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運命、狂いはじめました

「うおおおおお言質は取ってるんだよおおおお!!!!!!!!!!!」

恋愛要素0、むしろ爆破要素の方が多い

そんな婚約破棄の話はお嫌いですか!?





よくある話だ。

とてもよくある、婚約破棄でしあわせ系令嬢の話。

テンプレ的に言うならば、

婚約破棄→別の婚約or婚約者が追いかけてくる→『じつは好きだった〜』→ヒロイン絆される→おわり

って奴だ。



これは、そんな令嬢が、運命の介入者によってハチャメチャになる最高のラブストーリーぶち壊し物語である。








「婚約破棄です」

「へ?」

「貴方にはもう付き合ってられません」

「はあ…」

「お金は出してあげるので、精々どこにでも行ってください」

「あ、ありがとうございます…?」

どうしてこんなことに。

私、ドロレス・ペリー。花盛りの16才です。

先日まであれ程「僕はドリーの婚約者ですから」なんて私の地獄のような苦しみも知らずほざいていた男が、急に婚約破棄を告げてきました。



……ま、正直に言いましょうか。

私、今、すごく動揺してます。

悲しいんじゃありません。嬉しいんです。

出来ることなら今すぐこの場でバク宙して大声で「かあさ〜〜〜〜〜〜ん!!!!今帰るよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」って伝えたいくらいなんです。出来ませんけど。

「もう、下がってもよろしいですか?テレンス様」

「…僕の名を呼ばないでください。下がって結構」

「はい」



「ィよっしゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!脱☆公爵家!!!!!!」

私は1人、つい先程まで自分の部屋だった館の端の部屋で足をばたつかせました。

肩身は狭いし勉強は難しいし挙句の果てには家族との連絡すら検閲・遮断されてたから本当に本当に本当にこの婚約破棄は嬉しかったのです。

「お母さん、びっくりするかな。お父さんもきっと泣いちゃうだろうし...ああ、グレッグとネルにお土産を買っていこう。それに、それに…」

ずっと願っていた、旅へ出られるかもしれない。

そんな淡い期待に胸を躍らせて、私は荷造りを始めました。




そのままトントン拍子に事は進み、今はすっかり門の前。

「それでは、さようなら」

見送りにすらこないあの男の事など放っておいて、さあ1歩を踏み出しました!

待ってろ私のスローライフ!



と、思った次の瞬間に、私は手を引かれました。

もしやと思って振り返れば、そこにはテレンス様…

ではなく、普通の顔の人でした。

あんまりにも普通すぎてまじまじと観察してしまいましたが、本当に…なんというか…

「特筆すべきところの無い顔の方ですね…」

「はは、よく言われます」

あら、笑って流してくれました。良い方のようね?

「すみません、私ったらとんだ失礼を」

「いやいや良いんです。ただその、すこしご用事が……」

「え?」

それにしたってこんな、人の門出を邪魔することは無いでしょう。

ほら、使用人さんたちもみるみる顔がこわばって…

あれ?

「私、婚約破棄したんじゃないんですか?」



「ドロレス様からその手を離しなさい、この下民が」

「仮に俺が下民だったとして、どうして俺がこのお嬢様の手を引いちゃいけない理由があるんだい?」

「え、あの、私もう別にここの人じゃありませんけど」

「それは……」

使用人さんたちが口ごもる。何か問題が?

「おやおや何だか知らんが、制止しないんならちょいとばかし貰ってくぜ」

ひょい、と私の体を持ち上げると、特筆するところの無い顔の方はスタコラサッサと進みました。

…あれ、私誘拐されてませんか?



「人さらいー!人さらいがいますー!!」

「わっとと、急に大声出すなよお嬢ちゃん!」

「だってだって私今、攫われて……」

「舌噛むから黙ってな!」

とにかく助けを呼ぼうと口を開くと、たしかに酷い揺れで舌を噛んでしまいました。

「あう!」

「そら、言わんこっちゃない」

「う〜〜〜」

「悪いけどまだ追ってきてる、止まってられないんだよこっちは!」

私を抱えているにもかかわらず、特筆するところの無い顔の方…ええと、長いのでトクナシさんと呼ばせていただきます…は、軽々と塀を越え、曲がりくねった道を何でもないように進みました。

