入学前
制服に袖を通す。すこしブカブカですけど、大きくなったら似合うはずです。
ブルーカラーの制服。金色の刺繍がいくつか。ゴテゴテ感ありますね。
そんなことより、スカートです。強制スカートです。
ああ、これから、みんなに見られるんですよね。
師匠にだけ見せたいのに。映像魔法とかないですか。写真というものがあればいいのに。師匠曰く、映像記録できないのが残念らしいです。よく、わたしの成長記録を撮りたい、といってましたし。
師匠、わたしの顔を見なくて平気なんですか。一日千秋ですよ。メリッサさんには、伝わらない言葉でしたね。
「アリア、授業を真面目に受けて、友達もたくさん作るようにね。それから、スキルや魔法は、周りと同じくらいにね」
きっちり着ているつもりが、しっかりと、メリッサさんに直される。そして、ローブをかけられる。魔法使いは、これをかぶる決まりでもあるのでしょう。動きづらいだけに思えるのですが。上級魔法を使えるので、少し立派なやつらしいです。
「はーい。友達百人作ってきます」
「そんなことは言っていないから。座学で落第しないか、心配になる」
「師匠の英才教育に死角はないのです」
「この世界の歴史について、何も知らないようだけど」
「所詮、歴史は物語です。憶える必要ないです」
「はあ、師匠が悪いようね」
「師匠は、必要なことは全て教えてくれましたよ。力こそすべて、です」
「その教えは、すぐに忘れておきなさい。毒されてるから」
師匠の言行録は、だいたい、この頭の中にあるのです。矛盾だらけで、意味不明ですけど。使い勝手が良い言葉が多いです。師匠は、前期と後期で言うことが変わるけど、哲学者は、それが普通だ、と言ってました。
謎です。哲学者って何ですか、と聴くと、「深淵が――」なんとか言って、うん、これは忘れました。眠かったんです、きっと。深い言葉なんでしょう。
「レーナさんに、会いにいけますね」
あの魔法の操作は、すごかったです。師匠にも、できませんよ。
「レーナが、大好きなのね。弟子同士で、仲良くしないの」
「え、だって、何もメリットないですよ。ミアさん、弱すぎるじゃないですか」
「あなたの師匠は、弱い人を助けるように言わなかったのかしら」
「うーん。弱者に用はない。弱い者は奪われるだけだ、弱さは罪だ、とか」
「あのクズ勇者は・・・・・・。――でも、それだと、あなたを育てないでしょう」
なんだか前半に、ぽつりと師匠の悪口が聞こえた気がしますが。
「そうですね。わたし、師匠より弱いです。あ、分かりました。教えることで学ぶ、というやつですね」
「今は、それでいいけど。――人は成長するのよ。だから、敵を作らないようにね。あなたの師匠は、人間関係の師匠としては、落第でしょうから」
「・・・・・・師匠は、よく自分はコミュ障だって言ってました」
自分が言いたいことを上手く言えないって、言ってました。わたしに、愛している、と素直に言ってくれた例もないです。ごまかすんですよ、卑怯です。まぁ、わたしもおかげで、ごまかすテクニックがあがりましたけど。必殺は、聞こえないふりです。
「自覚があってよかったわ。じゃあ、そのコミュについては、他の人から学んできなさい。そうすれば、あの鈍感男も落とせるようになるかもしれないわよ」
「メリッサさん!今、分かりましたよ。つまり、わたしは、学園に師匠の籠絡手段を学びに行くんだって」
「アリア・・・・・・」
メリッサさんが、帽子を深くかぶリ直してます。
この仕草は――。
「さー、行くわよー」
「メリッサさん、すこし呆れてないですか」
わかりますよ。そろそろメリッサさんとも三ヶ月ですからね。
まぁ、いいですよ。年上の女性と暮らすのも慣れてきましたし。そういえば、師匠は、母親がいないから寂しいだろう、とか言ってたなぁ。どうなんでしょう。いまいち、わかんないですね。師匠がいない方が寂しいです。でも、わたし、いい女なんで、我慢です。我慢。




