インダス文字(8.疑問擬答)
「インダス文字の背景言語は、日本語であり、インダス文明は、日本語文明だった」との主張に対する反論を想定し、回答を作ってみました。
1.反論
インダスの印章に関し、仮に日本語だとしても、何も逆から読む必要はない。ついては、日本語になりそうな短い文字列を選び、適当に音価を当てはめれば、それなりに意味が通じるだろう。例えば「ドラヴィ-ラの看板」の場合、同じ記号が4つ登場するので「おうよおさめおおし」(王よ 治め おおし)とも読める。
この様にインダス文字の場合、線文字A等と異なり、各記号の音価は不明であり、これを確定させるのは困難。不確定要素が多すぎて、何故、この音価の体系でないといけないのか、理解できない。ロゼッタ・ストーン(多言語テキスト)に該当する原典が発見されるまで、文脈は特定できず、音価も確定できない。従って日本語と証明するのは、今のところ、無理。
2.回答
インダス文字には、ロゼッタ・ストーンに相当する物が発見されていないので、帰納的なアプローチで、多数の原典に当たり、一貫したやり方(同じ音価や解読方法)で、日本語に解読出来る事を示し、「限りなく日本語の蓋然性が高い」旨の証明を目指している。(古代ギリシャの線文字Bの場合も、多言語テキストのないまま、古代のギリシャ語との主張が認められている)
然るに、今まで左右の双方向から読み、日本語に解読できたインダスの印章は75点以上となるので、十分なエビデンスが蓄積しているが、詳細、次の通り。
(1)音価の根拠(形状、線文字A、漢字から)
(ア)インダス文字に、線文字Aとの共通/ 類似の記号がある場合、線文字Aの音価を借用したところ、次の通り。
カメ/鏡の記号:KA
バツ印の記号:KE
三角屋根の左右に耳:MA
実/巳の記号:MI
紫の染料を採る巻貝の記号:MU
梯子の記号:NU
歯の記号:PA
螺旋の記号:RA
縦棒で、U/Vの中央を貫いた記号:RE
十字の記号:RO
穀物の穂の記号:SE
乳首の記号:TI
矢尻/鏃の記号:ZO
(イ)記号の形状から、簡単に字源が判明し、漢字に類似の記号がある場合、同漢字の音価を借用したところ、次の通り。
「目」の記号:ME、MI、MA。
「木」の記号:KI、KO。
(ウ) 象形文字
この他、形状から、字源や音価が推測可能な記号、次の通り。
日傘の記号:HI
帆の記号:HO
四角いナシ(果物):NA
男の記号:O/OTO/TO
反りのある弓:SO
「す」の横棒を削除した記号:SU
牛の頭:U
U字形の記号:WA
閉じた輪/菱形の記号:WO
(オ)縦棒は数字
インダスの印章には、マッチ棒状の縦棒が複数、平行に並ぶ記号が頻出する。この様な記号は、本数に応じ「いち」、「に」、「さん」等を基本に、次の通りに読み込む。
I(86):(線文字Aに登場する「・」や短い縦棒に準じて) I/ YA(矢)/ SI(支/糸)。屈曲していればNO。
II(87): NI/ RA(羅列/螺旋)。
III(89): SAN/ MI/ DI。
IIII(104):SI/ YO。
なお母国語の如何を問わず、誰が見ても、この様な縦棒を並べた記号は、数を表すものと理解できる。従って、本数を表す音価を代入した場合、意味の通じる言語が、正しい背景言語だろう。
(2)逆さ読みの遊び
インダス文字につき、双方向から読む可能性を追求した理由は、クレタ島やキプロス等、地中海東部の古代文字を日本語に解読した際、右から左、左から右、と双方向から読める原典が多い事を発見したので、古代の日本語民族に共通の伝統文化と考え、インダスの印章の文字列も、やはり双方向から読めると推測したからである。
因みにインダス文字では「目」、「魚」、「熊手」の記号を含め、左右対称な記号が多いので、印章から印影を作成した場合、記号の形が維持される事が多い。また典型的なインダスの四角い印章の場合、下部に動物を描き、上部の狭い空白にメッセージを入れるので、左右、双方向から読め、空間節約にもなるのである。
双方向に読む事を前提とすれば、同じ記号をME/MA、KI/KO等と読み換える習慣や、追加的な支線に音価を持たせ、I/YA/SI/NOから選択するのも自然であり、これが今日に残る、漢字の柔軟な読み方(例えば「行」につき、行く、行方、(銀)行等)の淵源と考えられよう。
