第四章
城の外の非常階段を上り、給仕する酒を補充しに行く。身を切るような寒さも、フロア内の熱気に当たれば涼しく感じる。
僕に与えられた役は、“給仕係”。この城内ではメルトという人格を消し、フロア内の一ウェイターとしての役割を全うすべき。それが、学校にいち早く戻る一番の良策だ。
でも、そう考えると同時に、キリヤやカラシャやルカを探していた。僕と同じタイミングで不自覚転移魔法に巻き込まれたのなら、絶対にこの城内にいるはず。ただ、仮にいたとしてもあの人ごみから、仮面で顔が隠されている人をかき分けて仲間を探すのは至難の業だ。それに案内の紙には、魔剣を見つけた者に“全て”を与えると書いてあった。“全て”とは、一体何を指している?
シュバッ!
突然、目の前を光が横切る。咄嗟に、大きく体を反らしてそれを躱す。
「反応はそこそこね」
非常階段の手すりの上には、タイトドレスに身を包んだ女性が立っていた。手には短剣と投げナイフ。今のナイフの投げ方からして、かなりの手練れ。理由は不明だが、この人と戦わなければいけないことは確からしい。持っていたトレイを階段にそっと置く。
僕が体を起こすと同時に相手が手すりを蹴った。近接戦闘もできるのか。厄介だ。魔力を具現化させて幻影剣を出す。刃と刃がぶつかって火花を散らす。
あれ…?
反動をつけて一旦退く。屋根を足場に向きを変え、女性の方へ飛び下りる。女性は、それをひらりと躱す。
『メルト、妾に(わらわ)に捕まったふりをしろ。ここで逃げると、お主、殺されるぞ』
言の葉術と呼ばれるテレパシー経由で、カラシャの声が頭に流れ込んでくる。やっぱり、目の前の相手はカラシャか。
『僕を捕まえてどこに連れていくつもりですか?』
『地下牢じゃ。妾を含む暗殺者役10人がそれぞれ参加者をそこに放り込むよう命令されてる。でも、他の奴らは全員、人殺しする気満々じゃったぞ』
『分かりました。自然に捕まりますから、キリヤとルカも助けてあげてください』
『了解なのじゃ』
僕はそこで、強制的に自分の意識を切る法術を自分にかけた。
そして今、牢にいる。でも、カラシャは僕を縄で縛ったりはしていなかった。幻影剣の媒介の魔石を使って自分の身代りを錬成し、錠前破り術で牢を出る。こういう時のためにスペアを用意しておいてよかった。
だが、牢を出て歩き出した僕を待っていたのは、思いもしないものだった。