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似て非なるもの  作者:
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侯爵令嬢

悪役令嬢その1、侯爵令嬢視点。

 ──ああ、何と愚かなこと。

 公衆の面前で誰憚ることなく披露される、幼い頃よりの婚約者の姿と振る舞いに、わたくしは扇の陰で溜め息をつきました。




 ここ王立学園の食堂で、その中心を占領している、否応なく目を引く集団──第一王子殿下を始めとした、学園を代表する高位貴族令息方と、彼らに囲まれた一人の少女。

 確か、入学直前に子爵家に入られたばかりの妾腹の令嬢でしたか……平民育ちという境遇を踏まえれば無理もないこととは言え、マナーの「マ」の字も知らないような立ち居振る舞いは、入学から半年が経過した今でも何ら変わりなく。これは致命的に物覚えが悪いのか、やる気そのものがないのか、もしくはマナー自体をどうでもいいものとして眼中の外に置いているのか。

 わたくしの意見としては最後ですわね。彼女はさほど身分の高くない子爵家の中でも、やや下に位置する家格の令嬢。今のままで身分の高い殿方にこうもちやほやされるのなら、あえて面倒な思いをしながらマナーなどを身につける必要性などありませんもの。ええ、無論「愛人狙いであれば」という条件が付きますけれど。だって皆様、れっきとした婚約者がいる方々ばかりなのですから。


 第一王子殿下には、王弟であらせられる大公殿下の一人娘、「孤高の薔薇」と称される気高くも敬愛すべき公女殿下が。宮廷魔術師長の次男には、国内きっての才媛と名高い次期女公爵閣下が。騎士団長子息には、「白き御手」と讃えられる稀代の癒し手である伯爵令嬢が、婚約者として周知され、王家よりの承認も得ております。

 かく言うわたくし、侯爵の端くれである家の令嬢にも、先ほど述べました通り婚約者がおります。宰相家の嫡男でいらっしゃる彼とは幼い頃よりの付き合いで、恋愛感情はなくとも平穏な結婚生活が送れると確信していた程度には交流も深く、順調な交際だったと思っていたのですが……やれやれ。


「……いずれ側近くに仕え、お支え申し上げるべき御方の寵姫に本気になるなどと。本当に彼は、何もご存じないのね。いえ、知る気自体がないのかしら……」


 本来の彼は、そんなにも視野の狭い人間ではなかったと記憶していたのですけれど……つまりはそれほどに、あの子爵令嬢に傾倒しているということなのでしょう。

 恋だの愛だのという甘い感情はないが、幼馴染みとしての情はある。彼の将来がどうなるかなど、とうに分かりきってはいるものの、せめて可能な限り安らかな終わりであることを願う。


 ──近く婚約者ではなくなる女からの、最後の手向けとして。

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