クリスマスイベント開始
11月の最期の週。珍しく3人で帰る帰り道ーーーーーー
「牛原!前っ!」
「えっ?」
ーーーーーーーーガツッ‼︎‼︎ーーーーーーーー
「…った‼︎」
ウシくんが電柱にぶつかった、鈍い音が響く。
慌ててオデコを抑える。
「大丈夫か?」
心配そうに声をかける野崎。
「…ったく、何やってんだよーーー」
呆れた声を出す原野。
「んな事言ったってーーーー」
オデコを抑えながら顔を上げるウシくん。と、何故か口から血が落ちる。
「「えっ?」」
「え?」
途端、2人に顔を抑えられて口の中を確認される。前歯の上が真っ赤になって、そこから血が滲んでいる。
「なんで、おでこを打って、口の中ケガするんだよ?」
「しょんなの…わきゃんないよーーーー」
抑え込まれたままウシくんは反論する。
「だいたい今日は、ボーーッとしすぎなんだよ。告りでもしたのか?」
「しっ!してっ!ないっ!///」
途端みるみる真っ赤になるウシくん。
「じゃあ、告られたんだな……」
ジト目で追い詰める原野。
「う…っ……///」
「言っとくがな、小学生の『大好き』なんざぁーー『パパ、ママ、大好き』と、同レベルだからな。」
「え?そうなの?」
点目のウシくん。
「そうだ!高校に行っても、そのまま『大好き』だったら、羨ましがってやる!」
「へ?」
「いまは羨ましくなんか、ないからなっ!」
原野はそう言って、まるで、ジャ○アンのようにズンズンと前を歩いてゆき。
野崎は苦笑いをし、ウシくんは目を丸くするのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……週末から『クリスマスイベント』で、その後テストかぁ……」
ゲームの電源を入れようとして、ウシくんは、空を仰ぎ、手が止まる。
「明日は塾だけど、範囲の確認だけしておこうか……」
そう言うと、ガサゴソと鞄を引きずり出して、コタツの上に鞄の中身をドン!と乗せたのだった。
ーーーーーーーー1時間後ーーーーーーーー
「ただいまーーーー」
姉の結と母親が一緒に帰って来た。コタツの上にノートを出して、何やら勉強しているウシくんを見て。
「キャー明日、雨が降る!雨がっ!いや雷かもっ!」
と、結が大騒ぎしたのは言うまでもない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー次の日 火曜日ーーーーーーーー
塾へと向かう原野とウシくん。
「はーーーーっ………」
深い深いため息をつくウシくん。
「どうした?」
不思議そうに尋ねる原野。
「昨日、夢を見てさぁ……」
「うん……」
「しっかり抱きしめたんだけど……実感がなくて……」
「………。」
「やっぱ、ゲームの中だからかなぁ……」
「…………せろ……」
「ん?」
「一発殴らせろ。」
「⁈なんでっ⁈」
襲いかかる原野。逃げるウシくん。でも、あっさり捕まって、ペシペシと気がすむまで背中を叩かれ続けるウシくんだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー同じく火曜日ーーーーーーーー
「おつかれーーーー」
「お疲れ様です。マノヤさん。」
ゲーム内学園の準備室。
「今日はどうしたのかな?」
「いえ。今日はこれといって用事はないんです。」
「うん……少し声が辛そうだね。声変わりかな?」
「あ……そう言えば、そうです。」
野崎は思い出したように答えた。
「原野はもう変わってて、僕はようやく。ってところです。」
「そっか。良かったね。」
「良かった?」
「カッコイイ声になるといいね。」
「あ。はい!」
ちょっと嬉しそうに、野崎は答える。
「そう言えば、ウシくんは………」
「はい?」
「声変わりって、するんだろうか?」
真面目な声で質問するマノヤ。
「えっ?」
たじろぐ野崎。
「なんだか、あの子が声変わりするのが、ぜん、ぜんっ、想像出来なくて………」
マノヤは、うーーーーん………と、遠い目をして、呟く。
野崎は横で苦笑いをして、そうして静かで穏やかな時間が流れていったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーキュウウゥゥゥ……インーーーーーー
ゲームの起動音が鳴る。登録してあるキャラクターの表示。場所。持ち物。ステータス。
と、そこに。
『クリスマスイベント』の赤いアイコンが追加表示されていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーー深い深い青と紫に彩られた森。そこは時間が止まったように生き物の姿が確認出来ない。
空は暗く灰色で埋め尽くされ、その道は延々と続いてゆく。
少し開けた森の先に小高い丘があって、そのダークブルーのお城は静かにそこに建って沈黙し、まるで凍てついた氷の世界のようだったーーーーーー
『アーズ!フィン!』
お城の中で、光の王子と闇の姫を呼ぶ声。彼女の周りは明るく輝き、小さなパステル色の光がクルクルと回り、まるで花がほころぶようだった。
『あ。ママさん!2人はここにゃーー!』
画面奥で手を振るケット・シー。
そこには遊び疲れて眠る双子の姉弟がいた。歳は10歳くらいだろうか?
