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1-1  森の小さな家 ②

本日4話目の投稿です。

 入手ジョブは「森の子(フォレストゲイン)」「薬師見習い(メディクアプティス)」と「吟遊詩人(バルドラー)」ね。つまりほぼ一般人だけど、「吟遊詩人(バルドラー)」が最初にもらえたのは音痴じゃないのが約束されたみたいでうれしい。

 装備できるものは杖と短剣と弓、楽器も大丈夫そうだ。

 そもそも前も取らなかった剣、斧、槍は無理というか、そこ自体が空白になってる。一周目で戦士系のジョブに就いてなかったからかも知れない。

 取っておけばよかったと後悔したけど、ないものはしょうがない。

 値切ったり情報を聞き出しやすくなる「交渉」とか魔物に会敵しにくい「猫歩き」と「隠蔽(ハイド)」なんかはそのまま使えそうだから、そっちでがんばろう。

 ……割とコミュ症だったのに、本当に生身で「交渉」スキルが使えるのかわかんないけど。

 持ち物欄は…よかった! ちゃんと「アイテムボックス」になってる!!

 どんな仕事を選んで暮らすにしろ、これがあるのとないのとじゃ大違いだから、有り難い。

 大事なもの欄に「ソロモン・コア」だけ。一回エンディングを見たら手に入る証だな。俺専用装備で、「盗む」「強奪」完全無効。万が一手放しても必ず手元に戻ってくる。

 見た目は革ひもに通した古めかしいデザインの鍵だ。ちなみにこの家と、アイテムボックスの鍵も兼ねてるらしい。

 これで布の服が持ち物欄に出てなくてよかったよ。

 だって、裸でうろつくやつなんかいないだろ!? って怒るとこだ。

 ゲーム内で手に入れた武器や防具は残念ながらなかった。武器と防具だけでもあれば一気に楽になったんだけど、さすがに甘かったな。

 使用可能なステータスも満たしてないし、スタート地点でラスダンの秘宝に匹敵するような装備で歩くのもおかしいから、これはしょうがない。

 現実にこの世界を生きるなら魔王討伐なんて恐ろしいことはしたくないから、見る機会はなさそうだ。

 そんなのは伝説級の冒険者たちに任せて、俺は堅実な人生を生きよう!

 改めてそう決意して、俺は小さな家のドアを開けた。

 中に入ったらすぐ台所だ。大きな水がめの中身は、近くの川からせっせと俺が毎日汲んできてた。

 井戸がないのは不便だったけど、俺が大きくなってからはあの作業をばあちゃんにさせずに済んだだけでもよかったな……。

 体が弱ってからは、そんな魔法(スペル)を使うのも大変っぽかったし。

 思えば、ばあちゃんはもう自分の最期がわかってたんだろう。

 戸棚にいろんなポーションを作ったまま売らずに残してくれたし、ほかにも干し肉とかドライフルーツ、下ごしらえした薬草の束を見たらそう思った。

 ごく稀にばあちゃんの知り合いが訪ねてくる以外はずっと二人だったから、小さなテーブルと椅子が二脚、食器と調薬道具、素材を入れる棚でここはもういっぱいだ。

 隣は寝室で、簡素で小さなベッドが二台。

 最初は一台だけで、俺は籠に寝かされていたと思う。でも物心ついたころにはこうして俺の寝床も用意してくれてたんだよな……。

 ベッドの横の壁にかかったカバンを取って、いよいよ旅立ちを決意した。

 火蜥蜴の革でできたこのカバンは、ばあちゃんが若いころに装備してたマントの一部を使って作ってくれたものらしい。

 落ち着いたえんじ色で、丁寧に手入れされて長く使い込まれたからかしっくり馴染んでいい風合いだ。

 カバンを開けると、そこには折りたたまれた古めかしい地図と、色褪せて生地の端っこがほつれかけた赤い小袋が入ってた。

 ばあちゃんがいつも肩から掛けてたショールだ…!