それにしても、力が強い。

もがいてるのに全く力は緩まず、むしろ疲れるだけなのです。

私、売り飛ばされるのかな。散々な人生だったな。

少し前までの希望に満ちた私は今やどこにもおらず、今はただ少しでも楽になれればいいと思っていました。



「取り敢えず、一旦ここらでいいかな」

「へ?」

また、身体の浮く感覚。私のことを猫や何かと同じように、肩から下ろして立たせてくださいました。

「よっと…失礼しましたお嬢さん、先程は乱暴な口調になってしまって」

逃げていた時とはうってかわって優しい物腰になり、最初に話しかけてきた時と同じような丁寧さでトクナシさんは話しかけて来てくれました。

「いえあの、それは…別に…構いませんわ」

「ありがとうございます」

トクナシさんは、これまた特徴のない普通の笑顔でお辞儀をした。

「それで、その…私、どうなりますの?」

「それはご令嬢の選択次第です」

「私の…」

それはつまり、今死ぬか、奴隷になるかの二択を選べってことでしょうか。

「まあ、そうですなあ…このままあの貴族に捕まって洗脳まがいの甘々ライフを送るか、それともほんの少しだけ俺といるのを我慢して自由を手に入れるか」

「うーん…そうですね…奴隷になるよりはいっそ今死んだ方が………」



……………え?

「え?」

私の頭の中のクエスチョンマークと、トクナシさんの声が重なる。

「い、いま、なんて仰られたのですか!?」

「…貴族に囲われるか、自由を手に入れるか…っていうふたつの選択肢ですよ」

「拷問とか釜茹でとか奴隷では無く!? 」

思わず詰め寄ると、トクナシさんは声を上げて笑いました。

「はっはっは、そんなこと、そんなことする訳ないじゃないですか!」

「なっ…で、では、なぜ私をお攫いになられたのですか?」

「そりゃまあ、このままだと先程言ったように貴族にでろでろにされるからですかね」

「でろでろ?」

私が?

いや、そんな訳はないのです。

だって私、あの方のこと好きじゃないですし。

「ですが、私は…」

「別にどうとも思ってないんでしょう?」

「えっ」

「むしろ婚約破棄を嬉しく思ってる」

「どうしてその事を…!?」

「まあなんというか、詳しいんですよ、そういうのに」

「そういうの…?」

一体何故、と考え込んだものの、私そもそも深く考えるのが苦手な性でして…

むむむ、と眉間にシワが寄ったところでトクナシさんがパンパンと手を叩きました。

「細かい話はあと。とにかく、どっちか早めに選ばないとまたアイツらが来ちまいますよ」

「私…私は…」



逃げてもいいの?

お父さん、お母さん、グレッグ、ネル。

一人一人家族の顔を思い出してもういちど問う。

「逃げてしまっても、良いんでしょうか?」

『公爵様が私との婚約を破棄した』ならばみんなきっと、許してくれるでしょう。

でも、『私が勝手に公爵様から逃げた』となれば?

きっとみんなは私のせいで苦しんで、もしかしたらいわれのない罪で…いえ、『私の』罪で罰せられるかもしれません。



そんなふうに、逃げるのを諦めようとしていた時です。

「…どうして、躊躇うんですか?」

「だって…私、私のせいで、家族に迷惑が…」

「ああ、そういう事ですか」

トクナシさんは、腑に落ちたという顔で私に語りかけてきました。

「それなら何にも心配いりません。言ったでしょう、貴族さんはお嬢さんをでろでろにするって」

「何故ですか?」

「あの貴族さんが望んでるのは、ご令嬢…貴方と、相思相愛になって、あなたを心から手に入れる事なんです」

「はあ…」

「だからこそ、家族を脅しとして使う事はあるものの、危害を加えるようなことは一切ありません。あなたが家族思いだって事を十分リサーチしてますからね」

「そこまでして私を手に入れたいのに、どうして婚約破棄なんて…?」

「大方、ショックを受けて欲しかったんでしょう。押してダメなら引いてみろ、ってね」

引いてもダメなんだけどね、とトクナシさんは肩を竦めました。

「それで?あと不安な要素は?」

「不安…」

家族は無事。私は自由。ついでに何故かは分かりませんが、トクナシさんも目的が達成出来る。

「ありませんね」

「おや、それじゃあ腹を括った感じですかね」

「ええ」



「私、逃げます!」






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