(ア)日本語は「はし」、「くも」等、二音節の単語が多い上、同音異義語やオノマトペ(擬声語、擬態語)が非常に多く、言葉の遊びに適している。その結果、逆方向に読んで、意味の通じる文や文章を作る遊びが可能。例えば次の通り、古代から密かな遊びだった形跡がある。
(a)芭蕉の俳句
〇 古池や 蛙飛び込む 水の音
(逆さ読み)とおのずみ むこびとづわか やけいるふ
遠野澄み 婿人 津和/諏訪か やけ入る婦
〇 閑かさや 岩にしみ入る 蝉の声
(逆さ読み)えこのみせ るいみしにわい やさかづし
えくぼの見せる意味 師に/死に 祝いや杯
〇 五月雨を 集めて早し 最上川
(逆さ読み)わがみがも しやはてめつあ をれだみさ
我が身がもしや 果て滅つ。ああ 俺だめさ
この句の当初案は「早し」でなく「涼し」だったが、逆さ読みが「しずすてめつあ」と意味不明なので、「早し」に修正した、とも議論可能。
(b) いろは歌
冒頭の「い」を末尾に移動し、逆さ読みすれば次の通り。
(い)すせもひゑ しみめゆきさあ てえこふけ まやくおのゐう むらなねつ それたよかわ をるぬりち とへほにはろ(い)
椅子背も冷え 沁み目雪 さあて 行こう 研磨/桂馬役! 斧要る/小野居る村 だねっ? それだよ/それたよ 川を折る/厠に居るなり ちと、ヘボ/屁を。庭、広い/ 匂うわ。
ここから「色は匂えど 散りぬるを 我が世……」で始まる「いろは歌」に繋げば、パロディー版が成立する。因みに「雪隠」と言えばトイレなので「沁み目雪」も布石か。
「小野」を小野小町とすれば「いろは歌」は、百人一首の歌「花の色は移りにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせし間に」(古今集)を展開した如き内容。仮に「いろは歌」が、小野小町の作品とすれば、逆さ読みの中に自分の名前を入れた形だ。その場合「ふけまやくおの」は「老け魔役の小野」との自虐的な表現か。小野小町ゆかりの地は、東北地方を中心に全国に複数ある由。
(c)古事記
ヤマタノオロチを倒したスサノオが、救ったクシナダヒメと結婚する事になり、詠んだ歌。
〇 八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を
やくもたつ いずもやえがき つまこみに やえがきつくる そのやえがきを
これを素直に読めば、「山頂の様な、高い所に登って見下ろせば、雲海の広がる絶景だが、所々、より低い峰が突出し、垣根の様に雲海を八つに分割しているので、その様子が、まるで新妻を囲む垣根に見える」と解釈できる。この様な景色は、例えば中国・雲南省の山岳地帯で、ワ族等の少数民族の住む地域で見られ、YouTubeで検索・鑑賞できる。「高天原」のイメージとも思われるが、偶然かも知れない。
(逆さ読み)置き換え 矢の反る靴 着替え 夜に御子待つ 気概や/気変えや 月が、絵や。百舌鳥の「ズイッ」と発った、文句/クモ、や
逆さ読みでは、百舌鳥の「はやにえ」(串刺し)と、クシナダヒメの「クシ」が掛けてある。
(d)万葉集(額田王と大海人皇子)
額田王が、大海人皇子と別れ、彼の兄の天智天皇の后となり、相互に詠んだ歌。
〇額田王
あかねさす 紫のゆき しめのゆき 野守はみずや 君が袖振る
「綺麗な紫の野にて、貴方は未練がましく、袖を振ってくるが、見張りに発見されそうだ」
(注)原文は漢字(万葉仮名)であり、「あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」と再現するのが、一般的。「あかねさす」は「むらさき」の枕詞。しかし一度、全文を平仮名に直した方が、「紫の雪、四面/ 新芽の雪」等の掛け詞が味わえるだろう。
(逆さ読み)冒頭の「あ」を末尾に移動し、逆方向に読めば、次の通り。
(あ)るふでそが みきやずみ はりものきゆ のめしきゆ のきさらむ すさねか
「ある筆、そう。紙来や。墨は、凛もの、来ゆ。湯の飯/ 夢の氏、来ゆ。軒/ 退き、去らん。蒸す/ 生す/ 娘、実/ 小寝/ 残念か」
〇 大海人皇子
紫草の にほえる妹を 憎くあらば 人妻ゆえに 我恋ひめやも
