映像クラブのD(ディーノ)
「男子寮にも露天風呂あって良かったねーー」
ウシくんが楽しそうに言う。
「そういう問題か?」
少しふてくされたように原野が呟く。
「それにしても……」
岩で出来た断崖絶壁にある露天風呂。明らかに寮や学園の近くにはあるとは思えない風景。
「ここは一体どこなんだ?」
野崎は周りを見渡しながら呟く。
「思うんだけど、ここは学園のトイレの『用具室』と繋がっているんじゃないかな?」
「「トイレ⁈」」
ウシくんの言葉に2人は驚く。
「うん。たぶん。だけどね。」
岩に頬杖をついて、ウシくんは広い広い岩山を見つめた。
「……そっか…なぁ…話し変わるけど……」
と、原野。
「「うん?」」
振り向く2人。
「明日の……ソラさんがバイトで次の第2章は来週になったじゃん。明日さ…どうする?」
「レベル上げかなぁ……」
と、ウシくん。
「僕はモニターしなくていいなら、休みかな……」
と、野崎。
「ソフトも?」
「うん。」
「お母さん。まだ悪いのか?」
心配して聞く原野。ウシくんも一緒に次の言葉を待っている。
「ううん。だいぶいいんだけど、まだ長時間立ったりは疲れるみたいで……それに期末ももうすぐだし……」
「「あーーーーっ………」」
野崎の言葉に2人は落胆の声をハモらせるのだった。
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ーーーーーー次の日。日曜日ーーーーーー
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「なぁ……」
「うん……」
「……こんな事があるんだな……」
「うん。ここまで酷いのは初めてだ。」
原野とウシくん。2人はいま、アイラちゃんとアイラちゃんのお父さん。ノブナガさんと日曜日の『洞窟探検ツアークエスト』8人バージョンに参加していた。
『洞窟探検』はウシくんの話しを聞いていた原野が一度チャレンジしてみたい。と言って参加したのだが、原野を含め、初めてツアーに参加した人が多く。8人中6人がボス戦前で戦闘不能に陥って、床に転がっていた。
「死屍累々(ししるいるい)だね。」
「とわっ⁈」
いつの間にか、ウシくんの後ろに姉の結が立っていた。いきなり話しかけられて、びっくりして見ると、いつものパジャマ姿でなく、キチンと服を整えている。
「バイト?」
「ううん。今日はデートだよんーー」
「デート……」
「反応薄いなーー」
「どーせいつも通り友達とだろ?」
「まぁねーー」
「やっぱり。」
「ま。とりあえず行ってくるねーー」
そう言うと、結はバタン!とドアを閉め、行ってしまった。
「リレイズ‼︎」
アイラちゃんの蘇生魔法が飛んでくる。次々と復活するプレイヤー達。
結局のところ、このボス戦前では、アイラちゃんとノブナガさん。2人だけで2匹の門番のデビルオーク1匹丸々を2人だけで倒したのだった。
「ありがとうございます!」
「あざっす!」
「ありがとーー助かったよ!」
たくさんのチャットで埋め尽くされる中。
アイラちゃんは「よかったです。」の一言。
ノブナガさんのチャットは眼光鋭く。
「気をつけろ。」
と、まるでスナイパーのような一言だった。
で。
一瞬にして周りを凍りつかせたのだった。
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その後。無事にボスを倒し『探検クエスト』を終え。報酬をもらったところで。
「お兄ちゃん……」
アイラちゃんがウシくんに話しかけてきた。
「はい?」
返事をするウシくん。と。
「俺、一旦落ちるわ。」
と、話しかけてきた原野は同時だった。
「あ。うん。」
「ウィーー」
「またなーー」
と、原野はログアウトしてゆく。彼を見送ったところで、改めてアイラちゃんに話しかけようとするウシくんに「コホン!」と咳払いをするプレイヤーが……
思わず振り返ると、ノブナガさんが微動だにしないで、その場に腕組みで立っている。
「あ!ノブナガさん。ありがとうございます!メチャクチャ強くてびっくりしました!」
そこはそれ。少しマイペースなウシくんは躊躇せず挨拶をし、深々と頭を下げた。
ーーーーーーしばらくの間。
ノブナガさんからの返事はない。
「……お兄ちゃん。」
アイラちゃんがウシくんの服を掴んで名前を呼ぶ。
「コホン!コホン!」
ノブナガさんの咳払いが聞こえる。
「えっと…?」
要領を得ないウシくん。アイラちゃんは何か言いたそうに、でも困ったようにうつむいてしまう。
と。そこで。
ーーーーーーーーピピッ‼︎ーーーーーーーー
電子音が鳴り。ログイン場所『レベリング学園(仮)』にフォントマークが現れる。
「あれ?呼んでる?」
ウシくんはアイラちゃんを見た。
「?」
首をかしげるアイラちゃん。それを確認して。
「すみません。俺、なんか呼ばれているみたいなので、行きます。」
そう言って頭を下げ、ウシくんは手を振り、学園へとワープをした。
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ーーーーーーーーポン‼︎ーーーーーーーー
そんな音が聞こえそうな感じで、ワープした先は……
映像クラブ部室前だった。
「え?」
ウシくんは一瞬たじろいだが、しばらく考えて、考えるのがめんどくさくなって、普通にドアをノックした。
『入れ。』
どこか高圧的な聞き覚えのある声が返ってきた。
ーーーーーーあーーーー……ーーーーーー
心の中で虚脱感と言うか、諦め感というか……そんなため息をはいて、ウシくんはドアを開ける。
『よく来たな。少し話しをしてくれ。』
そこには第1章のイベントで登場した、映像クラブのDが居た。
続けて。
『昨日はすまなかった。』
あっさりと謝罪の言葉を述べる。
「なにが?」
そう答えながら近くの椅子に座るウシくん。
『君の言った『言霊』と言う言葉が頭に残って離れないのだ。過去を検索しても出てこない。』
「……言霊…あーーあれはね。」
『うむ。』
「母さんが良く言う言葉なんだ。『一度口にした言葉は取り戻せない。良い言葉を発すると良い事が、悪い言葉を発すると悪い事が起こる。そういう摩訶不思議な力が宿っている言葉』の事だって。」
『……摩訶不思議な言葉か……』
「うん。人に冷たい言葉ばっかり言ってると後になって、自分に全部はね返ってくるかも知れない。って。だから悪い言葉は心の中に。なんでもかんでも口に出さない方がいいよ。って。」
『……そうか…ありがとう。』
神妙に答えるD。その姿を見て。
「DってNPCだよね?」
ふと、ウシくんは聞いてみる。
『僕はNPCでもあり。AIでもある。だから学習能力はもちろん搭載されている。オリジナルは『ノブナガ』と言うプレイヤーから少しインストールされている。』
「え?」
点目のウシくん。
『なにか問題でも?』
「えええええーーーーっ⁈⁈」
次の瞬間。ウシくんの驚きの声が部屋中に響いたのだった。




