む、難しいかな!?」
「月光に入れるんだったら俺だって入りてぇっての!!」
「アタシも入りたいわぁ!」
息も絶え絶えのマイヤさんに続いて、若い冒険者の男と茶色の立ち耳と短い尻尾の犬型の獣人族の女の人にも大笑いのまま言われた。
武器や防具、経験値と違って仲間キャラだった人たちなら大丈夫かなって思ったんだよ! あのとき歌より強力な縁を選んでたらいけたかも知れないけど、それより音痴のままの方がいやだからもういい! 諦めた!!
穴があったら入りたいし、なけりゃ掘りたい気分だったけど、ここで逃げ出すわけにもいかないから、俺はとぼとぼとカウンターに向かう。
「まあ、月光旅団のお兄さんたちはかっこいいものね。憧れて会いに来る子は多いのよ。たまに立ち寄ってくれるから、会えたらいいね。元気出して!」
「はい…」
憧れより、わが身可愛さであの戦闘力を利用しようとした俺が悪いんです……。
マイヤさんはしゅんとした俺の頭をぽんぽんと撫でて、キラキラして見える猫目でのぞき込んで言ってくれた。
「じゃあ改めて! 依頼かな? 今なら手の空いてる人たちが多いわよ」
マイヤさんの一言に、たむろってた冒険者たちが興味津々にこっちを見る!
暇なのかな!? 俺のことは気にせず放っといて欲しい! 見られたら緊張するから!!
「違います。その…ぼ、冒険者登録をお願いしたくて」
「本気!? 君、歳は?」
「はい。十五歳になりました。ばあちゃんが亡くなって一人になったので、まず職に就かないといけなくて……。十五歳以上なら冒険者登録できるし」
ぴこぴこしてた茶トラの耳がぺたり、尻尾がへにゃあ…として、マイヤさんの表情が曇る。
「あー…それで月光旅団かぁ……。うーん、確かにあの二人なら、冒険者になって記念すべき初戦って聞いたらいっしょに行ってくれたかもですねえ」
「はは…いえ、さすがに甘かったとわかってますから」
「あのね、冒険者って憧れる子がいーっぱいいるけど、実際にはすごく危ないお仕事なのよ。手っ取り早い身分証として使うならいいと思う。でもランクに応じたポイントを毎月稼がないと、資格を失効しちゃうのね。もし君が読み書きと計算ができるなら、どこかのお店のお手伝いって手もありますよ? 君は未成年でしょう? この町の領主様は優しい方だし、急に独り立ちしなくちゃって状況になった子には補助もあるから、考え直したらどうかな?」
照れ隠しに頬を掻いて笑ったら、マイヤさんも笑って真摯な様子で言ってくれた。
一人ぼっちになった子どもを心から心配してくれてるのが伝わって、その気持ちがうれしい。
「ありがとうございます。でも俺、ずっと森の奥で暮らしてたから、外の世界を自分で歩いてみたくて。ばあちゃんに薬草についてはしっかり仕込んでもらったから、まずは採取の依頼をさせてもらえたらいいなって思ってます」
「採取ね。あれは魔物退治といっしょに受ける人がいるけど、うん。いくらでも依頼が出るから大丈夫よ。あ、もしかしたら君、ポーションを作れたりする?」
「はい。ポーションとエリクシールの簡単なものなら」
ポーションはケガとか体力回復用、エリクシールは魔力というかMPの回復薬だ。
「うんうん! じゃあ、作れたら持ってきてね。うちでも買い取れるから! 道具屋さんに売るのにも、うちで品質保証書をつけられるほどのものなら、どこでも買い取ってくれるからね!!」
全力で心配してくれるマイヤさんがカウンター越しに俺の手をぎゅっと握ってそう言ってくれて、俺は思わず赤くなってしまった。
いい歳のおっさんがと自分でも思うけど、近い近い! こんな若い女の子と至近距離でこんな、しかも営業じゃなく心配してもらえるとかびっくりだよ!!
あーでも、そうか。ゲームではざっくりとポーション、ハイポーション、エーデルポーションってくくりだったけど、現実だと薬の出来具合で値段とか効果が変わるみたいだな。
うん、こっちもがんばろう。
「こらマイヤ、いちいち肩入れしすぎるなといつも言ってるだろう!」
「あいた! わ、わかってますよう…!」
そこに低くてざらついた渋い声と同時にのっしのっしと現れてマイヤさんの頭にでかいゲンコツをこつんとしたのは、巨人族のギルドマスター、サイモンさんだ。
うおお、近くで見たらでかい! 見上げたら首が痛いぐらいだ。
三つ編みにして背中に垂らした白髪交じりのモヒカン、彫が深くてあちこちに白く傷跡が残る厳めしい顔、筋骨隆々な巨人族でも大柄な方に入るだろう身体は軽く身長二メートル越え、体重はざっと俺の三倍ありそう!!
ゲームの通り片足が義足だけど、丸太みたいに太くて筋肉が盛り上がった腕やはち切れそうな胸筋を見ると、壮年になった今でもめちゃくちゃ強そうだ。
「おう、坊主。悪いこた言わねえから、冒険者はやめとけ。見たとこ装備もねえし、仲間もいねえだろう?」
「あの、採取で森に行くときだけ、誰かと組むとかは……あ、もちろん月光旅団の人たちとかじゃなくて」
ジロリと錆色の目で見降ろされて、俺はおどおどと提案してみた。
「できないこたねえけど、薬草採取でいちいち組んでたら、それこそ今日の食い扶持を稼ぐのも苦労するぜ?」
太い片眉を上げたサイモンさんにカウンター越しにぐいっとのぞき込んで言われたけど、それでも俺はやってみたい!
「はい。でもやってみたいんです。俺、ばあちゃんとずっと森で暮らしてて、どこにも行ったことがなくて。冒険者になったら、町の外にも出られるでしょう?」
大体、せめて冒険者登録ぐらいしておかないとどこへ行くにも苦労する。せっかくなんだから、俺はこの世界を旅してみたいんだ!
だから正直に答えたら、サイモンさんは厳めしい顔にちょっと呆れたような、でもしょうがない坊主だなって感じの表情を浮かべて言ってくれた。
「そうか。まあ本人がやりたいなら止めねえが、そうだな……。ポーションが作れるなら採算も取れるだろう。やばそうならすぐ仕事を探せよ。マイヤが言うように、独り立ちまでの手伝いぐらいはしてやる」
「ありがとうございます!」
「ふん、まずは死なねえようにがんばるんだな」
分厚くて大きな手でぐしゃぐしゃっと撫でてくれたら、首がもげるんじゃないかってぐらい頭が揺れた!
すごい、絶対この人の片手で俺の頭は潰される!