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スキル


「メリッサが弟子を取るなんてね」


 学園長室で、入学の手続きを終えた後、メリッサは、勇者パーティの仲間だったレーナの研究室に来ていた。整頓された書物に囲まれた研究室。その真ん中のテーブルで、レーナと対面しながら、紅茶を飲んでいた。

 あの頃と、ほとんど変わらない童顔で、年齢を感じさせないレーナ。透明なサファイアの目に、空色の髪。


「違うのよ。アリアは、あいつの弟子。第三十八回勇者遠征の勇者の弟子よ」

「あのロリコン、まだ生きてた」

「辛辣ね」

「初対面の相手に、合法ロリとか言う人間に、気は遣わない」


 たしかに、転生者らしい調子のノリようだった。転生者は、なんらかの強いスキルを一つは持っているし、勇者と呼ばれるだけはあって、恵まれたスキルを持っていたから。勇者認定されるには、一つの驚異的なスキル、もしくは相性のいい数個のスキルの保有が必須になる。


「それで、なんでメリッサが引き取ってるの」

「ツテが他にないからでしょう。それと、普通の暮らしをさせたいんだって」

「ん、すればいいんじゃない。べつに、だれもとめない」


 レーナは興味なさそうに、答える。

 そうなんだけどね。メリッサは、紅茶を飲んで、一拍おく。

 アリアの髪色のような紅茶の色。あの子が、普通の道に進めるかどうか。


「学園長のアッシュベルには、言ってないけど。――アリアは、《限界突破》のスキルを持っているのよ」


 レーナは、手に持っていたカップをとめて、メリッサの方を怪訝な目で見る。


「メリッサ、《限界突破》のスキルは、魔族の固有のスキル。しかも生得スキルの中でも稀少。人族が持っているわけがない」


 そう持っているわけがないのは、メリッサも分かっている。エルフ、ドワーフ、ドラゴニュートーー、ある種族のみが獲得できるスキルがある。他の種族がどれだけ欲しくても、得ることができないスキル群。その中でも、魔族の《限界突破》は、魔族の固有スキルでも最強の部類で、歴代の魔王が必ず持っているとされるものだ。

 突然変異で珍しいスキルを持つ人もいるし、スキルのために人体実験までされてきているが。アリアが、なぜ持っているのかは、分からないけれど・・・・・・。


「実際、持っているから問題なのよ。あの子の今の能力は、完全に異常よ」

「じゃあ、普通の暮らしは、無理。次の勇者認定されるか、パーティに同行することになる、最悪の場合は、審問にかけられる」

「レーナ」

「隠せってこと。でも――」

「隠蔽のスキルもあるわ」


 隠蔽スキルがあれば、鑑定されても誤魔化すことができる。


「めんどうごとね」

「わたしも頼まれたんだけどね」

「ほぼ丸投げ、わたしに」

「お願いね」


 勇者パーティでも、ほとんどの面倒ごとは、レーナが処理していた。天才魔法師でも、メリッサと違って、社会と上手く折り合いをつけている彼女。魔女の家で、街外れに暮らすメリッサのように、半ば隠遁している人間とは違う。パーティの一番の苦労役だった。あとから問題が起きるより、レーナに任せておいた方が、問題はなかった。


「はぁ、それで、隠して普通に暮らすなら、別に学園に通わせなくても――」

「親心なんじゃない。学園卒なら仕事に困らないし、それに、アリアは、全然、この世界について知らないから」

「仕方ない。やれるだけはやってあげる」

「さすが、レーナ」


 レーナは、嫌そうな顔をしながらも、引き受けてくれた。だから、昔から、結局、いろいろ頼まれてしまうのだけど。


「で、実際、アリアはどれくらいできるの」

「この校舎を、魔法3発で壊せるようね」

「壊させないでね。きちんと――」

「大丈夫。抑えるようには言っておいてるから。何度も」

「信じておく、一応」


 メリッサは、紅茶を飲み終える。入学手続きも終えたし、旧友への頼みごとも終えた。

 さて、アリアは、おとなしく待っているかしら。

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