 震える手で開けたら、中には結構な額のお金が入っていた。こちらの通貨はダルムって言うんだけど、物価から考えて1ダルムがだいたい十円ぐらい。

 ここには大小の銅貨や銀貨で合わせておよそ一万ダルムが入っていた。ゲームでは二周目特権でしかなかったけど、今の俺にとってはばあちゃんが細々と暮らしながら貯めてくれたお金だ。

 大事にしようと思いながら、俺は改めて荷造りをし始めた。

 ここから出たら、たぶんもう当分は帰って来られない。保存食や薬草、ポーションの類はぜんぶ持ち出さないとな。

 まずは武器として腰のベルトのホルダーに使い慣れたナイフを入れる。カバンをアイテムボックスにつないで、弓と矢筒、石を二つ縄で結んだ投げ縄のボーラ、台所の薬草と食料、俺もいっしょに作った各種ポーション、キャンプ用品っぽい野営用の各種道具、革製の水筒と着替えも一式バッグに突っ込んだ。

 水がめは虫が湧くといやだから、外に出して中身を捨てておく。

 最後に外出用の毛織の外套を羽織って、しっかり施錠だ。

 ここが境界なんだな。郵便局があるわけじゃないし、ポストもない門みたいな粗末な木の柵を開けて出る。

 すると、とたんにぶわっと森の気配が濃密になった。

 ああ、そうか。ばあちゃんが作ってくれた「家」から外に出たんだなあって感じだ。


「あ、持ち物が増えた」


 ステータス画面に新着アイコンが点いたのを感じてもう一度開いたら、持ち物欄が「魔法の鞄」になって、所持金と、「オウルの地図」という表記が見えた。

 説明は、「老魔女オウルが養い子サトルに与えた鞄。火や水に強い」と、地図の方は「かつて魔王を倒した勇者が旅の中で訪れたすべての場所が記された地図。オウルの庇護の術がかかっており、サトルが訪れた場所を照らす」か……。

 今はまた新しく始めたところだから地図はぜんぶ灰色。ズームするとこの家のあたりだけが明るくなって、俺のいるところが点で光ってる。

 魔法の鞄も不思議な地図もただのゲームアイテムだと思ってたけど、こうして見たら重みというかありがたみが全然違うなあ。

 ここで生きなくちゃいけないとわかったときは絶望の一言だったのに、俺も現金だな。

 こんなチートアイテムをもらえて、わくわくする余裕ができた。


「あーまた泣きそう」


 ずびっと鼻をすすって、鞄をぎゅっと胸に抱く。

 蔦や宿木にぐるぐるに巻き付かれてもびくともしない巨大な杉っぽい木がずらっと並ぶ森は、どこまでも深い。立派な枝が重なり合う空を見上げたら、緑の向こうに透き通るような青が見えた。森から出たらさぞ解放感があるだろう。

 気候は温暖で、今は花が盛り。春の真っただ中だ。心なしか緑の色も柔らかい。

 俺の知ってるこの世界はゲームだから暦や曜日も少しもじった感じで、今日は火の日とか、水の日なんて表記で時計も知ってるものだった。

 まあ、設定上どこも町の広場に大きいのがどんとあって、庶民はそれを頼りに、富裕層は懐中時計を持ってるって感じだったかな。

 ばあちゃんと住んでた家にはなかったけど、朝昼晩さえわかりゃいいって感じの生活だったから不便はなかった。

 時計が欲しいのはスケジュールに追われる生活をしてる人だけだって実感する。

 ばあちゃんには、「自分が死んだらおまえは町に行って誰かと生きなさい」って言われてたし、この先は欲しくなるかも知れないけど。


「ここから一番近いのは…ナーオットか。よかった、知ってるとこだ」


 ゲームのデータがベースになってるなら、どのルートを選んでも実際に一番最初に入ることになる初心者に優しい街のはずだ。

 豊かな森と、広大な草原が近くて、領内には大きな湖もある。それなりの魔物はいるけど食うに困るような状況は少ない気がする。

 全体図で見たら小さいけど、ズームするとこの森は相当深いことがわかった。

 ゲームなら数分もかからないけど、さすがにそれはないだろうし、数時間…いや、もっとかかるかも知れない。

 でもまあ、初心者には過ぎるほどの装備もあるし、なんとかなるはず!

 ブーツの紐をしっかり締め直して、いざ出発だ!!

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