「紫草の様に美しい貴方が、嫌ならば、どうして人妻なのに、恋を秘めましょうか」。
(逆さ読み)
もやめひこれわ にえゆまづとひ ばらあくくに をもいるえほに のきさらむ
「もう、やめい。これは煮え湯。先ず問いつつ、暗愚。国を思える故、鬼は退き/ 軒、去らん」
(イ)この様な遊びは漢字の使用により難しくなり、更に猥雑で下品、かつ教育上良くないとの配慮から廃れ、場合により抑制・隠蔽されたのだろう。しかし平仮名だけで文を書けば十分可能であり、暇つぶしとなり得るので、現代でも内輪で流行る、学生の猥歌等が想起される。
(ウ)インダスの印章は、墨などに付けて平らな所に押し、印影を残すために作成された。従って刻まれた文字列は、印章・印影、何れも日本語として意味が通る様に工夫されたのだろう。
このためインダス文字では、双方向から読める様にすべく、記号の読み方に柔軟性を持たせてあり、例えば同じ記号でKI/KO、あるいは ME/MA等と複数の読み方が可能である。この習慣が継承されて現代に至り、同じ漢字に複数の読み方が可能との、日本語特有の現象を生んでいよう。
(エ)インダス文字の音価を確定させる上で、逆さ読みが成立する事は、日本語を示す重要な手掛かりなので、逆さ読みの成立しない音価体系は廃棄し、成立する音価体系だけを選ぶべし。従って「ドラヴィーラの看板」の解読として「おうよおさめおおし」では逆さ読みが成立しないので、選択肢から外れる。
「そもそもインダスの印章の背景言語は、日本語か否か」との議論はあろうものの、仮に日本語である場合、本稿で想定している音価の体系が、基本的に正しいと思われる。その理由は、下記に詳述する様に、解読した内容が、印章の漫画と常に整合する事である。
(3)クレタ文明との共通点など
地中海東部のクレタ文明やキプロスの古代文字(線文字Aやキプロス音節文字)では、日本語を記録した事が判明しており、インダス文字では、多くの類似する記号を使っている。更に次の様な共通点があるので、インダス文明の担い手も日本語を用いた可能性が高い。
(ア)都市計画・上下水道ほか
インダス文明とクレタ文明には、上下水道を含む周到な都市計画等、類似の点が多い。例えばクレタ文明の専門家、C.ダヴァラス(Costis Davaras) は「Bronze Age Crete and India」(Indian Historical Review, Volume XXXII, No 1. Jan 2005) の中で、クノッソスを発掘したエヴァンズ等、多くの研究者の指摘を紹介の上、原始的な宗教や神話に言及し、王妃の誘拐に始まる戦争を描いたイリアスとマハーバーラータ(ママ:おそらくラーマーヤナ)の類似点まで論じている。
最近ではBibhu Dev Misra がネット上のAncient Inquiries に「Indus Valley Cultural Elements in Minoan Crete: Was it Due to Migration?」(2017年3月29日)を掲載し、インダスの印章に、クレタ文明で知られる「牛跳び」の描写がある事を指摘。またS. Khan等が、Sustainability (2020,12, 4897)への寄稿文「Similarities of Minoan and Indus Valley Hydro-Technologies」で、両文明が上下水道など、都市の水利に優れていた事を指摘している。この他、自然崇拝、女系の家族制度が共通する可能性があろう。
(イ)交易
青銅器時代、インダス河流域はメソポタミアと交易があり、「メルハ」として知られていた。
(a)米国のP. Reveszは、Ialongo他が集積した、メソポタミア、インダス、クレタの3つの文明圏の「重り」のデータに基づき、インダス・クレタ両文明圏には、メソポタミア文明圏で使われない重量単位が共有されたと主張。J.ケノヤー(Jonathan M. Kenoyer)なども、ギリシャ・エギナ島のコロンナ遺跡で発見された装飾品のビーズ19個には、インダス文明の技術が見られるとして、直接的な交易の可能性につき論じている。