『あらあら………』
彼女は微笑み、フィンを愛おしそうに抱き上げる。
『……ママ?』
目をこすりながら、弟アーズが目を覚ます。
『あら、アーズ。起きちゃった?今からみんなでお出掛けしようかと思っていたのだけど、フィンが眠ってしまったので、また今度にしましょうね。』
そう言って、2人の母親。光の女神である彼女は、フィンを抱いて子供部屋の寝室へと行ってしまった。
『ちぇーーっ……』
残されたアーズは、かなり残念そうに眉間にシワをよせる。そうして……
『ケット・シー?居る?』
そう、声を掛けた。
『……いるのは、いるけど……何か良からぬ事を考えているんじゃないのかにゃーーーー……』
いぶかしげに返事をする。
『あったりーーー‼︎』
それに対して、アーズは元気良く答えたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ううーーーーん……賑やかな所。と言えば、王子が産まれた年のクリスマスは、とっても賑やかだったから、そこでいいかにゃーーーー?』
『うん!賑やかで楽しい所なら、どこでもいいよ!』
色とりどりの光が空間を流れてゆく。ケット・シーの管理する時間の狭間。
『じゃ。着いたから、人の少ない路地裏に降りるにゃ。』
そう言ってケット・シーは右手を上げる。
光が生まれる。
と。
『わあっ‼︎‼︎』
突然現れた、アーズとケット・シーに、路地裏にいた魔法使いが驚いて大声をあげる。
『わーーーーごめんなさい‼︎』
思わずアーズは謝罪する。
と。
ーーーーーーーーガチャン‼︎ーーーーーーーー
魔法使いが持っていた鳥籠が手から滑り落ち、コロコロと転がってゆく。籠の蓋が反動で開き、中に入っていた1匹の白い小さな雪だるまが外へと転がり出てきた。
『スノウキッズ⁈』
魔法使いが慌てる。名前を呼ばれたスノウキッズは目を覚まし、嬉しそうにその場でピョンピョン飛び跳ねる。
『よーーし……いい子だ……こっちへ戻っておいで……』
魔法使いは慎重に手を伸ばす。
と。
その手から逃れるようにスノウキッズは後ろにピョン!と跳び。
ペコッ!と頭を下げると、次の瞬間。ピョーーン‼︎‼︎と高く高く跳んで、表通りの人混みの中に紛れこみ、その姿を消してしまった。
『あーーーーっ………』
絶望的な声を出す魔法使い。
『もう、終わりだ……あの子が人間界の食べ物を食べたら、果てしなく増殖して取り返しのつかない事になるーーーー‼︎‼︎』
そう言って頭を抱え、その場に崩れてゆく。
『ぞうしょく?』
アーズが不思議そうに呟く。それを聞いて魔法使いは頭を少しあげる。
『そうだ……町中がスノウキッズで埋め尽くされる。って事だよ。』
『『えええええーーーーっ⁈⁈』
魔法使いの言葉にアーズとケット・シーは驚きの声を上げるのだった。




