サーバー2
「そうか……いろいろな事があったんだね……辛かったね……」
マノヤはそう言って、ウシくんの頭をそっと撫でた。
ここは学園。マノヤさんの準備室。実はつい1時間ほど前に、ウシくんと同じ報告をしに、原野が来ていた。
原野は最後に、
「しかたないっすよね。」
そう言って笑っていたのだが。ウシくんは……
「…………」
けっこう無言だった。
「また会える時は来ると思うよ。携帯だって復活するかも知れないし……」
マノヤの言葉に、ウシくんはポツリと呟くように
「そうですね……」
と、返して、それ以上の言葉は出てこなかった。
ーーーーーー何もかも手の中から消えてゆく……世界が変わってゆく感じがする……ーーーーーー
そう心の中で呟いて、ふと頭の中に白黒の遠い画像が浮かんだ
「あれっ?」
その画像はまもなく霧のように消えたのだけどーーーーーー
ーーーーーーなんだったんだろう…いまの……ーーーーーー
ウシくんは、その画像を思い出そうとするけれど、もちろん思い出す事は出来なかった。
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「エネルギーカード、すべてトラッシュ!翼竜の攻撃!」
「うん。」
「………」
ここは学園。『カードクラブ』の部室。
結局ウシくんは『カードクラブ』に所属したのだが……
「なんだよ、やる気ないのかよ。」
「………」
ウシくんはまだ、いろいろな事に立ち直れないでいた。
「……なぁ、原野」
「うん?」
「城イベントクリアして、戦争イベントに進まないか?」
「まーた、そんな事言ってるーーそれは無事、高校生になってから。って決めただろ。」
「うん。だけどさ……」
「勉強が嫌なのは分かる。けど、野崎と牛原と、俺と。3人で城はクリアしたいじゃん。」
原野はカードを集め、デッキを切りながらそう言う。
「………うん。」
ウシくんにも、それはわかっている。
「俺はさ……建築の方に進もうと思っている。」
「えっ?」
「ウチのじいちゃんが設計士だったんで、ドラフターがじいちゃん家にあってさ。」
「ドラフター?」
「うん。それな昔の設計用の可動式机なんだけど、じいちゃん結構すごい建造物建ててて、ちょっと感動した訳。もちろん現在は、3DCADとかで設計はするんだけど、世の中に残る建物。って、凄いな。って、なんか、俺もやってみたいな。って」
「……すごい」
「まぁ、途中で方向転換するかもだけど」
「それにしたって……」
「本当はゲームクリエイターとかになりたかったけど、俺にそんな才能はないしな」
そう言うと、原野は空を見る。
「ゲームクリエイターって才能、いるのか……」
同じく空を見る、ウシくんを不思議な顔で見て、何故か笑いだす原野だった。
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ーーーーーーキュウウゥゥゥ….…ーーーーーーーー
ゲームの起動音が鳴る。
「勉強が嫌。って言うのは否定しないけどさ……」
ウシくんはいつもと違う設定をクリックした。
「そうじゃなくて、やる気が出ない。って言うか……」
次々と設定をクリックしてゆき……そうして、3人目のキャラクター設定画面へとたどり着いた。
「1人目は俺の剣士。焔系。2人目は姉ちゃんの魔法使い系。で。3人目は新しく……○治郎の師匠。水系の侍。○岡さんみたいなキャラで、魔法は水と風。職業は……あれ?」
そこでウシくんの手が止まった。最初のキャラクター設定では選べないはずの高クオリティの職業。
大賢者。剣豪。豪傑戦士。などのレベルを上げないと、選択出来ないような、上位職業も普通に選べるようになっていたのだ。
実はこれは、ウシくん達が、『モニター』に参加していた特典で他にも、いろいろとゲームを進めやすくなるような特典が付与されているのだが……
「すげーー第2サーバーお得だなぁーー」
ウシくんはまったく気付いてはいなかったのだった。
「キャラ名は『アユム』剣豪で水属性。すごいのは第1サーバーで手に入れた武器が全部使える事。」
ウシくんは山のようにある武器の表示をザッピングするように流して、流して、クリックしていった。
「焔系はもちろん使えないけれど……あ。お。あー。風の剣はメンテ中だったか……」
武器は使うと消耗するので定期的にメンテナンスをしなければならない。クラフトスキルのレベルを上げると自分でメンテをする事も可能だが、ウシくんの場合は、ただ単に引き取りを忘れていただけだったりする。
「あ。そう言えば、『あれ』は使えるのかな?」
最初のキャラクターが焔系だったので使えなかった、裏ルートで手に入れた剣。光と氷の属性を持つ
『ホワイトムーンソード』
ウシくんがクリックすると……
「あ、持てた?」
レベル1のキャラが最強の剣を持って立つ。普通なら考えられない姿が、その場に存在した。
しかも本当はサーバー2からサーバー1へ行こうと思えば、特典を使って行けるのだが、ウシくんはまだその事には気付いていなかったりする。
ーーーーーーはじまりの町ーーーーーー
「さて。やっぱり着物だな」
ウシくんは防具屋へと足を運ぶ。
「でも。着物って防御力ゼロなんじゃ……」
とか言いつつ、着物と袴と外套を買う。
背の高いキャラを選んだので剣は腰にさしている。
「うん。」
ウシくんはおもむろに腰の剣を抜き、居合い切りように、ザッ‼︎と斜めに剣を振り下ろした。
キラキラと光と氷の粒が舞う。
「キャッ⁈」
と、何処からか小さな声が聞こえた。
「へっ?」
思わず周りを見渡すウシくん。
「あ。ごめんなさい。ゲームだから当たる訳は無いのに剣先がいきなり見えて、びっくりしました。」
そこには手の平くらいの小さな妖精が、羽根をパタパタさせて空中に浮かんでいたのだった。