(b) インダス文字の中で、両腕が天秤になった人物の記号はRYOと読めるが、この記号は線文字Aの記号(A118)に酷似する。然るに(A118)は音声不明のまま、度量衡の重量単位(talent)と推定されているので、(A118)にもRYOの音価を付与すれば、日本の古くからの重量単位「両」に合致する。更に漢字「両」は、(A118)やインダス文字のRYOに形が似ている。
(ウ)DNA
(a)インドのラキガリ遺跡から出土した人骨のDNAを調査した結果、Y染色体はO2a系統、ミトコンドリアDNAではM4a系統が確認されている。
(b)インダス文字の日本語解読を踏まえ、Y染色体DNAのネット情報を調べると、ミノア人と見られるY染色体の Gや J系統は、ハラッパやモヘンジョ・ダロと関係が深く、パキスタンとインドに跨るプンジャブ地方に集積が見られる。
(Y 染色体) C系統 G系統 J系統 ・・ O系統
プンジャブ地方(Pakistan) 2.08% 8.33% 27.08% -
プンジャブ地方(India) 3.58% 3.57% ・21.43% -
南インド(ドラヴィダ系)・ 1.7%・ 2.3% 19.7%) 13.6%
従って「インダス文明を築いたグループが、気候変動に伴い地中海のクレタ島に移動した」とのシナリオは、DNAのY染色体の系統で見る限り、あり得ると見られる。他方、アレクサンダーの東方遠征をきっかけにヘレニズムの世界となり、ギリシャ系移民からプンジャブ地方へ、GやJ系統が伝わった可能性もあろう。
(4)ミニアチュア化
典型的なインダスの印章は2.54cm×2.54cmと小さく、この様な印章に、多くの情報を盛り込もうとする試み自体に、箱根細工やトランジスター・ラジオ、あるいは集積回路など、手先の器用な日本人が、従来から得意としてきたミニアチュア工芸の心意気や伝統文化が感じられる。
(5)ドラヴィダ系言語
(ア)A.パルポラ等、著名な研究者が、コンピュータ解析を用いて、インダス文字の背景言語を、南インドを中心に分布する、ドラヴィダ系言語と推論している。
然るに大野晋は、ドラヴィダ系のタミル語を研究し、文法(膠着語、SOVの語順など)や語彙が日本語に酷似するとして、日本語のルーツに関し「クレオール・タミル語」説を唱えた。
インダス文明で日本語を使用したとすれば、日本語とドラヴィダ系言語の間の共通点は、偶然ではなく、インダス文明に遡る繋がりに由来するだろう。
(注1)YouTubeでは、日本語とタミル語では、音声と意味の一致する単語が多いとして、次の様な例が挙げられている。
居る iru
いない illai (誰もいない:Yarume illai)
下さい kadunga
聴く kelu
兄 anna (兄貴、いるかな:Anna irukane)
あり得ない arumai
名前 naman
辛い karam
くるくる kirukiru
来て kitte
ドラヴィダ系言語には、敬語があり、これも日本語との共通点と見られる。例えばタミル語で「antar」は、英語の「sir」や「madam」の丁寧な言い方である由。
(注2)タミル語については、韓国語とも共通の単語が多く、その数は100から500とされる。因みに約2000年前、南インドの王女が、伽耶の王妃・許黄玉として嫁いで来た旨、「三国遺事」に記録されている由。
(イ)大野晋は、九州の弥生時代の遺跡から出土する甕棺が、南インドの古代の甕棺と酷似する旨指摘しているが、仮にインダス文明に携わった日本語族の一部が、気候変動に直面し、南下したとすれば、甕棺も、南インド経由で渡来した文物と考えられる。
(6)コ-ト・ディジ-遺跡、サラスワティ河
四大文明展の印章(351)はモヘンジョ・ダロの出土品だが、コ-ト・ディジ-遺跡に通じる KO-DI-TI、またリグ・ヴェーダに登場するサラスワティ河に通じる、SU-RA-TA-WA-TI が読み取れる上、モヘンジョ・ダロからサラスワティ河を渡り、コ-ト・ディジ-に至る旅が謳われている。なおコ-ト・ディジ-は、パルポラの印章H-103a、四大文明展の印章(379)にも登場する。
(7)漫画のエビデンス
インダスの印章では、文字列のメッセージを補完するため、漫画が活用されており、漫画が、解読した内容を検証する重要な手掛かりとなる。
