雪の妖精
読もうとしてくださった方、ありがとうございます。
良かったら、最後まで読んでください。
ぼくは雪の妖精。吹雪、って名前なの。
ぼくのお仕事は、世界中に雪を降らせること。
雪の妖精は、ぼく一人。だから、冬が来ると大変なの。
…え?暖冬?
それはね、ぼくが病気の年だよ。たまに病気になっちゃうの。
でも、心配しないで。次の年には、必ず帰って来るから。
今日もお仕事。ぼくが雪の粉を放てば、それが雪雲になって、雪を降らせてくれる。
雪の粉は、銀色で、天の川みたいに、キラキラと輝いているんだ。
…ふう。疲れたし、そろそろ休もうかな。
ぼくは、一軒の家に入る。もちろん、人間には、風でドアが開いたようにしか見えないんだろう。
「おや?妖精さんかな?」
いや、見える人もいるみたいだ。ここは、フロイトさんの家。随分と歳を取ったおじいちゃんだ。
彼は、暖炉に薪をくべ、ひじかけいすでくつろいでいた。
「今日は、クリスマスだからのぅ。わしも、いつもよりやわらかめのパンを、市場で買ってきたんじゃよ。」
そうか。今日は、クリスマスだったのか。すっかり忘れていた。
サンタ・クロースさんは、さぞかし忙しいだろう。
ぼくは、フロイトさんがウトウトしてきた所で、家を出た。
「今日は、仕事はどうだったかな、吹雪君。」
「うん、まあまあかな。それより、サンタさんは?」
[最近、運動すると、腰が痛くての。しかも、子供たちのたのむものが『げえむ』とか『かせっと』なんじゃ。ハイテクすぎて分からん。」
「ハイテクっていう言葉を知ってるサンタさんもハイテクだよ。」
ぼくは、ぼそっとつぶやいた。
「それより、自分は見つかったんかの?」
「それは、まだ。」
「そうか。まあ、吹雪がいてくれた方が、サンタのじいちゃんはうれしいがの。」
妖精はもともと、人間や動物、植物だったものが多い。物だったのはめずらしい。
この世を去るときに、心残りがあると、妖精になる。
そして、自分が誰だったかを忘れてきてしまうのだ。
自分を思い出したとき、妖精は生まれ変われる。
きっと、ぼくも、心残りがあったんんだろうな。
その後のある日、フロイトじいさんの家に行くと、だんろの中に、小さな妖精がいた。火の妖精だろうか。
「誰?雪の妖精さん?」
外見の赤い髪に黄の瞳に似合わない、すきとおるような声だ。
「ぼくは吹雪。君は火の妖精?」
「うん。日火っていうの。」
彼女は、まだ妖精になったばかりらしい。
火の妖精は10人くらいいるから、うらやましい。
それから、ぼくと日火は、フロイトじいさんの家で会うようになった。
「私ね、火の外に出たら消えちゃうんだ」
「うん。火の妖精だからでしょ?」
「そう。でも、最近、外に出たい、と思うようになったの。」
「ぼくも、火の中に入りたくなったよ。」
ぼくも、日火も、お互いに惹かれているような気がした。
きっと、きっと、過去が関わっているんだと思う。
日火が火から飛び出した。
ぼくも、日火にちかづく。
日火の手をつかんだとたん、体が焼けるのを感じた。
そうだ。ぼくは、日火は。
鮮明に記憶がよみがえってきた。
ぼくは体が小さく病弱だった。外でも遊べなかった。
そこに、お母さんが手袋を買ってきてくれた。
それが、日火だった。
ぼくは、日火といっしょに遊んだ。でも、1時間もたつと、せきが止まらなくなり、ねこんだ。
その3日後、ぼくは死んだ。
ああ、だから、こんなに日火に惹かれたんだ。
生まれ変わっても、日火と近くにありたい。
「おや?妖精たちは、どこに行ったのかな?」
フロイトじいさんが2人の妖精が消えていった方向を見て、首をかしげた。
「吹雪がいなくなって、サンタじいさんはさびしいよ。」
月を見上げたサンタ・クロースは、ため息をついた。
「雪の妖精、探さなくてはの。」
日本のある町。お母さんと、小さな息子が冬の町を歩いていた。
「お母さん、この手袋、日火っていうんだよ。」
「まあ、そうなの。いいわねえ。」
男の子の顔には、笑みが浮かんでいた。
その冬は、暖冬だった。