第八章
目の前に問題解決の糸口があるのにそれが使えない。これほどもどかしいものが他にあるだろうか。
第2コンソール。目の前にあるこれさえ使えれば、爆弾どころか、この島の結界術も全て解除でき、参加者全員何のペナルティを負うことなく帰れる。だが、それを動かすIDもパスワードも分からない。つまり動かない。
自棄になるのはまだ早い。考えろ。タイムリミットまであと5分。爆弾さなければまだ少し猶予は生まれる。なら、するべきことは一つ。
「ハァツ!」
幻影剣を力いっぱい振り下ろし、コンソール付近の壁を斬る。予想通り、むき出しになった太い配線が無数に張り巡らされていた。大元のこの配線を斬って、結界を張っていけば被害は少しでも小さくできるはず。
その時。
「法術式爆弾か…。向こうも考えたな」
「これを斬ったらいいのね!?」
「ルカ!キリヤ!」
見慣れた黒炎と法術が空を切る。カラシャだけではなくキリヤもルカも無事だったという安堵に思わず気が緩みそうになる。…気を抜くな。3人とも無事に学校に戻れる保障はまだない。
「そこのコンソール、魔剣手に入ったら入れるはずの部屋にあるのと多分同じです!あれさえ使えれば今の状況は打破出来るんですけどね!」
地下に響く金属音に負けないように声を張り上げ、剣を振る。
「カラシャが助けに来てくれたんだけど、隣に何故かシーナ先生がいたの!何か知らない?」
「いや、何も!じゃあその2人は上で…暗殺者と戦ってるんですか?」
「ご名答だ。何で、先生はあそこにいた?」
キリヤの、黒炎剣を振り回しても息を切らさず話せる技術は単純にすごい。
ゴーン…。
「これって…」
「0時まで1分切りました。やれることはやった。出よう」
「リューラ、爪で斬るのはもうやめて、あたしたちを上まで案内して!最短ルート!」
「はいだみー!」
「なるほど、リューラに魔力を追わせるわけですね」
さすがは使い魔。カピバラの概念を超えた速さで廊下を走っていく。それを追いつつ、コンソールに辿り着くまでの道に用意しておいた法術円を次々と起動させていく。出口で一斉に魔力を流せば結界ができる寸法だ。
時計を見る。あと30秒。
「間に合うか!?」
「もし間に合わなかったらどうする!?」
「バカ!間に合うと思って走れ!」
「何それ根性論!?らしくないよ!?」
「リューラ!出口まであと何メートルほどですか!?」
「ざっと500メートルほどだみー!」
ダメだ。どう計算しても、間に合わない。
「リューラ!次から角を左、右、左、左の順に曲がってください!そこにある書庫には唯一爆弾がない!結界次第でシェルターになる」
「結界術はあたしに任せて!」
「俺とメルトでもう2重にしたほうが安全だ!」
書庫に駆け込み、大急ぎで結界を張る。
あと10秒。呪文詠唱の時間すら惜しい。
「カラシャ…」
「大丈夫だよ、カラシャにはシーナ先生がついてる。あの先生の魔法すごかった」
そう励ましてくれるルカの膝は震えている。
一番外側のキリヤの結界が張り終わった。
「出来るだけ遠くまで走れ!!!」
キリヤの声が、心配に暮れていた僕の心を動かす。信じよう。今の僕にはそれしかできない。
「キリヤ…」
「大丈夫だ。俺たち5人は学校に帰れる」
キリヤの声は、ルカに向けたものか、自分に向けたものか。
日付が変わる。