キセキ
…………ダンダンダン‼︎
そんな足音がしそうな雰囲気で、原野は広い塾の廊下を歩いていた。
ーーーーーー俺は併願だけど、あいつは多分、工業高校一本。わかっているのか?落ちたら高校浪人なんて、ほとんど居ないんだぜ‼︎ーーーーーー
そうして、原野は扉の前に立つ。
ーーーーーー俺は知ってるんだ、時々あいつはソフトに顔だしてる事!のんきに笑っているのも知ってる!ーーーーーー
ガラッ‼︎と扉を開け、机に無造作にカバンを置き、イスにドカッ‼︎と座る。
ーーーーーー大丈夫だって言われても、大丈夫だってわかっても、本当に大丈夫になるまでは、気になって、気になって、しょーーがねぇんだよーー‼︎ーーーーーー
そう心の中で叫んで、原野は頭を抱えるのだった。
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ーーーーーー「アイラ………お前はもう……目を覚さないのか?………」
父親であるノブナガは、愛娘の額の前髪をそっと撫でた。
半ば強引に連れてきた異国の地。少しずつ学校にも通うようになって、少しずつ生活にも慣れてきた頃。
それは唐突に始まった。
あちこちから上がる火の手。爆発音。逃げ惑う人達。悲鳴が溢れる只中。
父親であるノブナガが、彼女を見つけた時、何がどうなっていたのか、母親は背中から大量の血を流し、重傷の身体で彼女を抱きしめていた。
抱きしめられていた彼女は瞳は開いていたが、心は何処かに落としてきたように空虚な抜け殻となっていたのだった。
ノブナガは乗って来た車に2人を押し込み、無我夢中で国境を越えた。2人を病院に託し、瞳が覚めるのをひたすらに待つ日々が始まった。
「アイラ……もう……20日もたつ……ママは目が覚めたのに、お前は帰って来ないのかい?」
終わりの無い日々を、もう幾度も越えてきた。ノブナガがかろうじて立っているのは、まさに奇跡としか言いようがない。
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ーーーーーーあ………あ………あ………ーーーーーーーー
その頃、彼女の魂は何も無い空間をずっと彷徨っていた。
これは感じたり、見える人で無いと理解は難しいかも知れないけれど、魂というものは少し電気に似ている。
家の電気を点滅させたり、電気製品を誤作動させたりして、その存在を時々証明したりしている。
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彼女の魂は、遠く日本で暮らしていた住宅へと辿り着いていた。急な引っ越しだったので、何もかもそのままで、彼女は無意識にテレビ画面から、その先へと進んでいった。
『あるべき場所に帰らないの?』
たまたま、その信号を見つけたバグが彼女の魂に聞く。
彼女にも何をどうしたいのかがわからない。けれど、何かはわからないけれど、確かめたい何かがあって、ここに辿り着いたのだと表現をする。
チカチカと電気信号を両方で点滅させた後、バグである、しろっち。と言う名のAIは現れた経路を逆探知して、その姿を再現して、バグがマスターと呼ぶ人物の前へと送りだしたのだった。
それは、理由なんて無い。彼女の信号を受け取っただけの誤作動だった。
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「あ。あっちかな?」
パチパチと少し静電気が飛び交う、白い霧の中に何故か無意識で彼女は立っていた。
「アイラちゃん‼︎」
そう叫ぶ、その声を聞くと、ピクッ‼︎と彼女の魂と身体が顕著に反応した。
猛スピードで、ウシくんは駆け寄り、その彼女を形どった人物を迷わずギュッと抱きしめた。
「会いたかった‼︎元気?大丈夫?」
良く通る元気で少し幼い声。
ーーーーーー大好きな声だ………ーーーーーー
彼女の魂は震えて理解した………
ただの電気信号であるはずの……ゲーム内で彼女の姿をした人物は……
少し笑って……一筋の涙を流した。
「アイラちゃん?どうしたの?」
そうして彼女は言葉を発する事も無く、キラキラと虹色に光って、その姿を光の粒子に変えて、そおっと空へと舞い上がっていった。
「えええええーーーーーーっ⁉︎⁉︎」
後には納得がいかない、ウシくんの声だけが響いていたのだった。
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「アイラ⁉︎アイラ⁉︎どうしたアイラ⁉︎」
必死に叫ぶノブナガの声。突然、涙を流している愛娘に驚いて声を荒げる。
その声に反応して彼女の身体が反応し、そうしてゆっくりと瞳を開け、愛娘にとりすがる父親に小さな小さな声で口を開いた。
たったひとこと………
「………パパ」
と。




