2-1-1 新しい朝~教会~ ③
本日2話目の投稿です。
「すまないね、サトル君」
「えっ」
ありがたく一口いただいたところで神父様に話しかけられて、慌てて姿勢を正す。
「メルは少し目が悪くてね。どうしても目つきがきつくなってしまうんだ。ここに来てまだ日が浅いのもあって警戒心が強いのは間違いないが、いい子なんだよ」
「大丈夫です。悪く思ったりしてません」
そうか、だから…。
俺ももとは眼鏡くんだ。目が悪くなり始めたころ、親に「目つきが悪くなった」って注意されたから身に覚えがある。
「眼鏡は高そうですものね」
「そうだね。子どもの場合は特にゆとりのある家庭しか作らないな」
「サイズが変わるからでしょう?」
「そうだ。それに子どもはどうしてもはしゃいで壊すことがあるからね。もちろん私は作ってやれるものならそうしたいのだけど」
この神父様は優しそうだもんな。その気持ちはわかる。
視力が落ちるとなにかと不便になるもの。
「あの子はエルカセで母親を亡くしてね。捨て子だったアリアといっしょに商人のキャラバンに預けられてうちに来たんだ。お針子だった母親の仕事をよく手伝っていたそうだから、それで目を悪くしたんだろう」
「そうだったんですか……」
「あそこは紡績で有名だからね。目と肺を悪くする人が多いんだよ」
そういえばエルカセのエリアで出る魔物は、糸を吐くものが多かった。
代表的なのは二種類。まず蚕がベースになったシエルウォーム。こいつは生息するエリアによって吐き出す糸の色が変わる。攻撃の属性も変わるから、レベルが低いうちは装備の切り替えが多くて面倒だった。
もう一種は細くて頑丈な糸を吐くダランデュラ。大きな蜘蛛型の魔物で、こいつの糸に巻き付かれたらパーティメンバーの助けがないと動けなくなっちゃう。
あとはマップの風景でも羊がいたし、フルサイズのマップでルートを考えたら綿も入ってきそうだ。
「紡績で有名って、羊とか綿だけじゃなくて、魔物のシエルウォームやダランデュラがたくさん出るからですか?」
「そうだ。サトル君は詳しいね。実は今はその二つの糸を使ったものがあそこの特産品で、人工飼育も盛んなんだ」
魔物の人工飼育! 画面じゃどっちも相当大きかったけど、大丈夫なのかな!?
「普通の蚕はいないんですか? 危ないんじゃ…」
「いるとも。でもか弱いからね。まあ絹糸としてはやはり一番質がいいから、そちらはエルカセに限らず紡績業のギルドと専属契約を結んで商売をしている集落があるな」
「そっか…。それじゃ量産は難しいですもんね」
「そういうことだね」
俺たちのところじゃ蚕は桑の葉しか受け付けなかったけど、こっちのはどうなんだろう? いろんな生物の生態が知りたいかも。
「ダランデュラの糸は洗浄が大変らしいが丈夫でね。加工されて絨毯や帆布、幌に使われることが多いな」
「ああ、あの蜘蛛の糸ってなかなか切れませんよね」
「おや、戦ったことがあるのかい?」
「いえ、ばあちゃんが加工してるとこを見たんで」
これは嘘じゃないぞ。
俺の服や革製品を作ってくれるときに実際見たんだ。
ただ、ゲームで戦ったときの感想が漏れたのは本当だから、ぼろを出さないうちに逃げたい!
そう思って残りを一気に飲んでマグカップをテーブルに置いたらごとんと鳴って、マナー違反に赤くなりながら退出の挨拶を考える。
でもまだ話は終わらなかった。
「サトル君」
「は、はい」
ゆったりとお茶を飲んだ神父様は見事に音を立てずにマグカップを置いて、俺を呼ぶ。
眼鏡越しにもなにもかも見透かしてきそうなブランデー色の目が、めっちゃこっち見てる! やめて!!
まだ今日の予定がなにも始まってないのに、俺のHPとMPがゴリゴリ削られるじゃないか!
「昨夜はなにもなかったかね?」
「え…っと、おっしゃる意味がわかんないです……」
ぐっすり寝てたんだから、もしなにかあったってわかんないよ!!
「失礼だと思ったのだけど、君が寝ている間に部屋に入らせてもらったよ」
「え……」
「ノックはしたのだけど、君は眠っていたものだから」
そうか、だからカーテンが閉まってたんだな。
じゃあ昨夜から俺になにか話があったのか。やっぱりエルフィーネのケガのこと?
「そうなんですか!? すみません、俺、気がつかなくて」
「ああいや、むしろ勝手に入って申し訳なかったね」
「いえ、そんな」
「お節介とは思ったんだが、君の部屋に封印の魔法を使わせてもらった」
「え…」
「封印」は強奪系スキルを封じる対抗スキルでも、最上級の魔法だ。
対象の大きさや範囲で消費MPが変わる。
武器とか防具だけならまだしも、部屋に丸ごとかけるってMPをめっちゃ消費するだろうに、びっくりだよ!
こっそりサーチしてみたけど、やばい。弾かれた!!
神父様が一瞬、ほとんど動かないぐらいに目を瞠る。これは弾かれたら気付かれるってことだ。覚えた!
「これは偵察……ではないな。索敵と鑑定、もう一つなにか……」
「!」
ブランデー色の目がぱっと一瞬金色を帯びた。
今、俺を探られた…!?
「ああ、驚かせてすまないね。術式がはっきりわからないが、これは私が知らない魔法のようだ。それもかなり強力なものだね」
「ご、ごめんなさい。あの部屋全体に封印の魔法をかけるって、どれぐらい魔力があるんだろうって気になって」
神父様は笑ってるけど、怖い。
だって俺、とんでもない無礼を働いたってことだよな? 笑ってても実は怒ってるってパターンだったらどうしよう……!
「いや、構わないよ。見られるようにしよう」
「いいです、そんな」
「先に無礼を働いたのは私だからね」
あああ、やるんじゃなかった…!
こうなったらしょうがないか。観念した俺は、聞こえないぐらいの声で「サーチ・オリジン」と唱えた。
名前はレオンハート、年齢三八歳。
ハイプリーストで、HPとMPがめっちゃ高い!
MPはわかるけど、なんでハイプリーストがこんなに体力あるの? いや、まあそういう人もいるかも知れないけど、なんか見辛い。HPとMPのバーが灰色ってなんだろう? ……なにかの影響で減ってる? 減っててこれ?
でも、なんか怪しい。実はこの人のジョブ、本当はハイプリーストじゃないんじゃ……。




