1-2-5 その名はエルフィーネ ②
本日13話目の投稿です。
「あの、実はすごい力持ちとか?」
「あ…ごめんなさい。普通です。でも、がんばって持ちますから……」
「いや、そんなつもりじゃないよ。ごめん!」
びっくりした。そうだよね、こんな見かけだけど実は巨人族とのハーフで力持ちとかかなって思っただけ!
でもやっぱり、この子を危険に巻き込めないと思って改めて断ろうと思ったんだけど。
「サトルくん、聞いて」
「え?」
「冒険者に女の子が少ない理由はね、ああいう連中が荷物持ちの名目で雇うからなの。本当に荷物持ちの仕事をさせるだけならいいんだけどね……」
耳元に口を寄せた俺にしか聞こえないぐらいのマイヤさんの囁きで、わかってしまった。
くそ、……わかってしまったじゃないか!!
思わずエルフィーネさんを見たら、彼女はひたむきな、そしてすべてを覚悟した表情でしっかり顔を上げて俺の返事を待っていた。
ああ、この子はちゃんと理解してる。
自分がどういう扱いをされるか知っていて、それでも逃げずにここにいるんだ。
それがわかって、俺はぎゅっと拳を握った。
「あんまり重たい荷物なんか持てないですよね? そんなの、いじめてるみたいだ」
「そう思うでしょ? 君も一人だし、今は同じぐらいの駆け出しの子の登録がないんだよね。だから、一回でもいっしょにお仕事してみたらどうかなって思ったの。ね、お願いできないかな?」
わざととぼけた俺の返事にマイヤさんだけじゃなくて、ジェフさんとライラさんも真剣な顔で俺の返事を待ってる。
気がついたら、ここにいるほかの冒険者もみんなこっち見てるし、居心地が悪いったらない。こんな場面じゃなかったら、一も二もなく逃げ出したいよ。
俯いて考える。
俺が断ったとしても、この子はきっと文句も言わず、素直に引き下がるだろう。
決して俺を恨んだりしない。それが伝わるぐらい、清冽な目と表情だった。
それを知っていて、わが身可愛さに見なかったふりなんてできないよ…。
だって俺は大人なんだから!
「エルフィーネさん」
「はい」
だから俺は意を決して姿勢を正し、不安そうなエルフィーネさんを呼んだ。
彼女の背が高いのか、俺が小柄なのか、少しだけ俺より高い位置にある、大きくて深い緑の目が潤んだように揺れながら俺を見て、もう全身で緊張した様子で俺の言葉を待ってる。
「あの、俺…本当に駆け出しどころか、今日、それもついさっき冒険者になったばかりです」
「はい。わたしも今日なったばかりです」
あああ、上手く言えない! なんでこんなときは「交渉」スキルが仕事しないんだ!!
俺は自分でもいやになるぐらいたどたどしく、でもなるべくわかりやすくだけは心がけて一生懸命言葉を紡ぐ。
「えっと…俺はずっと森でばあちゃんと二人で暮らしてて、街のことはなにもわかんないから、教えてくれたらありがたいです。俺もあんまり腕力に自信ないし、頼りにならないからそれもごめんね。だから荷物はいっしょに持ってもらうことになるけど、それでもいい?」
「はい。わたしもずっと教会で育って、世間知らずですが、サトルさんに教えて差し上げられることがあったらうれしいです。いつも小さい子を抱っこしてますし、身体が丈夫なことには自信があります。重たいものは半分こして持って帰りましょう」
エルフィーネさんも俺と同じで、あんまりしゃべるのが得意じゃないのかも知れない。
たどたどしく、でも一生懸命にそう言って、最後にふわっと笑ってくれたのがうれしかった。
小さな白い花が咲いたみたいなその笑顔が、緊張で縮こまっていた俺の心を解してくれた。
「う、うん。じゃあその、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
でも握手する勇気なんかなかったから、ぺこっとお辞儀したら、エルフィーネさんも丁寧に頭を下げて挨拶してくれた。
「よし、これで一安心だな! 無理そうならさっさとサイモンに仕事を紹介してもらいな。坊主はポーションが作れるんだから、冒険者をやりながら薬師を目指すってのもできる」
「そうね。エルフィーネだって目もいいし器用だからね。もし冒険者がだめでも大店のお針子にだってなれるさ」
「うんうん! 衣屋にも紹介できるしね!」
ジェフさん、ライラさん、マイヤさんとほとんどの冒険者はほっとしてくれてるけど、奥の方のあいつらからはなんか舌打ちが聞こえた!
怖いからそっちは見ない! 見ないぞ!!
「あ…ありがとうございます」
「いいってことよ。うちのかみさんはぶきっちょでな。さっきは外套を縫ってくれて助かったぜ」
「冒険者同士、お互い様さ。まあ一回やってみるんだね」
深く頭を下げたエルフィーネさんにジェフさんが照れくさそうに笑って、ライラさんもぽんぽんと彼女の細い肩を抱いた。
仲間ができたって言うより、よその家の大事なお嬢さんを預かったというか、正直押しつけられた気分だ……。
でもまあ、しょうがない。なるようになれだ。
「えっと、じゃあ早速お仕事いっしょに見ようか?」
「はい」
き、緊張する…!!
エルフィーネさんと今の自分の体格からだけど、中学生のころにくじ引きで体育委員になって、クラスの女の子と二人でいろいろやらなくちゃいけなくなったときみたいだ。
あのときもべつにいやな顔とかされなかったけど、あっちも俺もおとなしいタイプでさ、お互い緊張してすごくぎくしゃくして気まずかったんだよな。
「こうして見たら、やっぱり魔法の草で有名なラトリ草の依頼が一番多いですね」
「うん。っていうか薬草と毒消しの原材料って定番なんだなあ」
「このあたりの薬草はいろんな薬の材料になりますから、それもあるでしょうね」
緊急納品希望の依頼書が何枚かあるけど、それとはべつに「端数があればいつでも買取します」って大きいのが貼ってあるぐらいだもんな。
ほかの仕事のついでに摘んできて、まとまった数は依頼書に合う数だけ現物渡しにして、残りは買い取ってもらう人が多いみたいだ。
「依頼を受けて集められなかったら失敗になりますし、もし失敗を繰り返したらわたしたちみたいな初心者だと認定取消になってしまうそうです」
「そっか。じゃあ依頼を受けてから行くんじゃなくて、薬草を集めてから依頼書を見て決めようか」
「はい」
実は鞄の中に結構な数のいろんな薬草が入ってるから、いざとなったらこれを出せば大丈夫! 最初に失敗するのはいやだし、この安心感は大きい。
よし、方針が決まった!
「じゃあ、さっそく出発しようか」
「はい。皆さん、ありがとうございました」
「おう、気をつけてな」
「絶対に無茶はしないんだよ」
「暗くなる前に帰ってきてね」
二人でぺこっと頭を下げると、サイモンさんは無言で、ジェフさん、ライラさん、マイヤさんやほかの冒険者の人たちは笑顔で見送ってくれた。
奥の連中はやっぱり面白くなさそうだったけど、突っかかってこられなくてよかった。
先にエルフィーネさんを行かせて続いた俺の背中に突き刺さるいやな視線を思うと、もちろん警戒心は忘れちゃいけないけどね……。
絶対、彼女から目を離さないようにしよう。
少なくともいっしょにいる間は、このお嬢さんを守らなくちゃいけない。
引き受けた以上、これは大人だって自覚がある俺の責任だ。