然るに日本では、漫画は古くから重要な表現方法であり、鳥獣戯画、浮世絵などを経て、現代の漫画やアニメに発展。更に各国語に翻訳されて世界中に広まり、「クールジャパン」の代表格となった。インダスの印章の漫画は、手先が器用でスケッチ画を得意とする日本人の古代の文化遺産だろう。
(ア)動物のシンボリズム
インダスの印章では、登場する動物が、それぞれ特定のテーマの「看板」である旨判明した。この事自体、解読した文脈の正しさを裏付けていよう。
〇 一角獣:独身者。記述には、恋歌が多い。(注1)
〇 牛:勤労者。肉用につぶされる運命について、語られる事が多い。
〇 コブウシ:親の立場にいる者。人生経験を語る、教育的な内容が多い。
〇 ゾウ:好々爺、あるいは呆けてきた高齢者。
〇 トラ:酔っ払い。
〇 サイ(身体が点で覆われている):皮膚病。
〇 3つ頭の獣:北極星(北のタコ)等、北の夜空の星や星座を示す。(注2)
〇 珍獣(ゾウ、ヘビ、トラなどの合成):世の中を風刺する記述。
〇 キツネ:インダスの印章には、縦にした(尻尾が上の)キツネ形の記号が頻出するが、解読すると、狐の化けた女性の嫁入りや、人を騙す話となり、日本の昔話や民話に通じる。
(注1)一角獣と春の到来
印章に一角獣が登場する場合、多くの場合、肩から前足にかけて、ハートを逆さにした「猪の目」形の鞍(飾り)がかけてある。これをカシオペア座の「W」と考えた場合、一角獣の印章に照らし、典型的な角度で北の夜空に登場するのは、4月から5月なので、この鞍は春の象徴であり、一角獣の印章に刻まれた歌は、春の「歌会」系だろう。
実際、一角獣の印章には、上記の通り、独身者による青春の詩が多い。他方、「インダス文明展」図録の印章(344)「母の思い出」や、同(349)「植木屋の宣伝」の様に、鞍に「猪の目」模様のない一角獣も登場するが、何れの場合も、青春の詩ではない。
更に4月の北の星空を確認しつつ、想像力を巡らせれば「カシオペア座の『W』の背後には、一角獣の大きな星座がある」と考えられる。この場合、ぎょしゃ座の星が、一角獣の頭。すぐ下のペルセウス座の星が「譜面台」。更にキリン座の星が、一角獣の背中。竜座の星、あるいは北斗七星が、尻から尻尾を象る。
この様な解釈ならば「北のタコ回覧」の印章(M-296A)に、カシオペア座の「W」と共に、一角獣の頭が2頭分、描かれている事とも整合するだろう。
(注2)北のタコ
印章を逆さにすると、タコの漫画が現れる「北のタコ回覧」の印章から、KITAがNorth、TAKOがOctopusを意味する旨判明している。この事から、宇宙の果ての巨大な「北のタコ」が、北極星を中心に天空を旋回させている、との神話が浮上する。
(イ)上下、逆にすると漫画が登場
印章を解読すると、URA、SAKASA等の文字列が登場する場合があり、これを日本語と捉え、印章を逆さにすると漫画が現れる。例えば、
〇「北のタコ回覧」の印章や「オレ様逆さ」の印章(341)を逆さにすると、タコが登場する。
〇「座る甲冑男」の印章(336)(逆にすると、城壁の下で種まく人が登場)
〇 印章(360)「裏の裏」(逆さにすると人の顔が)
〇 ネット掲載(8)「Steatite seal with humped bull, Mohenjo-Daro」(逆さにすると泥棒が見える)
〇ネット掲載(14)「Bare Handed Tiger Wrestling Seals Harappa」(逆さにするとヤシの木が現れる)
〇ネット掲載(22)A.パルポラ「Corpus of Indus Seals and Inscriptions:1.Collections in India」の表紙の印章
酔っぱらった風情の一角獣が登場。文字列を解読すると、「飲まされ、彷徨いつつ。目がラリっとして、ほとんど気を失う」。「背中に乗れ、念入りに突いて、ヤメ。酔いが醒めた。散ったので、やめてくれ」。印章を逆さにすると、一角獣が目や口を大きく開き、嘔吐する姿に変わる。
これは決して偶然でなく、URA、SAKASA等の文字列が、それぞれ日本語の「裏」、「逆さ」等に対応し、同じ意味を持つ事を示している。
(ウ)解読内容が、漫画とマッチ
