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笑う男

作者: くらいいんぐ
掲載日:2021/05/08

いつでも笑っている男がいた。


上司に怒られている時も、彼女にフラれた時も、いつも笑っていた。


まわりからは、「気持ち悪い」「なんだあいつ」と言われ、まともに話をしてもらえなかった。


それでもその男は笑っていた。


そんな男がある日、会社を数日休んだ。


なにも知らない周りの社員は、その男が出勤すると、その様子をうかがった。


しかし、その男は、いつものように笑っていた。


まわりは、風邪かなんかだったんだ、と思っていた。


ある社員が・・・その男が目につく社員が、上司に進言した。


「あの笑ってばかりいる社員が、数日間休んだせいで、仕事がこちらに回ってくるんですけど。」


上司は言った。


「実はな、彼の母が亡くなったんだ。それで休んでいたんだ。」


その噂は、会社中に広まった。


ただ、それでも会社では、男は笑っているので、頭にきた社員がその男に言いに行った。


「おまえ、なにヘラヘラしてんだよ!親が亡くなったなんだろ!」


笑う男は言う。


「そうだね、亡くなったね。もっと笑わなくちゃね。」


「おまえ、おかしいんじゃねぇか。悲しくないのか?」


「悲しいさ。でもね、泣くともっと不幸になるから。」


「・・・どういうことだ?」


「亡くなった母が言ってたよ。どんなに辛い時も、悲しい時も笑っていろと。幸せは笑う人にしか来ないと。」


どうやら、事情がありそうな雰囲気だったので、詳しく聞いてみた。


するとこうだ。


母は、昔から笑いなさいと言って、その男を育てたらしい。


なぜなら、笑うことでみんなが幸せになるから。


でも、男は信じなかった。


そんな折、母がある病気にかかった。末期のガンだ。


その男は、なんでもするから母の病気を治して欲しいと願った。


母に何が欲しい?なんでもしてやると言い切った。


すると母はこう言う。


「笑っていて欲しい。それだけ。」


男はそれから笑うようにした。


どんなに辛い時も、どんなに悲しい時も。


でも、そんな母も亡くなった。


こんなに辛いのに悲しいのに、笑っていないとやっていけないよ、とその男は言う。


聞いた社員は黙っていた。


笑う男は、笑いながら一筋の涙を流していた。


数週間後、笑う男の転勤が決まった。


もう、笑う男の悪口を言う社員はいなかった。


笑う男は、「お世話になりました」と挨拶をする。


笑う男も笑っていたが、まわりの社員も笑っていた。


それは、涙をこらえての笑いにもみえた。 しかし、その営業所の全員が笑っていた。

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