17 三者会談
「ここ、は…………?」
呆然と呟いて部屋を見回していたベルトールがヴィリディスの姿をみとめて、ばっと剣を構える。
「あー……そういうの、なしで」
面倒くさいと呟いたヴィリディスの隣に、ティレーリアは慌てて駆け寄る。
「勇者様、あの、剣を下ろして下さい」
お願いします、と言ったティレーリアに、ベルトールが目を瞠る。
「君、大丈夫!? 魔王に何か酷い事とか――」
剣を下ろしてティレーリアに向かおうとしたベルトールを抑えたのは、コーデリアだった。
「ルゥはちょっと黙っていて下さいませ」
「え、でも」
何か言いかけたベルトールを一瞥で黙らせたコーデリアが、ヴィリディスの前に立つ。
「魔王ヴィリディス、状況の説明を頂けるかしら?」
「まぁその為に呼んだしね。というか説明するのは僕じゃない。――――あんたも、どうせ視てるんだろ? 出てきたら?」
コーデリアから視線を外して宙に向かってそう言ったヴィリディスに、コーデリアがあら? と首を傾げる。
『バレていたか』
クスクスと可笑しそうな笑い声と共に、ふいに淡い緑の翅を持った美しい蝶が、ひらりと室内――ヴィリディスとコーデリアの間に現れた。
「蝶…………?」
ヴィリディスとコーデリア以外の全員が、突如現れてひらひらと舞っている蝶をきょとんと見る。
コーデリアが「付いて来ていたのですか」と蝶へ指を差し出すと、蝶は一度コーデリアの指に止まって、そして再び宙を舞う。
「わざとらしく気配だだ漏れさせておいて、よく言う。 どうせ、全部視てたんだろう?」
不機嫌そうなヴィリディスの声に対して、「勿論」と愉しそうな声が聴こえて、そして蝶から光が溢れて――
その眩しさに思わず目を閉じたティレーリア達が次に目を開けた時には、
ヴィリディスとコーデリアの真ん中に、とても美しい女性が立っていた。
ぽかんと自分を見つめているティレーリアに、女性はにこりと微笑んで手を差し出した。
「え?」
どうして良いのか分からずに、ティレーリアは突如現れた女性が差し出した手とヴィリディスとを、交互に見る。
ヴィリディスはおろおろしているティレーリアをぎゅっと抱きしめると、行かなくて良いと囁いた。
「心が狭い男は嫌われるぞ、ヴィリディス」
「うるさい。僕だって怒ってるんだ。――何故、ティーアを花嫁候補から外した?」
「―――え?」
ヴィリディスの言葉に、ティレーリアはヴィリディスを見上げて、それから目の前の女性を見上げる。
「ヴィー……あの……この方、は………」
恐る恐る小声でヴィリディスに尋ねると、ヴィリディスが答えるよりも先に女性が口を開いた。
「これは失礼、人の子よ。 我はエリアディール。 精霊の王をやっているよ」
「せっ………!?」
驚いたのは、ティレーリアと、ベルトールとバルドルフだけだった。
という事に気づいたバルドルフが「何でお前ら驚かないんだよ!?」とエレナとリュシアンに詰め寄っている。
二人はあっさりと「お会いしたことがありますから」と答えた。
「花嫁候補から、外した?」
コーデリアの呟きに、ヴィリディスがエレナを見る。
「魔力からすると、そこの魔法士じゃなくてティーアが選ばれているか、もしくは候補が三人になっていたはずだ。――そうだろう?」
ヴィリディスに睨むような視線を向けられて、エリアディールは目を細める。
「そうだな。我も最初は三人選ぼうと思っていたんだが――つまらないだろう?〝魔王のお気に入り〟を入れてやるのは。だから外した。お前がどうするのかも、見てみたかったしね」
「退屈しのぎに人で遊ぶな」
「実際退屈なんだよ、我は。とてもね」
「だったらさっさと隠居すれば良いだろ」
「〝精霊王〟はそうもいかないんだよ。魔王は良いね、百年ぽっちで代替わりが出来て」
ほぅと愁いを帯びた表情で溜息をつく精霊王のその姿はひどく美しいけれど――
魔王と精霊王の会話の内容に、人間達は顔を引き攣らせる。
六十年ぽっちしか生きられない人間には、在位期間が百年 というだけで相当だ。
〝百年ぽっち〟と言う精霊王は一体何百年務めるのか――
そんな人間達の心の内を見透かしたように、エリアディールは「五百年くらいだな」と返した。