〇 「ヨガ座り」をする長老の周囲を、多様な動物が囲む「ヨガ行者」の印章。
〇 NHK放送75周年事業「インダス文明展」カタログ(図録)から、
-印章(333)征服された敵がおうし座に変身する「儀礼的場面」の印章。
-印章(357)身体中に黒い円のあるサイが登場する。解読すると、動物のサイとサイコロが掛け言葉を成し、サイの身体中の黒い円は、サイコロの目を表す事が判明。
-印章(358)解読すると、漫画が、左右で異なる動物に分かれる旨判明する。
-印章(406)「牛を一突き」のねじれた印章。
-
-印章(394)表側に耳の尖った、ラクダ風の動物が登場。文字列には「馬耳のラクダ」と書いてある。
-印章(395)表側に、見続けると目の回るデザインの印章。裏の文字列に「目回し」と記述。
〇「文字の考古学 I」(178頁)の「舞うトラ」の印章。
〇 ネット掲載(1)Seal-12, Harappan Civilization, C- 2700-2000 BC by Mukul-Banerjee。(トラが木に隠れる女性を見上げる印章)
〇 ネット掲載(6)Frenez Vidale 2012・Harappan Chimaeras (111頁)。牛、ゾウ、ヘビ等の混ざった、奇怪な動物がテーマの複数の印章。解読すると、動物の由来がそれぞれ判明する。
〇 ネット掲載(7)解読すると、牛が、巨大なウワバミに飲み込まれる場面と判明する。
〇 ネット掲載(15)「最も長い記述」
「イヌイ」と署名してあるが、銅板に大きく描かれた人物は、特種な形の頭巾を被っており、これはイヌとイノシシ、両方を象った形である。
〇ネット掲載(17)Seals from Mohenjodaro, Robert Harding
一角獣の角の高さで、太い帯が水平に走る。文字列は、その上から刻まれており、影響を受けないが、一角獣の目がかき消されている。文字列の読み方次第で、一角獣が、失恋の涙、海水あるいは蜂蜜に浸る姿と判明する。
(8)記号の種類が多い理由
インダス記号には、マハデーヴァンの指摘する様に、基本形があり、そこにマッチ棒の様な、短く平行な棒線、あるいは(縞の数の異なる)縞模様を書き加える事により、多様な合成記号が作成されている。
(ア)基本形は、1音節である。例えば縞模様のない、四角いフライパン形/三角形の記号の音価は、NA/NE。ここに横縞が書き込まれている場合、縞の数を数え、NA/NEと合わせ読み、2音節とする。例えば横縞1本の場合、NA/NE にI/YA/SI/NOを加えてNASI/NESI/NAYA/NEYA等。3音節、4音節の合成記号も見られる。
(イ)大まか(やや少なめ)に計算すれば、基本形は、主な子音(D、K、M、N、R、S、T)と、5つの母音(A、E、I、O、U)を掛け合わせ、約35種類。これら基本形から合成記号を作る際の典型的な方法は、1本、2本と棒線を書き加える事。すると全ての基本形に、棒線1本を書き加える毎に、新たに35種類の合成記号が生まれる計算となる。パルポラは、386の異なるインダス文字を数えたが、文字の数が異常に多い理由は、ここにあろう。
(9) 拗音の表記法
平仮名の古い筆記法では、文末近くに拗音が来る場合、「しう」(しゅう)、「せう」(しょう)、「てう」(ちょう)等と表記するが、インダス文字でも、拗音に関し、同じ表記法を使用する。
(10)印章の目的
(ア)職業を表す「万葉集」
把手のある印章には、印鑑、身分証明書、通行証等の説が唱えられており、解読すると職業を表す場合が多いので、研究者の予想通りである。
(イ)個人の特定と余興
個性的な合成記号が多く、創造性と多様性に満ちており、一見、意味不明で、時間をかけないと解読不能な印章が多い。解読の基本的な原理が理解できても、難解な場合が多いのである。
これは意図的に複雑にしたからであり、持ち主でないと、左右双方向から読めぬ様に工夫された、「実印」。あるいは解読すべき「なぞなぞ」の余興であり、文学の萌芽とさえ表現できよう。
この様な印章が広く使用されていたとすれば、当時の識字率は、それなりに高かったと考えられる。王など支配者への言及があまりないが、インダス河流域の様々な都市で、支配者の如何に関わりなく広く通用させるためか。