クリスマスイベント3(番外編)
ーーーーーー日曜日ーーーーーー
今日はソフトの早朝練習は無し。そう、期末テスト前。というのが、その理由だった。
「うーーん……チビダルマ捕まえたいなぁーー……」
教科書を広げ、ノートを広げ、鉛筆を鼻の下に挟んでも、頭の中に何にも入ってこないのは、誰しも経験した事があるんではないだろうか。
「あれ?今日はゲームしてないの?」
ふああーーっと、あくびをしながら、姉の結が起きて来た。
テレビもついてない冷たい静かな空間にふわっと風が通り過ぎる。
「今日は、テスト勉強!」
不機嫌そうにウシくんが答える。
「そう。どう?はかどってる?」
冷蔵庫のドアを開けながら、結はのんびりと聞く。
「………。」
ウシくんは眉間にシワを寄せながら、答えない。
ガサゴソ、ガサゴソと、結は冷蔵庫から、小さなチーズと清涼飲料水を手に、ウシくんの隣に座る。
「テレビつけてもいい?」
「勉強してるのにーーーー」
一応の反論。
「どうせ進んでないんでしょ?」
そう言うと、ポチッ!とテレビの電源を入れる。
テレビの中では、のんびりと旅番組を放送していた。
「ねぇ。私もゲーム始めてもいいかな?」
「え⁈」
突然の結の言葉に、ウシくんはドキッ!とする。
「今じゃないよ。クリスマス始まったら。」
「………クリスマス…もう始まってる。」
「え?マジ?どんなの?」
「時間かかるやつ……」
「そっかーーーー難しい?」
「そんなに……あ。そっか……」
途端。ウシくんの頭が水をうったようにクリアになる。
ゲーム内に第2サーバーが出来て、ハロウィン以降の新規プレイヤーは、そちらにログインするように設定されている。と聞いた。
新しいプレイヤーがクリアしやすいように、クリスマスイベントは、頑張ればクリア出来るように設定されているのかも知れない。
しかもイベントは、来年2月くらいまでプレイ出来るようになっているはずだった。
大手ゲーム会社とは違い。新しく参戦している、このゲーム会社は、クラウドファンディングで立ち上げた。と聞いている。
キャラクターの声も、ようやく、企画社員じゃなく、声優さんに変わった。と聞いた。
しかも、ストーリーに関しては、決められたエンディングではなく、キャラクターに搭載されたAIに任せた、マルチエンディングを模索している。
頭の中で霧が晴れるように、サーーーッとゲーム事情を理解したウシくんは。
「はーーーーっ……」
と、深い深いため息をつき。
「これくらい勉強も理解出来たらなぁ………」
と、頭をしずめるのだった。
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「あれ?珍しいね……2人?」
表向きは建設中になっている、ゲーム内の学園の中。準備室のドアを開ける、2人のキャラクターがいた。
「エッジくんと……セツ……ん?」
その瞬間。ドアの奥に立っている、原野の姿を確認して、プッ!とふきだすマノヤ。
一応、この準備室で先生をやっている。
「ほっといてくれよ。」
原野は不機嫌そうに口を尖らせる。
その姿は、低い男の子の声とは裏腹に、赤のメイド服に女の子用の鎧を着ているのだった。
「何人くらいに声をかけられた?」
マノヤは少し笑って、そう切り出す。
「「えっ?」」
驚く2人。
「僕も4人のキャラクターを持っているよ。1人は女の子。もう1人は戦士。そして、最近出来た、第2サーバーにも1人。」
指を一本ずつ立てて説明をするマノヤ。
それを点目で見る、原野と野崎。
「でも、カンストまでしたのは、このキャラだけで、他は放ったらかしだけどね。」
そう言うとマノヤはゆっくりと椅子から立ち上がり、2人分の椅子を部屋の奥から出してきた。
「このゲームは不思議でね。『戦争イベント』をクリアしないと、カンスト出来ないんだ。他のオンラインゲームでは考えられないけれどね。どうしてだと思う?」
「「………。」」
2人はわからない。というように顔を見合わせた。
「機会があったから、その事を尋ねてみたんだ。そうしたら……
『もちろん。記憶に残してもらう為に決まってるだろ!』
って。
『いつの間にか『レベルマックス』じゃ、寂しいじゃん‼︎』だって。」
マノヤは少し笑いながら、2人に椅子を勧め、2人が座ったのを確認して、こう問いかけた。
「それで、何があったのかな?」
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「俺たち、チビダルマ500匹集めたんです。」
原野がメイド姿で、そう話しを切り出した。
「そう。じゃあ後は、最終バトルだね。」
「そうなんですが……」
と、野崎が。
「牛原の奴がまだで……アイツだけ、ゲーム始めたのが遅いから……レベルがまだ……」
困ったような、怒ったような、複雑な声で話す、原野。
「うん。最終バトルもソロプレイだから、待っている事はないと思うよ。」
マノヤは落ち着いた声で話す。
「そうなんですね……」
同じく少し驚いて…でも、静かに答える野崎。
「そっかぁ……」
野崎と違って、あきらかに落胆する、原野。
「うん。とりあえず、待ってるのが暇なら……」
そう言うと、マノヤはタタタタ……と、現実でなにやらキーボードを打つ。
「『虹の指輪』を手に入れる為。『光の剣』を取りに行ってみるかい?」
「「えっ?」」
「ただし。期末テストで、ちゃんといい点が取れる自信があるなら。だけどね。」
マノヤはそう言って、2人に向き合う。
2人は顔を見合わせ……
「「やります‼︎」」
2人の声が、元気にハモった。
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「んーーと……めちゃめちゃ職業ってあるんだね。」
結はコントローラーを操作しながら画面をザッピングする。
「ホントにやるの?」
ウシくんが聞く。
「うん。気晴らしにね。」
そう言うと、結はひとつの職業を選択した。
「ブルーソーサレス?」
「うん。何かカッコイイじゃん!」
そう言って結は、ウシくんに笑いかけ、保存ボタンを押す。
結が作ったキャラは、青の短めの髪。細く小さな少女の姿。
名前は、ライ。
第2サーバーに所属し、職業は、回復、攻撃、どちらにも万能な魔法使い。ブルーソーサレス。
実はこの職業は、第1サーバーでは、レベル30にならないと選択できない職業だったりする。
けれど、そのお話しは、また、別のお話し。
「じゃ。オープニング長いと思うんで、歩。ゲームしていいよ。」
「え?」
「あ。あと、ログアウトの仕方だけ教えて。」
「うーーい。」
結からコントローラーを渡されて、ウシくんは自分のキャラを画面に出す。
「あ。そう言えば、姉ちゃんはいつゲームするの?俺が塾行ってる間?」
「え?別に、夜中だけど。」
「うえっ⁈」
「あんたと違って、夜9時に寝る必要はないもんねーーーー☆」
そう言って、結は明るく笑ったのだった。




