トワさん
「ごめんなさい。つい、ぼんやりしてて……」
小さな妖精は、『トワ』と名乗った。
「俺は『アユム』でも、みんなには『ウシくん』って幼稚園の頃から呼ばれてる。」
「そう。ウシくんは小学生なの?」
フヨフヨと宙に浮かびながら、トワさんが尋ねる。
ウシくんは、少しムスッとして
「中学生。3年生。」
と、そう答えた。
「わ。ごめんなさい。つい、話しの流れで、それと、声。可愛くて……ごめんなさいね。」
「その『ごめんなさい』をやめよう。」
「あ……はい……ごめんなさい……」
どこかの先生と生徒の会話のようなやりとり。その後は……
ーーーーーーしばしの沈黙ーーーーーー
「そう言えば、なんで、そんな小さな姿に?戦えるの?」
沈黙を破ったのは、ウシくん。不思議に思った事をすぐに口にしてしまう。
「ううん……戦う……と言うより……このゲームの世界を、空から、ホラ。ドローンで見ているみたいに見てみたいと思って妖精を選んでみたの。」
「ふうーーん。」
「でも。普通に視点は自由に変えられる事は、始めてから知ったけどね。」
そう言って、トワさんは小さく笑った。それから再び2人は黙りこくって……
「「あのっ!」」
そうして声がハモった。
「俺。まだこっちに来たばっかりで、レベル1なんです。よかったら、レベル上げに付き合ってもらえませんか?」
「あ。はい。こちらこそお願いします。私もレベル1なので。」
「え?トワさんも始めたばっかり?」
「いえ。初めたのは冬頃だけど……」
ーーーーーーちょっと現実逃避したくてーーーーーー
ーーーーーー(byトワさんの心の声)ーーーーーー
「え?」
「1人でフィールドに出るのが怖くってーー」
「え?」
「つい『シールドクリア』を使ってしまってーー」
「え?」
「姿を隠す魔法です。」
「………。」
「………。」
「レベル…上げなくて大丈夫な感じ?」
「いえ!上げたいです。上げないと他の町に行けないし。」
ぶんぶんと頭を横に振るトワさん。ちょっとホッとした様子のウシくん。
「よかったーーじゃあ、レベル上げ。行こう!」
そう言って、ウシくんは駆け出し
「ちょ、ちょっと待ってくださーーいーー」
トワさんはその後を慌てて追いかけてゆくのでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「すごい!回復魔法、完璧やん!」
「いっ、いえ、使うのは初めてで……」
「助かります!」
ーーーーーーカキーーーーンッ‼︎ーーーーーー
ウシくんは剣を振るう。最初、あんなに苦戦していた、カーマーキーの鎌と、ウシくんの剣が合わさり金属特有の音をたてる。
ウシくんは機敏に一度後方に飛び去って、改めて剣を構え、走りだすと同時に剣を倒し横切りにーーーーーー
ーーーーーーシュパッ‼︎ーーーーーー
光と氷の剣『ホワイトムーンソード』は光と氷の粒をキラキラと撒き散らしながら、あっさりとレベル6のカーマーキーを切り裂いた。
残像は光のカケラとなって光ながら、サラサラと消えていった。
「すごく綺麗ですね……」
「うん。」
2人はレベル3になっていた。
「レベル10になると、東の町。レベル15になると、西の町と北の塔辺りに行けるようになる……と思う。たぶんだけど……」
「そうなんですね。東の町では『砂金集め』西の町では『魚釣り』が出来るようになるんですよね。」
ちょっとワクワクした感じでトワさんが問いかける。対してウシくんは………
ーーーーーー砂金集めーーーーーー
心の中で、アイラちゃんの笑顔が浮かんで消えた。
ーーーーーーしばらくの沈黙ーーーーーー
沈黙を破ったのは今度はトワさん。細く小さく、呟くような、か細い声………
「………私ね……病院で働いているの………」
「看護師さんですか?」
やけにはっきり問いかけるウシくん。
「………っ………まあ………まだ……卵なんだけど………」
「うん。」
ちょっとたじろぐトワさんに対して、やけにしっかりうなづくウシくん。
「………まだ……研修の段階なんだけど……なんか……まいっちゃって………」
そう言うと、トワさんは体育座りをして、膝を抱え、顔を沈める。
「……教えてくださる先輩によって、優先順位が違うのよ……それで……人によっては……めちゃくちゃ怒られる……命を預かるお仕事だから、当たり前なんだけど……」
そう言うと涙声になって……
「……辛い」
と、小さく小さく呟いた。
「うん。」
ウシくんは遠くを見つめ
「あ。そうだ。飲み物とってくる。」
そう言って、ギアを外した。外しながら
「トワさんも、何か飲み物とかとってくるといいよ。休憩、休憩。」
そう促した。
「そっか……」
トワさんもゆっくりとギアを外す。周りを見回すと、いつもの自分の部屋。
「……誰も……私の話しなんか……聞きたくないよね……」
そう言って、涙を拭ってキッチンに向かう。顔を洗って……飲み物……じゃなく、冷凍庫から小さな棒付きアイスを持ってくる。
画面の中のキャラ2人は、おのおの待っているポーズをしている。片足をぷらぷらさせたり、おもむろに空を仰いでみたり。
「なんか、可愛いな……」
そう呟いていた。
「ごめん!トイレも行ってたーー‼︎」
とたん画面から、元気なウシくんの声。こちらに向かって、ぶんぶんと手を振っている。
その姿を見て、トワさんはくすっ。と少し笑って、口に入れてたアイスの棒を小さなお皿に置き、ギアをつける。
「大人になっても勉強はいる?」
唐突なウシくんの質問。
「うん。いるかも。」
トワさんの落ち着いた返事。
「俺。勉強が壊滅的に苦手で、特に国語がダメで、来年、高校受験なのに、どうしようもなくて……」
「うん。」
「トワさんは俺よりも、全然頭良いと思うので……」
「え?そんな事ないよ。」
「だから、全部受け取って、その中で、トワさんの最優先事項をトワさんが決めたらいいと思う。」
「えっ?」
「『こちらも大事だけど、私にはこちらの方が1番大事でした。』って、堂々と言えるように……」
「……すごい。」
「えっ?」
「ありがとう、ウシくん。」
「ええっ?」
「なんか元気でちゃった。そうだよね。ありがとう。もう一度考えて、もう一度頑張ってみるね。」
「トワさん。」
「ウシくんも受験。頑張ってね。」
「ゔっ……」
思わず言葉に詰まるウシくん。
「わかっているんだけど……苦手なんだよ……勉強って……」
いじけてぶつぶつと呟く。
「ふふっ。ごめんね。初めてゲームで会ったのに、愚痴聞いてもらって………君のキャラが、アニメの○治郎の師匠の○岡さんに似てたから、つい親近感というか、話しかけやすくて……」
「○治郎のファンなの⁈」
突然スイッチが入るウシくん。
「……え……どっちかと言うと……○岡さんかな。」
ちょっとびっくりのトワさん。
「そうなんだ!アニメは?見てる?」
ーーーーーーその後。スイッチの入った、ウシくんと、ちょっと引き気味のトワさんとの、アニメ談義はしばらく続いたのでしたーーーーーー




